34 帰還
ディオンがクライヴ達と共に巨人と戦っていた時、アリーは聖竜騎士団と共に民を誘導して退避させていた。彼らはなるべく多くの人々を前線から遠ざけて、そして自分たちも巻き込まれないように必死で逃げた。
戦いが終わった後、聖竜騎士団はまたその現場に戻って来た。テランスの指揮の下、聖竜騎士団の兵舎跡を拠点に、残された人達の救護や壊れた街の後片付けに奔走している。そしてその傍、彼らの主君たるディオンを探していた。
皇宮も、家々も、マザークリスタルすら壊されてしまった。民は皆焼け出され、大勢が亡くなった。街だった場所は瓦礫の山になり、悲しみに暮れる人々で溢れている。アリーはそういう人たちを見るたびに、やるせない思いでいっぱいになる。かつてロザリアが鉄王国に攻め込まれた時の事を思い出してしまう。
アリーは無力感でいっぱいだった。アリーもテランスも騎士達も、皆とっくに疲れ切っている。けれど休める場所もない。それに、何かする事がある方が余計な事を考えずに済む。アリー達はひたすら歩き回っていた。
アリーはテランスや数人の兵士達と共に、皇宮のあった場所に来ていた。瓦礫の中から何か使えるものは無いかと探している所であった。
そんな時、アリーは瓦礫の中に見覚えのある箱のようなものを見つけた。そこに施された唐草模様のような装飾は、確かに覚えがあった。かつてディオンの部屋にあった物だったように思うが、一部破損している上に泥だらけだ。あまりの汚れ方に、アリーはそれが何であったかを思い出せない。それに、建物の一部であったであろう材木が邪魔をして、取り出すこともできなかった。
「ねえ、テランス。これ、見てもらえない?ディオンの部屋にあったような気がするの」
アリーの呼びかけに、テランスはすぐにやって来た。探している主では無いが、その人を思わせる物は何でも気にかかる。テランスは飛ぶようにして駆けつけると、感嘆の息を漏らした。
「これは──」
テランスはその装飾のある品に被さった瓦礫を押し除けた。すごい力だとアリー感嘆している間に、テランスはあっという間に埋まっていた物の全貌を明らかにした。それはアリーが思っていたよりも大きくて、木製の洋服掛けのような物だった。
「ええ、確かにこれはディオン様の物です」
アリーが観音開きの蓋を開けると、中からディオンの帷子が出て来た。タンスが破損していたせいで多少の汚れはあるが、まだ使えそうである。
「これ、持って行きましょう。ディオンが見つかったら、必要になるかもしれない」
「ええ、そうしましょう」
帷子を取り出すと、アリーは他の衣類も見繕う。しかし他のものはどれも正装用の衣装ばかりで、今必要なものでは無い。それに、どう見てもどの服も今のディオンの背丈には合わないような物ばかりだった。
「さて、こんなところかしらね」
「ええ。備蓄されていた食料も確保しましたし、一旦戻りましょう。さあ、アリー様、足元にお気をつけて──」
テランスとアリーがその場を去ろうとした時、一人の竜騎士が慌ててやってきた。二人は足を止めて振り返ると、その兵士はゼイゼイと息をしながらこう言った。
「も、申し上げます。猊下が、お戻りになりましたので、至急お知らせに参りました。お怪我はされているものの、お元気でいらっしゃいます」
テランスの表情が明るくなった。思わずアリーと顔を見合わせると、二人とも瞳が輝いている。
「ありがとう。今、ディオン様はどこにいらっしゃるの?すぐに向かうわ」
「は、聖竜騎士団の跡地にご案内しました」
「分かったわ」
兵士は敬礼をして、来た道を去って行った。
聖竜騎士団は有り合わせの資材で簡易のテントを作り、そこを拠点としている。テランスはその垂れ下がる幕を掻き分け、アリーを中へ入れた。すると、ディオンが簡易に拵えられた腰掛けに座っている。難しい顔をしているが、確かに元気そうだ。
「ディオン。よかった…無事だった」
「アリー、あなたも」
互いにホッとした顔で抱き合った。しかし呻き声をあげるディオンに驚いて、アリーはパッと手を離してしまった。
「すまぬ。まだ傷が癒えておらぬゆえ」
「大丈夫?ごめんなさい、痛かったわね」
そこへテランスもテントの中に入ってくると、彼はディオンの足元に跪いた。
「ディオン様。ご無事のお戻り、何よりでございます」
「ああ、そなたも」
テランスはディオンにそれまでの事を報告した。多くの民はこの地から逃れたが、それでも巻き込まれた多くの命にディオンは心を傷める。
「大義であった、テランス」
「ありがたき幸せ」
テランスが立ち上がると、ディオンは再び口を開いた。
「あの戦いの後、実はあなたの兄弟に助けられていたのだ、アリー」
「まあ、そうだったの。通りで見つからなかった訳だわ」
「すまぬ。私は意識を無くしていた故、あまりよく覚えていないのだが──」
ディオンはアリーとテランスにそれまでの事を話した。ジョシュアとクライヴと共に戦ったこと。クライヴがマザークリスタルを破壊したこと。意識を失った後、彼らの隠れ家で治療を受けた事。居ても立っても居られずにそこから抜け出して、勝手に戻って来たこと。話すことはたくさんあった。
「その後、私はまた倒れた。無理が祟ったのだろうな」
「ディオン様、貴方って人は…」
テランスは思わず頭を抱えた。彼の主はいつも自分を犠牲にする。これだけはそろそろ本当に止めてもらわないと、自分も彼の主君も命も寿命もどれだけあっても足りないと嘆いた。
「すまぬ、テランス。だが、薬師の少女に助けられた。名をキエルというそうだ。彼女の薬はよく効いた。故に、今は少し回復している」
ディオンがそう言うと、テランスは今にも泣きそうな顔をする。ディオンは嬉しそうな、そして、申し訳なさそうな表情で微笑んだ。
「本当に、よくぞご無事で…」
「心配をかけた」
アリーはクライヴがマザークリスタルを破壊したという事に衝撃を受けた。ジョシュアからも多少は聞いていたとはいえ、こうして信を置ける別の人物からも聞くと余計に真実味が増す。敬愛してやまない兄は、やはり大罪人シドだったのだと今更実感していた。
一方で、アリーその薬師にも興味を持った。これまで人々は魔法に頼り切りだった。薬など高価なだけで、魔法そどの即効性はない。それでそれほど需要がなかった。しかし、マザークリスタルが相次いで破壊された事により魔法の力が弱まる中、急にその需要が増えている。
「そのキエルという薬師に、わたしたちを手伝ってもらえないしら」
傷ついた民は多い。もともと物資が不足気味だったのに、この騒動で更に深刻化した。薬となるとさらに足りない。そもそも、そなら知識を持つ物すら珍しい。
「私は聖竜騎士団を探そうとしていた故、キエル連れてこようなどとは思いもしなかったが──なるほど、それもそうか」
ディオンが何やら思案していると、一人の兵士かテントの入り口までやって来た。慌ただしく走ってくる様子に、ディオンもテランスも不穏な何かを察知する。
「入れ。何事か」
兵士が招かれるままテントに入ると、伝え聞いた内容を伝える。
「申し上げます。斥候によると、ランデラにてアカシアが発生。民を襲っているとの事にございます」
「何だと?」
ディオンは眉間に皺を寄せた。一難去ってまた一難である。現在はどの国も中枢が機能していない。兵を動かせるのはここにいるディオンだけである。
「ランデラへ行くぞ。隊の編成を」
兵士は敬礼し、テントから去って行った。
「アリー、ここは危険だ。あなたも一緒に」
「ええ、分かったわ」
ディオンは立ち上がった。まだ身体は痛い。しかし、今こそ痛みを押してでも戦わねばならない。ディオンの民に身を捧げる覚悟は変わらない。それに、心置きなくジョシュアと共にアルテマと戦うためにも、ディオンは彼の率いる聖竜騎士団とテランス、そしてアリーをなるべく安全な場所へ退避させようとしていた。しかし、アカシアが現れたとなれば放っておく事もできない。こうしてディオンは聖竜騎士団を引き連れてランデラヘ向かうこととなった。
2023/09/25
FF-D D+S New!夢物語
- 34 -
previous * next
しおりを挟む
MODORU