8 世知辛い現実に
いつものように仏頂面を貼り付けたセフィロスはソルジャー司令室にいた。これもまたいつものように壁に背を預け、腕組みをしたまま石像のようにじっとそこにいる。セフィロスの顔は部屋の内部に向かっていて、今まさに昇格しようとしている後輩を眺めていた。
「おめでとう。君は本日付でソルジャー・クラス1stに昇格だ」
ラザードはザックスに拍手を送った。それと同時にイヴはクラッカーを鳴らして場を盛り上げる。二人でできる限り盛大に祝おうとするのだが、ザックスは浮かない顔をしていた。
「あれ……あんまりうれしくない……」
ザックスはあれほど憧れていた1stになったのに、何一つ心が動かない。これには本人が一番困惑していた。
イヴはざっと過去を振り返ってみる。昇格してもあまり喜ばなかったのは、彼女が知る限りセフィロスくらいのものだった。多少捻くれていたジェネシスですら、1stに昇格した時の表情は誇らしげに見えた。
クラッカーを鳴らしたものの、本人のあまりの困惑ぶりに尻すぼみになってしまった。かといって、イヴは気の利いた言葉の一つも思いつかなかい。下手な事を言うくらいなら黙っておいた方が良いだろうと、イヴは何も言わないようにしている。
「無理もない。いろいろなことがありすぎた」
ラザードはそう取りなすと、自分の椅子に座った。イヴはクラッカーから飛び出たものをゴミ箱に捨てる。鳴らし甲斐のないクラッカーだったが、ザックスの心境を思えば仕方のないことだった。
イヴはぽんと手を打って、ザックスに声をかけた。伝えるべきことがあるを思い出したのだ。
「そうそう。ブリーフィングルームに1stの制服を用意してあるの。後で取りに行ってね」
「うん。わかった」
ザックスは笑顔でそう言ったが、すぐに浮かない顔に戻ってしまった。イヴもこれから彼に伝える任務の事を知っているだけに、心がどうにも重苦しい。
「ザックス。さっそくだが頼みたいことがある」
ザックスの耳がピクリと動いた。ガバリと後ろを振り返ると、セフィロスを睨みつける。
「また俺に任務を押し付けるつもりか? 」
ずっとその場にいるのに、セフィロスは見ているだけでじっとして押し黙っている。ザックスは不服そうに口をへの字に曲げた。
セフィロスは壁にもたれる姿勢を保ったまま、顔だけをザックスに向ける。
「……悪かった」
「いいけど」
セフィロスが素直に謝ると、ザックスも追及はしなかった。一瞬だけ二人の間に居心地の悪い雰囲気が流れたが、ザックスはさっぱりとした顔をしている。言いたい事をいうと、ザックスはくるりとラザードの方へ身体を戻した。
「さて、任務の内容だが。会社はジェネシスと配下たち、そして アンジールの抹殺を決定した」
ラザードが発した言葉にザックスは凍りついた。
ラザードに文句を言っても仕方がないのはザックスも分かっている。だが、率先してやりたい仕事ではない。思わず頭ごなしに拒否してしまいそうになるのをぐっと堪えて、もう少し詳細を聞こうとラザードに詰め寄った。
「それを俺が!? 」
「いや。神羅軍が投入される」
今度は拍子抜けしたザックスは、ズルリとズッコケそうになっていた。軍が投入されるなら、ザックスはこの作戦に必要ないのではないか。
「んじゃ、俺は? 」
「信用されていない」
大きな声で「はあ? 」と仰け反り、ザックスは不満そうな表情を隠そうともしない。セフィロスはカベにもたれたまま、じっとラザードとザックスのやり取りを聞いている。
「ソルジャーの仲間意識が行動を鈍らせる、とな」
「そりゃ鈍るさ」
ザックスはアンジールを思い浮かべていた。ザックスを指導し、1stに推薦したのもアンジールだ。ザックスにはアンジールを抹殺する事など、到底出来ない相談だった。
困った顔で考えあぐねているザックスに、壁から背を放したセフィロスはゆっくりと近づいた。
「だから俺も出る」
「抹殺に? 」
静かに告げるセフィロスに、ザックスは怪訝な顔をする。本気で言っているのかと言わんばかりの勢いで距離を詰めると、ザックスはセフィロスを見上げた。
ザックスは、もしも相手がセフィロスでなければ、それだけで腰を抜かしたかもしれないほどの気迫で迫っている。
イヴはザックス達のやり取りをを固唾を飲んで見守っていた。ザックスの新たな一面を見たようで、少々驚いている。
いつもにこやかで明るいお調子者のザックスは、アンジールにも劣らない熱血漢でもある。まるで本当の兄弟のようだったアンジールとザックスがイヴには重って見えた。
どうしてアンジールはジェネシスと共に神羅を去ってしまったのだろう。イヴが密かに現実に憂いていると、突然けたたましい音が鳴り響いた。不愉快なこの音はとにかく激しく、ビルのどこにいても聞こえそうな程だった。
「侵入者だ」
ラザードは努めて冷静な声で言った。
ラザードを始め、この統括室にいた面々は落ち着いていた。激しい警報音に驚きはしたものの、既にこの音の原因への対策を考え始めている。
警報音が鳴ると同時に、重要なデータや書類が納められている棚に次々とシャッターが降りてゆく。この会社のセキュリティは抜かりないなとイヴは関心するが、警報音が鳴るという事はそれを掻い潜って来た者がいると言う事でもある。イヴは戦闘員ではないが、これから指揮を執るラザードの補佐をすべく、気合を入れた。
「セフィロスは社長室へ! 」
「了解」
ラザードの指示を聞くや否や、セフィロスはあっという間に走り去った。力も去ることながら、1stともなれば、その身のこなしも尋常ではない。
「ザックスはエントランスへ」
「任せろ」
ザックスも部屋を出ると、一目散に駆けて言った。
その後もイヴとラザードは手分けして、ビルに待機するソルジャー達に片っぱしから電話で指示を出し始めた。
警報音が鳴って数分もしないうちに、社長室からメールが入った。ソルジャーはビルを、タークスは八番街の侵入者を排除するようにとのお達しだ。メールによると、ミッドガル中でモンスターが確認されており、既に相当な数がいるようだ。
街には神羅軍が投入されていて、厳戒態勢が敷かれている。もちろん、ソルジャー達もビルの敵を排除し次第、街や魔晄炉へ向かうようにとの指示も出されていた。
「ツォンは八番街か……」
メールに目を通しながら、イヴは寡黙な同期に思いを馳せた。
互いの入社時からの付き合いはそれなりに長く、割と親しい方だ。配属された部署柄、イヴはタークスの仕事の事も、ツォンの実力もある程度は知っている。だが、イヴがツォンと会うのはオフィスの中だけで、ラザードのように現場を視察する事もない。イヴはまだ、ツォンが戦っている姿を見たことがなかった。
「ま、大丈夫やろ。ツォンやし。そこらの一般兵より強そうやしな」
騒動が落ち着いたらメールしよう。イヴはそう決めるとインカムを装着した。ラザードからの司令や統括室のモニターの情報をソルジャー達に伝える事は、イヴの重要な仕事の一つだ。
「よろしく頼むよ。イヴ」
「はい! お願いします、統括」
こうして神羅の精鋭たちは侵入者の排除を開始した。
2020/05/27
FF-D D+S New!夢物語
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