D+S FF-D New!夢物語


4. 道

 トンズラすれば良い、というのは甘かったと認めざるを得ない。結局わたしは抜け出す機会を失い、兵としての生活を始める事になって数年が過ぎた。
 殿下は何かと理由を付けてわたしを側に置きたがった。殿下と再会したその日のうちに、殿下から毎朝お迎えに来るようにとの命が下ったのだ。殿下直々の命を断る事などできるはずもなく、毎朝殿下のお部屋でお世話をするようになる。
 
 兵として訓練に勤しむうちに、剣技は免許皆伝を頂いた。しかし体格はどうにもなず、当然ながら何をやっても男のような筋力はつかない。入隊から数年経った今、10代の娘にしては随分逞しい。だが兵士としては力も体力も足りなかった。

 いくら鍛えても線の細いわたしに、殿下は槍術を勧めた。同じ実力の者同士でも、剣が槍に勝とうとすると三倍の力量が必要だという。
 槍を扱えるようになると、今度は殿下と共に聖竜騎士団で訓練を受けるようになる。先頃叙任を受け、わたしは正式に聖竜騎士になった。体力と筋力では他の騎士達に劣るものの、その分小回りが効くことを見込まれたのだ。

 戦が起こればそこへ赴く殿下に付き従い、野営地で帰りをお待ちする。戦いで傷ついた殿下の手当てをし、時には愚痴を聞き、時折起こる癇癪にも付き合う。
 こうなったら、どこまでもお世話しよう。時々悲しい顔をする殿下を放っておけない。そう思ったら、いつのまにかトンズラしようなどとは思わなくなっていた。けれど、未だに本当はエリンの方だなどとは言い出せないでいた。
 
「テランス」
「はい、何なりと」

 殿下の長い外套を受け取りながら答える。さらに手袋も受け取った。
 遠征を終えた殿下に付き従い、久方ぶりに神皇宮へ帰って来た。殿下の諸々の用事にも付き添いようやく殿下の部屋へと辿り着いたところだった。

「明日は遠乗りに行くぞ」
「はい。しかし、お身体に障りませんか?」

 二日ほどかけて帰還したばかりだ。チョコボがあるとはいえ長旅には違いないし、先日は珍しく腕に怪我をして帰営されて野営地が騒然とした。

「疲れも怪我も大したものではない。だが、こうも戦続きでは気が滅入る」

 殿下は椅子に腰掛けると、ふうと息をついた。テーブルに肘をついてぼんやりと外を眺める殿下など、滅多に見られるものではない。

 父君である神皇は、殿下を常に戦わせている。戦果を上げ続けた結果、殿下は英雄と呼ばれつつある。しかし英雄など端から見るほど良いものではない。それだけ大勢殺しているということでもあるのだから。
 殿下はご自分で思っているよりも、ずっと傷ついている。それなのに父君は殿下を気にかける様子はない。時折り感じる殿下の寂しさは、こういう所から来るのかもしれない。

 チチチ、と鳥の囀りが聞こえる。殿下につられて窓の外を見ると、数羽の小鳥が優雅に通り過ぎた。
 皇宮は静かだ。見るもの全てが上品で綺麗に整えられている。数日前まで誰かの怒号や悲鳴ばかり聞き、目がチカチカするほど血を見ていたのが嘘のようだ。
 とはいえ、父君でさえ殿下を労うでもないこの場所に、その実殿下はあまり留まりたくないのかもしれない。
 
「余は、何か美しい物が見たい。そうだな…幼少の頃によく赴いたあの丘で、そろそろ飛竜草が咲く頃であろう」

 寝ているだけが休息ではない。幸い怪我もかすり傷だ。殿下の心が求めているなら、そうするのが良いだろう。

「承知しました。それでは、明日は弁当も用意させましょう」

 受け取った衣類を仕舞うと、わたしは厨房へ弁当の注文へ向かった。チョコボの様子も見てこなければ。
 する事はたくさんある。頭の中で、明日出かけるための算段をつけ始めた。

2023/07/12




FF-D D+S New!夢物語
- 4 -

prevnext

しおりを挟む

MODORU


↓選択できます↓