2 出征
「お帰りなさい、父上」
チョコボから降りたエルウィンに、真っ先にジョシュアが駆け寄った。
「ありがとう、ジョシュア。変わりはないか」
「はい、父上。今日は兄上と姉上の稽古を見ておりました。兄上は初めてマードック将軍に勝ちましたよ」
嬉々として伝えるジョシュアに、エルウィンは目を細めて微笑んだ。
「そうか、それはすごいな」
エルウィンはジョシュアから視線をクライヴに移すと、表情を神妙なものに変えた。クライヴは緊張し始める。
「クライヴ」
「はい、父上…いえ、殿下」
クライヴは先頃、ナイトの叙任を受けた。一人前の剣士になったという事である。だが、もう子供としては扱われないことに、彼はまだ慣れていない。
「鉄王国が動き出した。戦が近い。覚悟しておけ」
クライヴは俄かに戦慄を覚えた。彼はナイトにはなったが、人を相手に戦った経験はまだない。戦になれば、それが彼の初陣となる。
この国は古くから幻獣フェニックスに守られている。フェニックスは代々太公家の者のみに宿り、その力に目覚めた者はドミナントと呼ばれる。ロザリアでは代々ドミナントが太公となり、国を治めていた。
現太公であるエルウィンは力を持たずして生まれたが、彼の息子ジョシュアはフェニックスを宿した。故に、彼は第三子でありながら次期太公として育てられている。
また、ロザリアではフェニックスを守る事を誓った騎士をナイトと呼ぶ。ナイトはフェニックス本人に選ばれ、叙任の際にフェニックスの祝福を受けるのが慣例である。それにより、ナイトとなった者はフェニックスに与えられた火の魔法をクリスタルが無くても使えるようになるのだ。
本来なら、クリスタルを介さなければ魔法は使えない。その使えないはずの魔法を使えるのは、ドミナントとベアラー、そしてフェニックスのナイトのみであった。
ドミナントもナイトも、この国では尊敬される。しかしベアラーだけは別で、ロザリアに限らず、どこの国でも奴隷の扱いを受けていた。
クライヴが使命感とその重圧、不安をよりはっきりと感じ始めた時、エルウィンはアリーにも声をかけた。
「アリー、槍はどうだ。使えそうか」
エルウィンはアリーと、彼女の背に背負われた槍に視線を移した。
「はい、父上。クリスタルを槍術と共に使えば、わたしの足りぬ腕力を補う事ができそうです」
「それは良い。とはいえ──」
いつもの口上、つまり有事の際はあくまでも逃げるために使うようにとのエルウィンの話を聞き、アリーは素直に首を垂れた。
次いでエルウィンはジルにも声を掛け、彼女に抱かれたトルガルの頭を撫でた後、自室へと引き揚げて行った。これから戦の準備だと、城内は突然右往左往の大騒ぎである。誰も彼もが慌ただしく動き始めた。
翌日の朝一番、太公エルウィン率いるロザリア軍はロザリス城下を出立した。敵国との戦いの前に、一行はフェニックスゲートと呼ばれる要塞へ赴く。そこで戦の前の儀式を行い、天啓を仰ぐ事になっている。
儀式は古くから続くロザリアのしきたりの一つで、ドミナントが執り行う。それは10歳の身体の弱い少年に対しても例外でなく、ジョシュアもエルウィンと共に要塞へ向かう事となった。
エルウィン一行を見送った後、クライヴも少し遅れて出立しようとしていた。彼はエルウィンにより、別の任務を任されている。先にそれを済ましてからフェニックスゲートに向かうのだ。
「がんばってね、クライヴ」
ジルは泣きそうな顔して、じっとクライヴを見つめていた。クライヴは緊張で引き締まった顔をしているものの、ジルに優しく微笑み返している。
「行ってらっしゃい。ジルを泣かしたらだめだよ、兄さん」
どういう事だと言いながら、クライヴも2人の従者と共に出かけて行った。
「また戦が始まるのね…」
「うん。戦なんて、早く終わればいいのに」
不安そうなジルとアリーは手を繋いで城へ戻ろうとした。しかし、そこでふと気がついた。トルガルが何処にもいないのだ。
冷たい風が吹き抜けた。アリーのワンピースの裾を揺らし、膝小僧を冷やしてゆく。今夜は冷えるかもしれないと、2人はさらに顔を青くしてトルガルを探し始めた。しかし、城の中も、そこに続く街も、どこを探しても見つからなかった。
その晩、アリーとジルは、クライヴとジョシュア、そしてトルガルが無事に戻るようにと祈った。月と、その側に浮かぶメティアと呼ばれる赤い星に願いを掛けるのだ。
今やロザリアどころか、この大陸中のあらゆる場所で戦が幾つも起こっている。天下太平には程遠く、紛れもなく乱世であった。
戦など無くなればいい。アリーは床についても尚、祈りながら涙を落とすジルの顔が頭から離れなかった。
2023/07/22
FF-D D+S New!夢物語
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