FF-D D+S New!夢物語

30 たとえ誰も認めなくても


 セフィロスはオリビアを担いで走っていた。
 山を下り森を抜け、草原を全速力で駆け抜ける。かつてミッドガルでの任務中にそうしたように、二人で並んで走るよりもセフィロスがオリビアを担いで走る方がずっと速く進む。

「コスモキャニオンへ行く。自分を見つめ直したい」
「そう、良いわね。星命学が盛んだそうよ」
「そうらしいな。受け入れられるかどうかはわからんが、行けそうなところが他にない」

 息も切らさずに走るセフィロスは、いつもよりも饒舌だった。脱走の高揚感と緊張感が合わさって、妙な興奮状態にある。

「俺は時々、誰かに呼ばれている。古代種は星と会話するというが、俺は古代種ではなかった」
「じゃあ、何に呼ばれてるの?」

 オリビアの問いに、セフィロスはやや暗い顔をして答える。

「厄災、だろうな。今日確信した。その声はいつも俺を何かに誘っている」

 オリビアはぎょっとして、セフィロスの背中をよじ登るように身を乗り出した。そして、セフィロスの顔を後ろから覗き込む。オリビアは心底心配していたのだが、そこには不適に笑うセフィロスがいた。

「安心しろ。いつも思考から閉め出している。ただ、それについて一つ分かったことがある」

 セフィロスはポケットをごそごそさせながら、川をひょいと飛び越える。ついでにポケットから取り出した彼の携帯電話をその川に投げ捨てた。川の中の大きな岩にぶつかった端末はぐにゃりとあらぬ方向に曲がる。そこへ更に、セフィロスは雷の魔法でトドメを刺した。携帯端末は川に落ちて、そのまま流されて行く。
 ちなみに、セフィロスの携帯電話は、屋敷に籠っている間にバッテリーが切れていた。既に何時間音信不通になっていたかもわからない。だが、それもハイデッカーがソルジャー部門を仕切るようになってからは、それでも全く問題にならなかった。
 かつてラザードが統括だった頃は、イヴとの定期連絡もマメに受けていた。近頃そんな連絡はトンとなくなり、セフィロスとしては時代が一つ終わったように感じていた。
 
 オリビアならホバー船でもないと流されそうな川を、セフィロスは一足で飛び越えてしまった。セフィロスの大きなジャンプと彼の携帯電話の処理を、オリビアは神妙な顔付きで眺めていた。

「心が不安定な時ほど、その声はよく聞こえる。実際に、俺はあの屋敷で声の意思に呑まれそうになっていた」

 オリビアは再度ぎょっとする。そのまま「声の意思に呑まれて」いたら、セフィロスはどうなっていたのだろう。

 オリビアが屋敷の資料室に着いた時、確かにセフィロスは見たこともないほど虚ろな表情をしていた。まるで別人のようにやつれて、仏頂面を越えてむしろ表情が無いとすら思えた。オリビアは絶望のあまりそうなったのだとは思っていたのだが、それが厄災のせいなのだとしたら考えるだけでも恐ろしい。
 背中に寒いものが走ると、オリビアは思わずぶるりと震えた。

「だから俺は資料室に篭もる度にオリビアを呼んだのかもしれない」
「あら。光栄だわ 」
「お前がいるとよく眠れる。まあ、そういう事だ」

 そこまで言うと、セフィロスは黙ってしまった。照れ隠しをするようにぷいとそっぽを向くので、オリビアはつい笑ってしまった。

 セフィロスはただのソルジャーではない。オリビアはずっとそう思っていたし、セフィロス本人も、彼を知る他の者も皆同じだった。「セフィロスだから」で済ましてしまっていた。だが、事実を知ってしまえば「当然」ではなく「必然」だったのだ。
 人間離れした身体能力と引き換えに、セフィロスは色んな物と戦ってきた。物理的にも、精神的にも、望むと望まざると、彼はこれまでよく耐え、戦い、勝ち続けて来た。
 セフィロスは常に、何に於いても勝ち続けなければならなかった。それは単に、会社から求められるソルジャーとしての勝ちだけではない。厄災の意思に負けることは即ち厄災に呑まれることだと、彼は本能的に悟っていたのかもしれない。

 英雄と呼ばれる事に疲れ、心身ともに疲弊し始めた頃に発覚した親友の生い立ちの真相、自身の出生の秘密はセフィロスにとって大打撃だった。鬱にでもなりそうなことばかりだったはずだと、オリビアは目の前の大きな背中をじいと見つめた。





「はあ。わたしはここで何してるんやろ」

 イヴはパンと音を立ててキーボードを叩くと、深いため息をつく。そのファイルを保存して、また次のファイルを開く。
 イヴは相変わらず、ソルジャー達の給与計算をしていた。ただし、そこはソルジャー指令室ではない。イヴは総務部に異動になっていた。
 遂にソルジャー部門が正式に治安維持部門に統合された。それに伴い「ソルジャー部門統括補佐」という肩書きや権限も消滅してしまったのだ。
 イヴは長年ソルジャー達の指揮系統を担ってきた。ソルジャー達とは戦友であり、仲間だった。時折タークス達とも協力し合っていた。
 しかし、いくらイヴが心配しても、もう彼らがどうしているかなど一切知らされることはない。もちろんタークス達とは顔すら合わせる事もなくなってしまった。
 入社して10年ほど。これまでとても充実していたし、それが当たり前に続くと思っていた。なのに今や一人総務部経理課に追いやられ、ひたすら給与計算だ。前ソルジャー部門の出納係として異動したので、事務仕事の内容は以前と何も変わらない。経理課が悪いわけではないのだが、イヴはとにかく納得がいかなかった。

2020/12/14
いよいよ佳境



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