17 ただいま
アリーを乗せた馬車はようやく皇宮に到着した。コンコンと扉がノックされ、扉が開かれると、そこにはディオンが立っていた。
「ディオン!」
アリーは驚きと喜びに満ちた表情で名前を呼ぶと、ディオンも微笑んで手を差し出した。
「お帰り、アリー。お手をどうぞ」
ディオンにそう言われるや否や、アリーは馬車から飛び出した。
「ただいま!」
アリーが馬車の中からディオンに抱きつくと、さすがのディオンもバランスを取り切れない。足元をよろめかせながらも、彼はなんとか二人分の体重を支えた。
「おっと、と、」
強すぎた勢いを逃すために、ディオンはくるくると緩やかに回転する。ようやくアリーをそっと地面に降ろすと、ディオンは思わず安堵のため息をついた。
「ああ、あなたという人は。私は『お手をどうぞ』と言ったのに」
咎めるような口調ではあるが、ディオンの表情は柔らかい。彼はアリーの無事の帰還を心底喜んでいた。
「あら、ごめんなさい。まさか出迎えて貰えるとは思っていなかったものだから、嬉しくて。とても」
アリーは今やずいぶんと高い所にあるディオンの顔を見上げた。
「リチャードのこと、ありがとう。とても心強かったわ」
「それは良かった。彼には褒美を取らせるとしよう」
ディオンは帰還して馬車の近くで控えていたリチャードへ視線を寄越した。「大義であった」と声をかけると、リチャードはディオンに敬礼を返す。
テランスは馬車に残されたアリーの槍を取り出していた。点検まで済ませると、御者に合図をして馬車を車庫へ行かせる。
「ただいま、テランス。ありがとう」
「おかりなさいませ、アリー様」
テランスはくるりとアリーを振り向いた。一礼する彼も元気そうだ。戦帰りの二人の元気な姿にアリーはほっとした。
「二人も無事でよかったわ。大きな怪我も無さそうだし。いつ帰ったの?」
「ああ、ありがとう。昨日帰ったところだ」
そう言ったものの、ディオンの顔はみるみる陰ってゆく。
「…どうしたの?」
アリーは途端に暗く沈み始めたディオンに驚いた。同じように唇を噛むテランスの顔とを見比べていると、ディオンはぼそりと呟いた。
「あんな戦で怪我など負うものか。そもそもあれは戦とは言わぬ」
テランスもやるせない表情で下を向いた。
「召喚獣すら持たぬ軍勢を相手に、バハムートを以って一方的に虐殺したにすぎぬ」
アリーは思わず辺りを見回した。幸い周りに人は居ない。ディオンもわかっているのだろうが、決して人前で言うべき話題ではなかった。いかにディオンが団長として聖竜騎士団を率いていると言っても、その全権は神皇にある。聞きようによっては反逆や不敬と捉えられかねない内容だった。
「ディオン様、ここでそのお話は…」
すかさずテランスが止めに入ると、ディオンも素直に従った。
「ああ、すまぬ。そなたの言う通りだ」
気を取り直すようにディオンは表情を和らげると、アリーの肩をそっと抱いた。そのままエスコートしながら歩き始める。
「アリー、明日は私の部屋に来ぬか。美味い茶菓子が手に入った故、あなたと共に食べたい」
「まあ、ありがとう。伺うわ」
アリーはこれからアナベラの元へ謁見に行かねばならない。視察として派遣されたからには報告が必要である。そう思うだけで、アリーは俄に緊張し始めた。それなのに、その上隠し事まで作って来てしまったアリーは、余計に憂鬱である。
とはいえ、シドやマーサとの一件は死んでも秘密で押し通さなければならない。彼等や彼等の保護したベアラーの命がかかっている。
「槍はお部屋へお運びいたします」
「ありがとう、テランス」
テランスは一礼すると、アリーの部屋へ向かって歩き始める。アリーはディオンと共にアナベラの待つ部屋へ向かった。
部屋の前まで来ると、ディオンは片手をポンとアリーの背に置いた。ディオンのエスコートはここまでである。後はアリーの仕事だ。
「では、待っているぞ」
「ええ、また明日。ありがとう」
緊張した面持ちで扉に手をかけるアリーを見送ると、ディオンは自室へと引き上げていった。
2023/08/21
FF-D D+S New!夢物語
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