27 野営地の秘密
「御身をお労りください、殿下。ダルメキア軍を牽制するなら、どうか聖竜騎士団にご命令を。バハムートのご威光をお借りするまでもありません」
テランスはディオンの腕に包帯を巻く手を止めて、ディオンを見上げた。ディオンを椅子に座らせ、自らはディオンの足元に膝をついて彼の傷の手当てをしている。
「このままでは、殿下のお身体が…」
ディオンの右腕の石化は日に日にその範囲を増していた。しかし、ダルメキアとの睨み合いは未だ続いている。神皇の意向に納得できないディオンは、敵軍を牽制し続けなければならなかった。
「既にダルメキアとは停戦を合意したというのに、猊下は彼らを焼けという。その意図が分からぬうちは、こうやって時を稼いで真意を探るほかあるまい」
テランスは視線を手元に戻した。包帯を巻き終えると、その端の処理にかかる。
ディオンとテランスのこういうやりとりは、もう幾度目かもわからない。テランスはただディオンの身体を心配しているのだが、ディオンは相変わらず自ら進んで犠牲になり続けている。
「バハムートはザンブレクの象徴だ。その翼を見せるだけで、民も安心してくれよう」
そう言って、ディオンはいつも絶対に折れない。とはいえ、彼に折れる事は許されていないと言ってもいいくらいである。だが、それを間近で見守り続けるテランスにはあまりにも酷であった。
「そなたが、余の主人であったなら…」
ディオンはそう言うとため息をついた。もしもテランスがディオンに命令を出す立場なら、こんな理不尽な要求はしないはずだ。そもそも自治領への侵攻すらなかっただろう。一国の皇子が下僕に言う言葉にしては少々気弱である。捉えようによってはとんでもない殺し文句とも言えるが、ディオンはそれほどまでに参っていた。
「私はいつだって、ディオン様に赤心を尽くす
僕です」
テランスはディオンの右手を自分の両手で包んだ。再びディオンを見上げて、しっかりと目を合わせる。ディオンは悲しい顔をしていたが、テランスの言葉に表情を緩ませる。テランスがそこいるだけで、ディオンは心強かった。
しかし、テランスの様子がおかしい。ディオンの右腕の手当てを終えたのに、彼はまだディオンの手を離そうとしない。ディオンはどうしたのかと目で問い、テランスから手を離そうとする。しかしテランスも引かない。瞳には熱が籠り、手には力を込めて、その場から離れようとはしなかった。
「テランス、何を──」
テランスは腰を浮かせて身を乗り出すと、ディオンにそっと口付けた。驚いたディオンが後ろへ頭を引くと、テランスもハッとした顔をして顔を見て離す。
「申し訳ございませんでした」
テランスは一気に天幕の端まで移動して、ディオンに頭を下げた。自分はなんという事をしたのかと顔に書いてあるほどの顔つきで、動揺と焦燥が入り混じっている。本来、従者が主人に手を出す事は御法度であった。
「テランス、ここへ」
「はい…」
いつになく歯切れの悪い返事をして、テランスはまたディオンの近くへ戻ると膝を付いた。
「テランス、すまない」
「全て私が悪いのです。主君であらせられる貴方様に、あのような不敬を働いた私の罪です。殿下が私に謝られる事は何一つございません」
テランスはそう言うと、ますます小さくなった。ヴァリスゼアに土下座の文化はないが、今のテランスの姿勢はそれに近い。ディオンは椅子から立ち、テランスが蹲る側へしゃがみ込む。
「いいや。余は、そなたの気持ちには薄々勘付いていた。しかし、それに応えてやれぬのに、我が身可愛さ故にそなたを側に置き続けた。それは残酷やもしれぬ思いながら、そなたという心の支えを手放せぬ。故に、すまぬと申した」
ディオンがそう言うと、テランスはますます見を縮こませた。
「私は…殿下のお側に置いていただければ、それで幸せだったはずなのです。それなのに──どうか、私を罰してください。咎は全て受けます」
「よせ、テランス。そんなもの、余は望まぬ」
「しかし…」
テランスは地面に額を擦り付けるようにしてひたすら頭を下げ続けている。このままでは地面に埋まるのではないかというほどの勢いに、ディオンは心配し始めた。
「テランス、顔をあげてくれ。余は、そなたを咎人にするつもりはない」
ディオンは右手をそっとテランスの肩に置く。テランスは驚いた顔でディオンを見上げた。
「私の無礼をお許しくださるのですか」
「許すも何も…そなたこそ、余を許してはくれぬか。応えられぬと言いながら、そなたをそばに置きたいなどと」
たとえこれを期に友でなくなったとしても、それでもディオンは罪としてテランスを咎めたくはない。そう言うと、ディオンはテランスの目を見た。
深呼吸をすると、テランスはディオンの目を見つめ返した。しっかりと目を合わせる。
「どこまでも、喜んでお供します。ディオン様のためならどんな事でもいたしましょう」
ディオンはほっとした顔をして「ありがとう」と言うと、その場に座り込んでしまった。
2023/09/09
わたしもテラディオ民の1人ですが、夢だとどうしてもこうせざるを得ないよな。でもテ氏はやっぱりディオン様大好きでいていただかないと。真のヒロインは実は殿下だったりして。
何にせよ、我が家のテランス氏は憂き目に遭いまくりで申し訳ない。でも好き。
しかし、気持ちは受け入れられないけど側に置きたいなんて許されるのか?しかしこういう時代背景とか制度なら、全ては主君次第だろうな。
よく言われる事だろうけど、他の団員は皆んなディオン様の応援してるよね。たぶんテランスとの関係はバレてるけど、テランスが居ないとディオンの安寧がない事もわかっててテランス込みで見守られてそうだ。
FF-D D+S New!夢物語
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