FF-D D+S New!夢物語


30 嵐の前

「すまない…母が迷惑を…」
「気に病む事はない」

 ディオンは穏やかな表情でジョシュアを見る。ジョシュアは申し訳なさと自分でどうにもできない事が歯痒くてならない。
 ジョシュアはアルテマと戦うためにディオンに協力を要請した。アルテマという存在自体が突拍子もない夢物語のようだが、ディオンはジョシュアの話を聞き、信じた。
 しかし、ディオンはこれから成すべき事がある。今すぐには応えられないとしつつも、協力はするとジョシュアと約束をした。

「これは我が国の大事。皇家の一員たる余が、決着を着けねばならぬ。その後ならば、余の翼を預けよう。貴公に」

 そう言い終えると、ディオンは鈴を鳴らした。謁見はこれで終わりである。まもなくテランスがヨーテを伴って部屋に戻って来る手筈だ。

「感謝する。ルサージュ卿」

 ジョシュアとディオンは固い握手を交わした。ディオンは頷き、2人は手を離す。
 ジョシュアはアリーの言葉を思い出していた。ディオンは約束を守る人だ、とアリーは迷いなく言った。ジョシュアから見ても、ディオンの誠実さはジョシュアが初めて彼と対面した日から変わらない。確かな手応えを感じている。

 ドアの開く音がした。テランスがヨーテを伴って戻って来たのだ。彼らは入り口近くでジョシュアが出てくるのを待っている。

「姉さんも、気をつけて」
「ええ、ジョシュアも。また会いましょう」

 アリーはジョシュアともう一度抱き合った。別れを惜しみながら、共に部屋の入り口まで歩いてゆく。

「民のため、貴公と空を駆る日を楽しみにしている」
「ああ、待ってるよ」

 ジョシュアはそう言って手を胸に置いて頭を下げた。ディオンもアリーもそれに礼を返す。
 ジョシュアが去ってゆく。テランスとヨーテはそれぞれ深く頭を下げて最後の挨拶をすると、その場はお開きとなった。
 テランスは重厚な扉をゆっくりと閉める。ディオンは天井を仰ぎ、これから成そうとする事の重さに覚悟を決めようとしている。

「テランス」

 扉を閉めたテランスはディオンを振り返る。

「ここに」

「首尾はどうだ」
「抜かりなく」

 ディオンはアリーを振り返る。

「これより我々聖龍騎士団は、逆賊アナベラを捕らえる。奴が誑かしている神官と共にな」
「ええ」
「あなたには辛い事かも知れぬが、予め伝えておく」

 アリーは不思議なほど冷静だった。これから母が捕えられるのだ。もう少し取り乱したりするのだと思っていた。しかし、アナベラはフェニックスゲートの事件を引き起こした時点で既に人の道を外れている。それからもいろいろあり過ぎた。アリーはどこかホッとしたのが本音であった。

「出鱈目の神託など言語道断。これ以上、好きにはさせぬ」

 ディオンはテランスに視線を投げた。

「とはいえ、何の因果かその出鱈目が真になろうとしている」

 ディオンは神妙な面持ちをしてる。だが、テランスの立っている場所からはその表情は窺えない。

「これから余がする事を、そなたは罪と咎めるか」

 テランスは答える。

「私──いいえ、聖龍騎士団の主君はあなたです。全てはディオン様のお心のままに」

 ディオンはふっと口元を緩めた。テランスの言葉が、何よりも彼を勇気づける。

「ありがとう」

 ディオンはテランスと視線を交わした。これからが大一番である。二人とも、これまで何度も死線を潜り抜けてきた。しかしこれこそが、ディオンの一世一代の大勝負になる。

「テランス、余が父上を説得する間、そなたに指揮権を預ける。頼んだぞ」
「心得ました」

 テランスが敬礼で返すと、2人はもう一度頷き合う。

「ディオン、わたしは何をしましょうか?」
「そうだな…」

 ディオンは腕を組んで考え始めた。アナベラ捕縛についても、これから起こす反乱も、聖龍騎士団の配置や編成に問題はない。ここまで全てディオンの計画通りだ。しかしアリーの役割については考えていなかった。そもそもアリーは竜騎士団員ではない。

「わたしだって、一応皇家の一員なのだけれど」
「ああ、もちろんだ。ならば──」

 アリーは期待に満ちた目でディオンを見あげる。これまで稽古は欠かさなかった。叙任こそ受ける事がないものの、アリーにそれなりの実力はある。

「余が父上の説得をする間、次の間で控えていて欲しい。何かあったら助けてくれ。あなたがそこにいるだけで心強い」
「わかったわ。お共します」

 アリーはそういうと、ディオンと合流した後で壁に立て掛けていた槍を手に取った。
 長年使い込んだ槍は、少々年季が入って来た。しかし手入れは万全で、いつでも使えるようにしてある。クリスタルも途中で何度か交換した。いつか鉄王国と戦った事が、遠い昔になりつつある。しかしこれからまた始まるのかもしれないと思うと武者震いがする。アリーは緊張しはじめていた。

2023/09/015
ディオンはアナベラに「星詠みを誑かしたのか」と言ってたからきっと嘘の結果をを神皇に伝えてたんだだろうと思っていたけれど、結局謀反を起こすんだよな。結果的に合っている。
なんならもっと早くキレておいたら良かったのに、なんて思うのはわたしだけだろうか。



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