FF-D D+S New!夢物語


10 新しい居場所

 練兵場は兵士でごった返していた。アリーはディオンと共に、その数多の兵士たちに囲まれ無数の視線を浴びている。
 アリーは今、ディオンとの手合わせの約束を果たそうとしていた。周りの兵士たちは皆、その噂を聞きつけて見物にやって来た者達である。自国の皇子ディオンを相手に、ロザリアでの一件で鉄王国相手に大暴れした末に捕虜としてやって来たロザリア公女が、どの程度太刀打ちできるのかと興味津々であった。

 アリーは練兵場へ来るまでの間、アナベラに言われた事に悶々としていた。しばらく頭から離れないのではないかと思うほど思い悩んでいたはずだった。しかし、今ではそれが嘘のようにすっかり抜け落ちている。そのくらい緊張していた。

 双方共に得物は木製の訓練用に誂えられた槍ある。互いの背丈にそれほどの差はない。強いて言えば、ディオンが子供である分マードック将軍よりも的が小さいくらいだ。
 とはいえ、アリーの目の前で槍を構えるディオンは、確かにアリーよりも年下の子供だというのに、既に只者ではない雰囲気と気迫で満ちている。彼がとんでもない才能の持ち主であるのは明白で、集中して挑まなければ大怪我をしそうだ。今のアリーには絶望感に苛まれている余裕など全くなかった。

 ディオンは高く飛び上がった。そして、その勢いと重力までをも使った攻撃にアリーは目を見張る。
 ディオンは叙任こそ受けていないものの、既に竜騎士顔負けの戦いぶりである。その独特の闘い方は、苦肉の策で槍を持つようになったアリーには目から鱗だった。

 初めはアリーも剣術から始めた。尊敬して止まない兄が剣を扱っていたし、大抵のロザリア兵は剣を得意としていた。しかし、アリーは直ぐに分厚い壁に直面することになる。アリーの体格では、重い真剣を振り回すのは難しかった。
 剣身を細くすれば剣は多少軽くなるが、その分強度に劣る。また、剣身が短くてすれば扱いやすくなる分、間合いが狭まり危険である。長くすればそのぶん間合いは広がるが、重くもなる。
 アリーの骨格は華奢な方だ。この体格では、通常の剣では不利な条件が重なってしまう。そこでエルウィンと、アリーの師でもあったマードック将軍が考え抜いた末、槍はどうかということになった。
 槍なら剣よりも間合いが長いし、その重みすら利用して攻撃できる。アリーが扱うには剣よりも槍の方が合っていた。
 とはいえ、ロザリア軍に槍を扱える者は多くはなかった。マードック将軍もエルウィンも例外ではなく、彼らはアリーのために試行錯誤を繰り返した。

 そういった経緯から、アリーは竜騎士団に混じって稽古するのが楽しくてしかたがなかった。見ているだけでも勉強になる。
 アリーは決して竜騎士になるわけではない。むしろザンブレクにいる事すら嫌だった。それが今では進んで稽古に足を向け、ロザリアでそうしていたように、そこにいる兵士たちとも関わろうとし始めている。そうするうちに兵士たちもディオンやテランスのようにアリーを気にかけてくれるようになった。そしてその結果、この人だかりである。

 ディオンがまた飛び上がった。アリーは次に来る攻撃を避けるために、ぐっと地を蹴った。アリーはディオンの攻撃をひたすらかわし続けている。高い所からの一撃など、一発でも喰らえば失神しそうであった。

「逃げてばかりでは勝負にならぬぞ」

 ディオンはそう言うと、また飛び上がる姿勢を取った。ディオンのいう通り、防戦一方ではアリーはいずれ疲れて負けてしまう。体力があるのは、確実にディオンだ。
 アリーは賭けに出た。飛び上がろうとしているディオンの足に槍の柄を引っ掛けて、そのまま払い落とす。
 ディオンはバランスを崩して飛び上がるのをやめた。代わりに勢いのまま宙返りをしてなんとか着地すると、振りかぶって来たアリーと槍で撃ち合う。周囲の兵達からどよめきが漏れた。

 しかし、ディオンの方が上手であった。何度か撃ち合った末に力技に持ち込まれると、あっさり勝負が着いた。ディオンに槍を弾き飛ばされると、そのまま槍を突きつけられる。尻餅を着いたアリーは降参するしかなかった。

「参りました」

 アリーがそう言うと、周りの兵士たちから割れんばかりの歓声が上がった。ディオンの勝ちである。

「負けちゃった」

 アリーはディオンに引き起こされると握手した。試合を終えたディオンは、どこかホッとしたような顔で笑っている。

「しかし、足に槍をかけられた時は焦ったよ」
「名案でしょう」

 ディオンは、今後は気を付けようと言って微笑んだ。そこへテランスもやって来て、アリーの弾き飛ばされた槍を手渡した。
 アリーもようやく一息ついていると、集まっていた兵士たちの声が聞こえ始めた。

「姫様の噂は本当だったのか」
「鉄王国と勇敢に戦われたという話だ」

 などと聞こえると、アリーは声のする方を思わず振り返った。しかし、兵の数が多過ぎて声の出所はわからない。その後も、兵士達から見事だななんだのと、ディオンはともかくアリーまで褒めちぎられていた。

「ねえディオン。わたし、噂になってるの?」

 アリーが困惑してディオンにそっと尋ねると、ディオンはあっけらかんと答えた。

「ロザリアで派手に暴れたと聞いている。その事であろう」
「ええ、なんでも没収されたご自身の槍を、大切に扱うように要求されたとか」

 テランスにまでそう言われてしまうと、アリーは何だか恥ずかしくなってきた。それと同時に、その時に槍を預けた兵士も槍を持っていた事を思い出した。
 あの時アリーは必死だった。後先は考えているつもりだったし、守れるのもは全て守るつもりだった。だが、確かにそんな要求をしたのも、ちゃんと覚えている。もしその兵士が竜騎士なら今この中にもいるかもしれないと思うと、アリーはいたたまれなくなってきた。

 同時にアリーは急に恐ろしくなった。ロザリスを占領したのは正規軍だったし、一方的に追い詰められたせいでザンブレク兵とは戦うまでも無かった。しかし、一歩間違えば彼らの中の誰かを殺していたり、それで恨んだり恨まれていたかもしれないのだ。
 選ぶ余地は無かったとはいえ、いざ懐に飛び込んでみれば、竜騎士達は皆良い人達である。皆ディオンを慕い、ディオンも彼等をとても大切にしている。それを、アリーは在りし日のエルウィンやクライヴとロザリアの兵士達の関係に通じるものを感じていた。
 アリーは当然、まさかザンブレク兵達とこんな付き合いをするとは当時は露ほどにも思わなかった。何があるか分からないものである。
 急に顔を青くするアリーに、ディオンはそっと耳打ちした。

「アリー、どうした」
「ロザリアに、聖竜騎士団は来ていたの?」

 ディオンは首を横に振る。

「いいや、行っていないはずだ」

 正規軍だったから殺しても良かった、と言うわけでは決してない。けれど、アリーはディオンの否定を聞いてホッとした事に、自分でも驚いた。アリーが思っているよりも、アリーはこの環境に馴染んできている。

2023/08/06
我ながら陳腐だと思う



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