6 夢に破れた
ザックスは工場のガラス窓を突き破った。できるだけ静かに内部に飛び降りる。ツォンも続くと、彼は辺りを見回す。薄暗く、がらんとした倉庫のような場所だ。
「侵入成功、と」
ザックスはそう言ったが、ガラスの割れる音を聞きつけたコピー達が集まって来た。ザックスは剣を構え、ツォンに目配せする。
「先に行け。ここは俺に任せろ」
ツォンは無言で頷くと、すぐにその場を走り去った。部屋の外周をぐるりと伝うように造られた階段をどんどん降りて行く。
コピー達は離脱したツォンを追い掛けようと標的を変えた。だが、ザックスがそれを阻むようにして立ち塞がる。ツォンを追おうとするコピーを、一人残らず薙ぎ払ってゆく。
ツォンが目的にしている部屋は、あらかた目星が付いている。まだオリビアからの連絡があった頃、彼女から報告が来ていた。そこに神羅から盗まれたコピー作成に関するデータがあるはずだ。科学部門がそのデータの解析を望んでいる。ツォンはデータを回収しなければならない。
ツォンは予め頭に叩き込んでおいた地図を頼りに、ひたすら走った。
「ここか……」
資料が並んだ部屋たどり着くと、ツォンは床に散乱したままの本や紙の山をかき分けてデスクに向かった。
デスクの上のパソコンを操作すると、彼の思惑通りの物が出て来る。そこから必要な情報を抜き取るのだ。ツォンは持ち込んだディスクにデータを取り込む作業に入った。
同時にツォンはタークス本部と連絡を取った。まだジェネシスは見つかっていないが、本人がいる可能性は極めて高い。それに、少なくともここにあるものの全てに始末を付けなければならない。
だが、ここへ来て問題が発生した。そこにあるはずの回収しようとしていたデータが、きれいサッパリなくなっている。
「どういうことだ。既に持ち去られたか……或いはオリビアが……? 」
ツォンはデータを諦め、一旦接続したディスクを取り外す作業に切り替えた。
ツォンが本部への報告を終えた頃、敵を蹴散らして来たザックスも部屋に入ってきた。ツォンはまだパソコンでの作業を続けている。
「ここでコピーを作っているようだな。2階へ行け。ジェネシスがいるかもしれない」
ザックスは直ぐに向かおうと踵を返した。
すると、天井の向こうから銃声が聞こえて来る。何発か鳴った後、直ぐに止んだ。
「なんだ? 銃声? 上の階か? 」
ザックスは足を止めて耳をそばだてる。キョロキョロと辺りを見回しながら、音の出処と気配を探った。
ツォンは作業の手を一旦止めて、天井を睨みつけるようにして階上の様子を伺う。
「今の銃は行方不明のタークスかもしれない。頼む、ザックス」
「わかった。そこにジェネシスもいたら大変だ」
ザックスは一目散に階段を駆け上がった。
ザックスが2階へ上がると、女タークスが拳銃を構えてジェネシスと対峙していた。女はあちこち傷だらけで既に息を切らしているのに対して、ジェネシスは武器も持たずに涼しい顔で悠々と立っている。
女がもう一発銃を撃った。だがそれと同時にジェネシスは一瞬で間合いを詰めて、女の首を片手で掴む。銃弾の軌道など、ソルジャー、それもクラス1stともなれば、あっさり見切れてしまう。
ジェネシスはギリギリと女の首を絞めながら、タークスを自身の頭よりも高く持ち上げた。
女は暴れて対抗している。けれど、女は小柄だった。バタバタと足を動かしてもジェネシスの赤毛をかする程度で、結局どこにも届かない。苦しげに顔を歪ませて声も出ない様子に、ザックスはいても立ってもいられなくなった。
「おいっ! 放してやれよ! 女の子だぞ! 」
抜いた剣の切っ先をジェネシスに向けて、ザックスは大声で叫びながら立ち向かって行った。全速力で走り、間合いに入り次第飛びかかろうとしている。ジェネシスは女の首を締めたまま、顔だけでザックスを振り返った。
「騒々しいな、子犬のザックス」
ザックスが仔犬呼ばわりについても文句を言おうとした時、追い付いたツォンも現れた。
「オリビアを放してもらおう」
銃を構えたツォンに、ジェネシスはフンと鼻で笑った。オリビアはだんだん抵抗する元気がなくなって、ぐったりし始めている。
ザックスがジェネシスの間合い入ろうとした時の事だった。ジェネシスは突然オリビアの首を掴んだまま、彼女をザックスとは別の方向に投げ飛ばした。突然の事にザックスもツォンも反応が遅れるが、オリビアが床に落ちることは無かった。別の男がもう一人現れて、オリビアをしっかり受け止めていた。
「アンジール! 」
ザックスが嬉しそうに名前を呼んだ。けれど、呼ばれたアンジールは険しい顔つきをしている。
アンジールはザックスの呼び掛けにピクリと耳を動かしたものの、反応はしなかった。激しく咳き込むオリビアを床へ下ろしてやると、アンジールは背負っていた大剣を抜いた。そして、ジェネシスにその切っ先を向ける。
「よう、相棒」
ジェネシスはアンジールにも、剣にも動じなかった。余裕の涼やかな笑みで、親友と向かい合う。
「結構。ついに心を決めたというわけだ。
幼なじみの意思は尊重しよう。しかし──」
ジェネシスはアンジールの真横をゆっくりと歩いて通り過ぎた。そして意味深な顔つきで振り返ると、射抜くような目でアンジールの目を見た。
「そっちの世界で、生きていけるのか? 」
アンジールは苦い顔をして、ジェネシスから目を逸した。じっと目を閉じると、どうにもやり切れないような表情をする。ジェネシスの言葉がよほど堪えたのか、顔付きは苦悶そのものだ。
「アンジール! 」
ザックスはアンジールに駆け寄ろうとした。彼は今までのように普通に接したつもりだったのに、アンジールは無言でザックスから顔を背ける。ただならぬ雰囲気に、ザックスは思わず脚を止めてしまった。
アンジールはジェネシスと連れだって去って行く。すぐさま追い掛けようとしたザックスを遮るように、アンジールは鋭い目でザックスを睨みつけた。足を止めて振り返っただけなのに、まるで見えない壁を張られたかのようだった。
アンジールの無言の拒否を受けたザックスから表情が消えた。金縛りに合ったように足が動かなくなる。ザックスには、もうそれ以上追い掛けることはできなかった。
一方オリビアは必死で呼吸を整えていた。ツォンがポーションを渡してやるが、なかなか上手く飲み込めない。喉をヒューヒューいわせながら、苦しげに胸を押さえる。
「無事だったか、オリビア」
「すみません、ツォンさん……」
迷惑をかけたと詫びるオリビアに、ツォンは気にするなと首を横に振る。
「タークスに失敗は許されない。だが、タークスの仕事は情報を守ることであり、戦う事ではない。1stを相手にして勝てるタークスなど、今の所いない」
オリビアは口の中で返事すると、再び身体を落ち着ける事に専念した。
しばらく後、ようやく息を落ち着かせたオリビアは、小さなディスクをツォンに差し出した。
「これ、ジェネシスコピーのデータです。科学部門から盗まれた物で間違いありません。途中で戦闘になって携帯が壊れたので、連絡できませんでした」
オリビアはどうにかして通信手段を確保する方法を探していたが、遂に見つかってしまった。そして、先ほどの戦闘へ移行して、首を締められたのだと言う。
「携帯は帰ったら始末書だな。さあ、行くぞ。立てるか? 」
「はい……」
オリビアは立ち上がると、足を引き摺りながら歩き始めた。
ザックスはアンジール達が出て行った方へ走った。けれど、既に彼らの姿は見当たらない。
「くそっ!どこ行った!?工場を出たのか!? 」
キョロキョロと辺りを見回しながら熱くなるザックスに、ツォンは冷静に告げた。
「時間がない、急いで村を出よう」
「あのふたり、捜さないのかよ!! 」
ザックスはツォンに噛み付くような勢いで抗議する。しかし、ツォンは表情を崩さずに淡々と答えた。
「不祥事の痕跡はすべて消す。それが我が社のやり方だ。この村は空爆されることになった」
ザックスの目が大きく見開かれる。彼には予想もつかない処置だった。
足取りの覚束ないオリビアを背負いながら、ツォンはザックスに再度問いかけた。
「アンジールの家には、本当に誰もいないんだな? 」
ツォンの問いに、ザックスは目を泳がせて何やら言い淀んでいる。ツォンは何かを察すると、ザックスを急かした。
「急げ! 」
ザックスは大急ぎでアンジールの家に向かった。
工場へ潜入する前、ザックスはアンジールの家を見付けていた。
アンジールの母親は一人で家にいた。ジェネシス一味に殺される事なく、村で唯一生き残っていたのだ。
けれど、空爆を前に再度ザックスが母親がを訪れた頃には、彼女は既に死んでいた。そして、彼女のすぐ側でアンジールが立ち尽くしていた。この時のアンジールの絶望的な顔は、ザックスの生涯忘れられないものの一つとなった。
2020/05/23
FF-D D+S New!夢物語
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