FF-D D+S New!夢物語


23 戦の合間に

 ウォールードとの交戦は負け戦に終わった。それも大敗であった。
 ディオンが戦で皇都を留守にしている間に皇都で小競り合いまで起こり、すぐに鎮圧されたものの中枢はその処理に手間取った。そのせいで援軍は送られず、既に窮地に立たされていたザンブレク軍は苦戦を強いられる事となる。ディオンの奮闘も虚しく、ウォールード王国に大敗を喫する事となった。
 この戦は、両軍共にドミナントを出す大戦であった。ウォールード国王はオーディンのドミナントである。国王自ら前線へ赴き、多くのザンブレク兵たちを一瞬にして葬り去ってしまった。
 また、先日脱走したベアラー兵には逃げられ続け、ノルヴァーン砦もまたウォールード軍によって落とされた。なんでも、砦は突如現れた火のドミナントによって解放されたという。ザンブレク軍は失態続きである。

 ディオンはオーサ海峡の砦に駐屯していた。先日の戦で多くの犠牲を出した事に心を痛めるディオンだが、彼もまたオーディンから受けた傷の療養中である。石化の部位は未だ狭い範囲に留まっているが、時折激しく痛む事があった。
 ディオンは腕の石化を気にして、戦闘が終わっても小手を身に付けたままにしている。駐屯地に於いて生活には少々不便でも、防具を着けたままにしていても変に目立つことはなかった。
 ディオンは自身の石化の兆候を人に知られる事が、ひどく恐ろしかった。国の象徴たるバハムートが自身の力に屈するなどとはあってはならぬと、ディオンは自身を責めている。国を守る翼であり続けるためにも、自分を慕う軍の者のためにも、この事は誰にも知られないようにしていた。ディオンの石化の事を知るのは、ディオン本人とアリー、そして彼の身の回りの世話をするテランスだけである。

 ディオンは椅子に腰掛けて、側に置かれていたゴブレットの水をぐいと飲み干した。戦局は極めて悪い。援軍が見込めない事が分かると、自分が働くしかないと普段以上に力を使った。連戦につぐ連戦で、流石のディオンも疲れを自覚し始めている。
 ディオンが思わずため息をついた時、開け放された天幕の向こうからテランスが早足でやって来るのが見えた。

「ディオン様、神皇猊下より書簡が届いています」

 ディオンが手を伸ばして催促すると、テランスは丸まったままの羊皮紙をディオンに手渡した。紙を広げて文書に目を通すと、ディオンは再び大きく息を吐いて天幕を見上げた。

「今のうちに戦いの傷を癒せ、か」

 手紙には、すぐにディオンの召喚獣の力が必要になると書かれている。つまり、神皇はまた他国への進軍するよう命令を出した。この負け戦は全く眼中に無いようで、ディオンは困惑する。それに、このままでは傷の癒える暇などない。
 ディオンはふと机の上の一輪挿しに活けられた飛龍草へ視線をやった。出兵する際に父親から贈られたその白い花が、じいとディオンを見つめている。まるで父親の代わりにディオンを見張っているかのようで、ディオンはそっと目を逸らした。

「テランス。父上より、また戦を仕掛けよとのご命令だ」

 本当なら、ディオンはすぐにでも皇宮に帰りたかった。無事だと聞いてはいるが、皇宮に残るアリーの事が気がかりである。それに、手紙の内容と、父の真意を確かめたかった。しかし実際には、神皇は彼を呼び戻すどころか次の戦の事しか考えていない。

「クリスタル神殿の地下は、既にエーテル溜りができている。このまま広がれば皇都には住めなくなる。かと言って、クリスタル自治領へ進軍とは…」

 テランスは驚いた。ハッと息を飲むと、困惑した表情をする。

「不可侵条約を無視する、という事でしょうか」

 ディオンは頭を抱えてそうだと答えた。くるくると書簡を丸め直すと机の上に置いて、垂れ下がった前髪をかきあげるようにしてまた頭を抱える。

「残念ながらそのようだ。皇都を遷都するとのお考えは以前からお聞きしていた。しかし、斯様な暴挙が罷り通ってなるものか。もしも強行すれば、今後各国からの風当たりも強まる事だろう」

 ディオンは父の顔を思い浮かべる。彼の父が彼に向ける瞳はいつも冷たかった。
 父に引き取られた時に、実は金銭のやり取りがあったと知った時には愕然とした。それでも皇子として生きる以上は、民のために身を捧げようと誓った。聖竜騎士にもなった。立派な為政者たる父に応えたいと必死だった。そのはずなのに、ディオンは一体どこで間違えてしまったのか。彼にはわからない。
 オリヴィエが生まれてからは、父からの扱いの差に愕然とするようになった。自分が幼い時ですら、父はオリヴィエに向けるような優しい顔を自分に向けた事など一度たりとも無い。初めて見る父の新たな表情に、彼は虚しさを覚え始めたのだった。
 ディオンは幼少の頃から、父の期待に応えれば父に愛してもらえると無意識のうちに期待していた。もちろん民への想いも本物であるが、父に認められたいがために必死になっていたのだと、この頃ようやく気がついた。神皇はディオンのバハムートの力を常にあてにしているが、ディオンはそれに耐えられなくなりつつある。
 もしも無理やりに帰還したとしても、やはり嫌な気持ちになるだけだ。勝手な行動を咎められる上に、またオリヴィエへの溺愛っぷりを見せつけられるのも癪である。ディオンは目を瞑り、何度目かの重いため息をついた。
 どんよりと暗く沈んだ雰囲気を裂くように、白いフクロウが飛んできた。それは迷わずまっすぐにディオンの元へやって来る。

「今度はアリーだな」

 ディオンが前腕を止まり木のようにして高くかざすと、ストラスはそこへ止まった。瞳の光をディオンに映すと、アリーの伝言が直接ディオンへと流れ込んでくる。
 ストラスの伝言は、ザンブレク軍が大敗したと聞いて心配したアリーの安否確認であった。ディオンは頬を緩ませる。

「アリーは元気そうだ。我々の心配をしているらしい」

 テランスもそれを聞いて微笑んだ。近頃暗い話ばかりだ。そんな中での友人の無事の知らせは特に嬉しかった。
 テランスは道具箱からストラスの餌を取り出すと、それを幾つか自分の手のひらに乗せた。その手を近づけると、ストラスは夢中でつつき始める。オリフレムまでの長い旅路で力尽きぬように、無事にアリーの元へ戻れるようにと願いを込めた。

 ディオンは、少々怪我はしているが、自分もテランスも無事であるとストラスに託した。ついでに追加任務でまだ帰れない旨も付け足すと、呪文を唱えてストラスをアリーの元へ返す。
 バサバサと羽音を立てて飛び立ったストラスを見送ると、テランスはディオンの手当てが済んでいない事に気がついた。

「ディオン様、そろそろ包帯を取り替えましょう」
「ああ、頼む。いつもすまない、テランス」
「喜んで」

 テランスはにこやかに返事をして、薬箱を取り出した。椅子に腰掛けるディオンの足元に座り込み、シャツに手を伸ばす。ディオンの腕と胴の包帯をはずすためには、シャツを一旦脱がさなければならない。
 黙々と作業するテランスの手元を見つめながら、ディオンはポツポツと話し始めた。

「そなたは余の生涯の友だ。しかし友であるはずなのに、そなたとは対等ではない。それどころか余の世話までさせているのを申し訳なく思う」

 ディオンの寂しそうな声に、テランスは手を止めて彼を見上げた。そして、身を乗り出してそっと互いの額を付ける。

「あなた様にお仕えできる事は、私の誇りであり、喜びなのです」

 額を合わせたまま、テランスはじっとディオンを見つめた。そこには友情以上の熱い何かが含まれている。しかし彼は、その熱を他の者がいる時には彼はお首にも出さない。いつの頃からか、ディオンと二人きりになると、テランスは時折こういう目をするようになった。

 ディオンは考える。もしもアリーがいなければ、自分はテランスの情熱を受け入れただろか、と。本音で話せて、自分の弱みをも受け入れてくれるのはアリーも同じだ。しかし、ディオンが誰よりも信を置き、たとえ戦いの最中でも背中を預けられるのはテランスだけである。ディオンがどんなに無茶をしても、ディオンが望む限りテランスはどこまでもついて来てくれるだろう。もしかしたら、むしろディオンは自分から求めていたかもしれない。
 しかしディオンはそこまで考えると、それ以上考えるのをやめた。一度でも縋ってしまったら、二度と元の関係には戻れなくなりそうだ。それに、そうなると二人の関係を世間から隠し、誤魔化し続けなければならなくなる。ディオンはそれがとても恐ろしいと思った。
 テランスはディオンにとって心の支えである。テランスはアリーがやって来るずっと前から、ディオンが弱音や弱みを見せてもつけ込まれないただ一つの拠り所であった。
 テランスの気持ちには応えられない。しかし、ディオンにテランスを手放せるかというと否だ。どうしたら良いのか、ディオンにはわからない。もうこの話は終いにしよう。そう思ったディオンは別の話を始めるとことにした。

 「これから、どうなるのであろうな。父上は──」

 唯一神に足を向けるのか──と言いかけて、ディオンは口を継ぐんだ。2人きりの天幕の中とは言え、聞こうと思えば聞ける環境だ。誰に聞かれるか分かったものではない。ディオンは自分を窘める。額も離してしまった。

「いいや、何でもない」

 ディオンを追求する事もせず、テランスは作業を続けた。手際よく包帯を外し、胴の傷の消毒をし、新しい包帯を巻き直す。それが終わると、次は右腕に巻かれた包帯を緩め始めた。
 包帯の中から灰色をした皮膚が現れると、テランスは急に悲しくなった。テランスはこれまで幾度もディオン怪我を手当てしてきたが、これだけは訳が違う。知らず知らずのうちに涙が彼の頬を伝っていった。

「テランス…そなた、泣いているのか」
「申し訳ありません」

 テランスははっとして、自身の袖で慌てて涙を拭った。

「石化した部分が、少し広がっているようです。ディオン様、どうかお労りください」

 テランスはディオンの右手を握りしめて懇願した。しかしディオンはゆるゆると頭を横に振る。

「すまぬテランス。それは約束しかねる。この翼は、民を守るためにある。それが余に与えられた使命。この身を捧げられるなら本望だ」

 優しい口調で穏やかに拒否されると、テランスはそれ以上何も言えなかった。ディオンの意思が固いのは彼の知るところではあるが、自己犠牲が過ぎる。それを知ってか知らずか、神皇の戦への要求は容赦がない。

「だが、ありがとう。そなたやアリーが余の代わりに泣いてくれる。それで十分だ」

 この話は終いだと言わんばかりに、ディオンは口を閉じてしまった。テランスは薬を石になりつつある部位に塗り込むと、油紙を敷いて新しい包帯で覆ってゆく。薬といっても気休め程度だ。テランスは無力感でいっぱいだった。

 その後ザンブレクはクリスタル自治領へ進軍した。バハムートの威光により無血開城で決着したその土地を、神皇は新しい皇都にしてしまった。諸外国から反感を買ったのは言うまでもない。ザンブレクはこの乱世の中に、新たな嵐を吹き荒らした。

2023/08/19
ロザリアではみんなストラス飛ばしてたし、シドもクライヴも隠れ家にストラスを持っていたみたい。けど、野営地でディオンが受け取るのはみんな紙なんだよな。なんで?ストラス使わないの??と、思って。
ディオンは忙しいから代わりに誰かが受け取って書いとくとか?でもそれは直接聞いた方が良くないか??まさか毒味がいるような感じでは無いと思うけど。



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