3. 旧交
入隊式といっても、大層な物ではなかった。新兵を並べて、上官がそこにいる新人の顔と書類上の名前とを確認するだけだった。
とはいえ、式典は閲兵も兼ねていた。なんと神皇猊下が自らお出になったのだ。もちろん殿下も一緒だ。遠くに見える懐かしいお姿を拝めただけで、無理やりにでも来た甲斐があるというものだ。殿下は兄と同じ歳だが、既に聖竜騎士の訓練を受けているそうだ。いずれその一団を率いるために研鑽されていると聞く。
遠くにいる殿下と目など合うはずもない。きっとこちらの顔など、他の兵達に紛れているだろう。でも、それでよい。側でお仕えできずとも、どこか別の所から、戦以外の違った形でも国のために働く事はできるはずなのだから。
あっという間に式典は終わり、それぞれあてがわれた部屋へ向かった。日用品を支給され、訓練用の装備などをひと通り受け取り、日常生活の決まりなどの説明を受ける。全て終えた頃にはすっかり日も暮れていた。
式典が終わればトンズラする予定だったが、それは叶わなかった。やるべき事が次々に降ってきて、こっそり抜け出そうにもいつも誰かがいて思うように動けない。やっと門まで来てみても、固く閉ざされた門は許可がないと通してもらえそうに無かった。故に、未だここにいる。
本来2人共用のこの部屋は、幸い人数の都合で今は1人で使えることになっている。夜は魔物が活発になる。たとえ門を突破したところで無理して帰れるほどの力量も無い。今日は帰ることを諦めて、ゴロリとベッドに寝そべった。
「参ったなあ。やっぱり、無茶苦茶だったかな、兄さん」
思わずそうひとりごちると、急に疲れている事を自覚した。そのまま寝てしまいそうになっていたけれど、ドアがノックされて飛び起きた。
こんな新人に誰が何の用だろう。眠くて重い身体を引きずって、ドアを開けに行った。
「テランス!久しいな」
ドアを開けるなり、殿下が部屋に飛び込んで来た。何かの間違いかと思ったが、間違いなく殿下だった。
殿下はわたしの肩口を両手で掴み、嬉しそうに笑っている。
「で、殿下?」
わたしは混乱している。会えたら嬉しいとは思っていたけれど、まさかこんな所に来られるなんて思いもしなかった。眠気など既に吹っ飛んでしまった。
「ディオンと呼べとあれほど…まさかそなた、余を忘れたのではあるまいな」
悲しそうに殿下は眉を下げた。そういえば、子供の頃も「ディオンと呼んでくれ」と、呼び捨てにする事すら望まれた事を思い出す。まさかこのお方を忘れるなんて、記憶でも無くさない限り起こらない。
「滅相もありません。あなた様と過ごせた幼少の思い出はわたくしの一生の宝。ひと時も忘れた事はございません、ディオン様」
殿下の顔が、また嬉しそうに笑った。どこかホッとしたように見えて、それがとても嬉しかった。
「お元気でいらっしゃるようで何よりです」
「ああ、そなたも」
そう言って、殿下はぎゅうとわたしを抱きしめた。
「なぜ、ここがわかったのです」
「名簿に全て書いてあった」
殿下は当然だと言わんばかりだが、そんな事わたしは知る由もない。やはり色々と浅はかだったと思い知る。
「そなたの境遇は聞いている。苦労したのだろうな。お父上もお母上も、残念な事だった」
「恐れ入ります」
抱きしめる手を緩めると、今度はポンポンと肩を叩かれた。あまりの歓待ぶりに驚くばかりだが、こんなにも思われていた事がありがたかった。
「エリンは息災か。いつかまた会いたいものだ」
「ええ、是非。妹も喜びます」
我ながら、こうもスラスラと嘘がつけるものだと感心した。しかしそれは、殿下を騙しているのと同義でもある。胃と胸の辺りがチクチクと痛み始めた。
すぐに帰るはずだったのに。わたしは正直で且つ善良なる民だったはずなのに。テランスではなくエリンなのに。
自分の浅慮に打ちひしがれていると、誰かの声が聞こえる事に気が付いた。それは扉の外側、つまり廊下から聞こえてくる。数人分の声が殿下、殿下と呼んでいる。わたしは思わず殿下と顔を見合わせた。
「ああ、もう時間切れか」
残念そうなお顔でそう言うと、殿下は部屋の扉を開いた。途端にその声の主達がこの部屋に押し寄せて来る。
「余ははここだ。すまなかったな」
「殿下、何故かような場所に。黙って来られるなど…」
などと言う世話係たちの小言を聞き流し、殿下はわたしを振り返った。
「またな、テランス。励んでくれ」
そう言って、殿下は従者達に連れられて去って行った。
2023/07/12
FF-D D+S New!夢物語
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