26 気に入らない
ディオンはイライラと頭を掻きむしった。自室へ入るや否や、椅子を蹴飛ばす。その衝撃でテーブルに置いてあった一輪挿しが揺れた。あまりの荒れように、ディオンの部屋で待機していたテランスとアリーは驚いた。
「ディオン様?どうされたのです。これは、会議で何かありましたね」
テランスに返事もせずに、ディオンはテーブルに両の拳をドンと叩きつけた。まだ蹴飛ばしていない方の椅子へ力任せにどかっと座ると、重いため息をつく。赤い薔薇が驚いたように揺れるのを、ディオンは何とも言えない苛立ちと動揺の中で眺めた。
薔薇はアリーが庭でもらって来たものだった。ディオンの部屋は殺風景だと言い、見舞いに来て以来アリーは時折勝手に花を飾っている。それを楽しんでいるが、彼は飛龍草の方が好きである。しかし、ディオンはこの時、この薔薇がこんなにも自分を宥めてくれるとは思ってもみなかった。
「父上は、昔とは変わってしまわれた。全く何をお考えか」
ディオンはそのまま頭を抱えた。彼は神皇夫妻や五賢人たちとの会議を終えたばかりである。
先日、遂にダルメキアとの戦が始まったが、ザンブレクが圧倒的に優位であった。そこで、ダルメキアから停戦を申し入れて来た。会議はそのためのもので、ディオンは急遽帰還したのだった。ディオンはテランスとアリーに、会議の内容を話し始めた。
テランスはディオンが蹴飛ばした椅子を起こすとその椅子にアリーを座らせ、自分はディオンの側に立つ。2人はそうしてディオンの話に耳を傾けた。
ダルメキアとの睨み合いに身体を張って牽制しているディオンだが、ダルメキアと密談をして来たオリヴィエの功績ばかりを讃えられていた。それに、五賢人達は一方的に自治領を侵略した事を棚上げし、ダルメキアから多額の賠償を迫ろうとしている。
どちらも気分は悪い。しかし、ディオンにとって最も受け入れ難いのは、彼の父親がディオンに命じた事である。神皇は、ダルメキア軍から賠償を受けた後、彼らを撤退させずにバハムートで焼き払えと平然と言ってのけたのだった。
「とはいえ、余は反論すらできなかった」
ディオンは力無くそう言って、それまで抱えていた頭を持ち上げた。ディオンは自らの帷子の胸に挿された飛龍草を手に取って、その白い花びらを見つめる。それはつい先ほど、父親が命令と共にディオンに送ったものであった。
「急ぎ陣へ戻れとのお達しだ。支度をせねばなるまい」
大きなため息をついて、ディオンは側に控えるテランスを見上げた。
「しかし、ディオン様。もしもディオン様がダルメキア軍を焼き払った場合、向こうもタイタンを出すのでは?」
そうなると市街地への被害は甚大になる。この城とて、無事には済まない。
「いや…父上曰く、タイタンは遠くで戦をしているらしい。急いだところで到底間に合わぬ、と」
この頃、タイタンのドミナント・フーゴは私怨のために私兵を動かし、ロザリスでクライヴと戦っていた。それにはアナベラも一枚噛んでいるのだが、皇宮にいるアリーはもちろん、ディオンにも詳しい事は何一つ知らされていない。
「遠くって、タイタンはどこにいるの?」
「ロザリアだそうだ」
アリーはそれを聞いて驚いた。ザンブレクは現在、ロザリアにた兵のほぼ全てを自治領の守備のために割いている。フーゴが来ると分かっていながら、兵を撤退させた事になる。
「私も詳しくは分からぬ。いくら鉄王国が瓦解したとはいえ、ザンブレクの本隊はこちら側であるのに」
「ロザリア、大丈夫かしら。あそこには思い出がたくさんあるのに。壊れてしまうのかしら」
ディオンは立ち上がり、俯いてしまったアリーの肩を抱いて励ました。しかし暗く重い空気はどんよりと3人を包んで離さない。
「ねえ、ディオン。腕は、身体は変わりない?」
「今の所は。だが石化は止まらぬようだ」
ディオンがシャツの袖を少し捲って見せると、出陣前にアリーが見た時よりも包帯を巻いた部分が増えている。アリーは不安でたまらない。
両国が停戦に合意をするまで大きな動きは無いと見込まれている。だが、ディオンが牽制のために顕現する事は十分にあり得る。テランスもアリーも、それが一番の心配の種であった。
「戦なんて、無くなればいいのに」
「全くだ」
憂鬱そうにそう言うと、ディオンはテランスに目配せをした。そろそろ彼らは陣地へ戻らねばならない。
ディオンは一輪挿しの薔薇を花瓶から取りだすと、自身の鎧の胸に挿し直す。そして、手にしていた飛龍草はテーブルに置いた。白い飛龍草はディオンから目を背けるようにくたりとしている。ディオンはその日のうちに陣へと戻って行った。
その後、鉄王国のマザークリスタルに次いで、ダルメキアのマザークリスタルも相次いで破壊された。
何も大罪人シドの仕業である。また、それに際してタイタンも死亡し、大陸中を震撼させる事となった。
2023/09/07
本来なら飛龍草はそのまま野営地に持って行って、オリヴィエ即位の報せにディオンが怒って暴れた時に落ちるんですけどね。ここでは置いていって頂きました。
飛龍草は最初こそザンブレクの象徴、むしろディオンの誇りの象徴だったろうけど、この時点では呪いでしかないと思う。そしてそれを神皇によって押し付けられ、オリヴィエによって地に落とされ、アナベラに踏み躙られる、と。要らんやん置いて行こ、ということで。
アルティマニアが出たそうで。注意書きがどんどん増えてゆく!
FF-D D+S New!夢物語
- 26 -
previous * next
しおりを挟む
MODORU