FF-D D+S New!夢物語


35 叔父さん

 生き残った竜騎士と親衛兵達を引き連れて、ディオンはランデラにやって来た。アカシアが大量発生したとの報せを聞いて来てみれば、なるほど生きた人は見ないのに、アカシアだけはいくらでもいる。
 アカシアと化したウォールード兵だった者達を薙ぎ払いながら長い廊下を進んだ。たくさんのアカシアが押し寄せるこの建物に、恐らく人が残っているのだろうと予測したからだ。ならば助ける他ないと騎士達はどんとん制圧していった。そうするうち、一つの部屋にアカシアが吸い寄せられるようにして集まってゆくのに気がついた。
 アカシアが群がる部屋に近づくにつれて、中にいるであろう人の声も聞こえるようになった。そこでは死闘が繰り広げられているはずだが、何やら口喧嘩しているようにも聞こえる。

「罪人などであるものか!クライヴは──」

 一際大きな声が聞こえると、アリーはハッとした。

「えっ?バイロンおじさん?」
「何だと?」

 そばにいたディオンが聞き返すと、アリーは涙目で訴える。

「この声、たぶん叔父だわ!中でアカシアと戦ってる」

 アリーはそう言いながら青ざめてゆく。喧嘩の内容は大罪人シドに援軍を送るかどうかのようだし、クライヴの名前が出た事でも間違いない。
 往時のバイロンは斧の名手であった。年老いた今でも並の人間よりよほど頼りになるが、よる年波に勝てないのは平等である。体力も筋力も、老いと共に落ちてゆく。あまり長くは持たないはずだ。

「急ぐぞ」

 部屋の入り口に群がるアカシアを斃しては薙ぎ払うを繰り返す。ディオン達はここまで見つけたアカシアは全て葬ってきたが、それも無限にあるような数である。彼らもまた、疲れが見え始めている。そしてその間にも、バイロンは誰かと喧々轟々と口喧嘩を繰り広げながら斧を振り回していた。

「だが、兵を送った所でウォールードにはとても…!」

 バイロンの口喧嘩の相手がそう言った時、ザンブレクの騎士の一人が最後のアカシアを葬った。

「ならばその任、余がつこう」

 押されていたバイロン達は、突然現れた援軍に驚きつつも安堵する。しかしその援軍の親玉がディオンだと分かると、俄かに困惑し始めた。

「ディオン・ルサージュだと?」

 バイロンの喧嘩相手が訝しむ。

「ザンブレクの聖竜騎士団の生き残りを預ける。好きなように使うが良い」

 座り込んでいたバイロンは、胡散臭そうにディオンを見上げた。

「おい、卿に外の状況を報告しておけ」

 ディオンはそばに立っていた親衛兵に声をかける。親衛兵は敬礼し、すぐに動き始めた。それを聞いたバイロンは重い体を動かして、ようやく立ち上がる。そして斧を握り直してディオンに歩み寄った。

「どうして貴公が協力を」

 バイロンは斧でディオンを指し、如何にも信用できぬというような顔つきである。ザンブレクのこれまでの動きから考えると無理からぬ事だ。それに、バイロン達はディオンが起こした反乱の事など知る由もなかった。

「フェニックスには借りがある」

 ディオンがそう言うと、バイロンは途端に上機嫌になった。それ見ろ、と傍で未だ訝しむ友を横目で見る。

「お前もワシの甥を信じろ、ハヴェル」
「ふん。調子に乗りよってからに」
「まずは隊の編成を──」

 そう言いながらバイロンはハヴェルの肩を遠慮なくバンバン叩く。ハヴェルはさも迷惑そうだが、バイロンは気にしない。

「それに…」
「うん?」

 ご機嫌を取り戻したバイロンがディオンに視線を戻すと、その傍らにアリーがいる。バイロンは持っていた斧を取り落とし、ふらつきながらアリーの元へ駆け寄った。

「叔父さん。ご無事で何よりでした」
「ま、ま、まさか──アリー、か?」

 アリーか駆け寄ると、バイロンは泣き崩れてしまった。声を出しておいおい泣く姿にハヴェルも仰天する。

「わ、わしの姪!今生ではもう会えぬかと思っておったぞ…」

 バイロンは涙でぐしゃぐしゃである。アリーの泣き虫はバイロン譲りかもしれないとディオンは思う。その一方で、ディオンはアリーと出会った頃、アリーの事が羨ましくなった事を思い出していた。
 ディオンは父親からは遂に一片の愛すら与えられる事はなかった。父親が最後までオリヴィエを庇って死んだのを、ディオンは自分の罪だとは思っている。しかしそれを選んだのは父親で、決して自分の味方にはならなかったこともまた事実である。これまで期待で誤魔化して来た認めたくない事実を、今度は罪の意識で塗り替えようとしているのも自覚している。
 ディオンの父親は死んだ。故にディオンを永遠に認める事はないのに、彼の父は死んでもなおディオンに纏わりつく。目の前で繰り広げられる再会劇のような暖かさを求めていただけなのに、今やディオンの血縁者は誰も居なくなってしまった。

 未だ感激しきりのバイロンを尻目に、ディオンはテランスを探し始めた。部屋の外、開け放された扉から廊下に出た所に立つテランスはすぐに見つかった。

「テランス」
「ディオン様」

 テランスはそれまで話をしていた兵士に早口で指示を出して下がらせると、すぐにディオンの側へやって来た。彼らは廊下を進み、奥人気の無い所へ移動する。そこでディオンは懐から一枚の紙を取り出した。それをテランスに手渡すと、ディオンは押し黙ってしまった。
 どこかよそよそしく、目を合わせようとしないディオンに、テランスはただ事でない何かを察知する。

「護衛を任せる」

 ようやくそう言うと、ディオンはテランスに背を向けた。とてもテランスに顔を向けていられない、というのが本音である。

「私に──ああ、あなた様のお側を離れろと?」

 テランスはディオンの顔を見ようと、顔を背けてしまったディオンの前へ回った。しかし、ディオンも頑なにテランスとは目を合わせようとしない。何か言いにくい事がある時は大抵こうだ。しかし、こればかりはテランスも譲れなかった。

「その少女は、余の命の恩人だ。話したであろう。キエルという少女だ」

 ディオンはさらにコインがぎっしり詰まった袋を取り出し、テランスに握らせた。二の句を告がせまいと必死である。

「寝床と食料を与えてやってほしい」

 テランスは両手でディオンの肩を掴むと、強引に自分の方を向かせる。テランスはこれまで、たとえ二人きりでもこんなにも荒っぽくディオンを扱ったことなどない。あったとしても、正式に従者になってからは一度もなかった。
 テランスはどうしてもディオンの言っている事を聞き入れたくはない。少し屈んでディオンの顔を覗き込むのに、ディオンも必死で目を逸らし続けている。

「ディオン様、できません」

 どこまでも着いていくと誓ったのはつい最近ではなかったか。それがどうしてこんなことになるのか、テランスはただ悲しかった。

「頼む、テランス。そなたにしか頼めない」
「しかし──」

 テランスは、ディオンが望めば地獄の底まででも喜んで着いてくるだろう。けれど、ディオンは自分に長く仕え支えてくれたテランスに、とにかく生き残って欲しかった。

「余は、これから死地に赴く。国は壊滅、今やザンブレクどころか大陸全土の危機だ。今こそ民に身を捧げ、父上への償いを果たさねばならぬ」
「アリー様は、どうなさるのです。お妃に迎えられるのではなかったのですか」

 テランスは苦しかった。ディオンの肩を掴んだまま、下を向いて頭を横に振る事しかできない。

「アリーには叔父上や兄弟がいる。居場所も分かった故、身の振り方に心配は要らぬ。それに、兵の生き残りも、信の置ける者に預けられた」

 ディオンはまだ目を逸らし続けている。とても目を合わせる事などできなかった。
 本当は、ディオンとてテランスと共に戦えるならそうしたい。アリーとの事も本気で考えていた。しかし、状況はすっかり変わってしまったのだ。アルテマを倒さねば、そもそも生きて行くことすらできなくなる。
 そのアルテマも、ただの人が太刀打ちできる相手ではない事は分かっている。自分も無事に帰れるかわからないのに、テランスまで連れていく事など到底出来ない。なのに、こうでもしないと自分の踏ん切りがつかなかった。

「余の願い、叶えてくれるな」

 テランスは流れる涙をひたすら溢した。こんな所で、こんなにも唐突に別れを告げられるとは思いもしなかった。
 テランスはコインの袋ごとディオンの手を握り締める。そしてディオンの顔を見て、はっきりと言った。

「あなたのためならば──」

 テランスは意を決して、ディオンから離れた。一つ一つの動きに決心をつけなければ、とても次の行動など取れなかった。
 やっとの思いでディオンから少し離れると、テランスは遂に嗚咽を漏らした。けれど彼は努めてディオンの顔をもう一度見る。

「ディオン、どうか無事で──」

 テランスはこの瞬間、ディオンの従者ではなくなった。ただの親友として、無事を願う。これが最期かもしれないと互いにそう思っている。長い時間を共に過ごしてきたのに、別れる時は一瞬である。
 テランスはディオンに背を向けて歩き出した。未だ納得はできていない。しかし、生きていればいずれ会えるかもしれないと、今はそう願うしかなかった。

 ディオンはテランスが去った後も、しばらくその場に留まっていた。涙を他の者には見せたくなかったし、テランスという大親友の喪失のショックは計り知れない。敬愛する父、大切な友と、次々とディオンの元から去ってゆく。

 ようやくディオンが心を落ち着けた頃、バイロンも人心地ついたところだった。こちらも泣いてくしゃくしゃになっていて、バイロンは豪快に鼻をかんでいる。

「あら?ディオンはどこへ行ったのかしら」

 アリーが辺りを見回すが、どこにもいない。キョロキョロしていると、兵士の一人が声をかけてきた。

「猊下なら、先ほどこの部屋を出て行かれました。テランス兵長と何やら話しをされていたようです」
「ありがとう」

 兵士はさっと敬礼する。アリーが部屋を出ようとしていると、ディオンが戻ってきた。彼はいつにも増してどこか浮かない顔をしている。

「ディオン」

 アリーが声をかけると、ディオンはすぐにアリーやバイロンのある方へ歩いてくる。

「探しに行こうとしていた所だったの」
「そうか、すまぬ。少し立て込んでいた」

 アリーはまたキョロキョロと辺りを見回す。テランスがいない。いつもならディオンと共に現れていそうなものだが、居ない。

「テランスは?一緒かと思っていたわ」
「テランスは──」

 ディオンは言葉に詰まった。思わず俯いて、アリーから目を逸らす。

「重要な任務を任せた。つい今し方出て行ったところだ」
「そうなの?出る前に声くらいかけてくれてもよかったのに」

 アリーの言葉は何気ないものだし、ごく普通の遣り取りである。しかし今のディオンには少々堪えた。自分で選んだこととはいえ、向き合うのが辛い。
 黙り込んでしまったディオンだったが、今度はバイロンが声をかけた。とてもご機嫌で、もともと大きめの声にもより張りがある。

「ルサージュ卿、アリーが世話になったそうだな」

 ディオンは顔を上げて、バイロンを見た。バイロンはさも嬉しそうに、にこやかな顔だ。しかし急に真面目な顔つきになると、言葉を更に続けた。

「長きに渡り、姪を守ってくれたこと、心より感謝する」

 バイロンは片手を胸に、頭を下げた。先ほどまで斧で指されていたディオンはあまりの代わりように驚く。しかしこれこそが彼の憧れていた情愛でもある。自分の血縁には到底望めなかったが、アリーを取り巻く親族の温かさに、ディオンの心まで解れてゆく。

「アリーは、余にとってもかけがえのない人だ」

 ディオンがそう言うと、バイロンはそうかそうかと言って、また嬉しそうにがははと笑った。

「そこを見込んで、ルサージュ卿。お主に頼みがある」

 バイロンは懐から地図を取り出した。

「この地図の──この辺りに、クライヴ達の隠れ家がある。アリーをそこへ連れて行ってほしいのだ。兄弟たちに会わせてやりたい。わしはこの通り、しばらくここを動けん。それに、お主のその力、100人の兵よりも頼りになろう。ぜひ、甥っ子達の力になってやってくれんか」

 頼む、とバイロンが言うと、ディオンは二つ返事で承諾した。

「良いだろう。余に任せるが良い」
「重ね重ね、恩に切る」

 ディオンは大きく頷く。

「何、余はフェニックスと共に戦うと約束をしていた。今こそ、我が翼を預ける時だ」

 ディオンはそう言うと、近くにいた兵士を呼び止めた。これからの事を幾つか言い含めると、兵士達もキリキリとよく動く。
 
「ザンブレクの人間とて、なかなか見どころのある男がいたものだ」

 そう言って、バイロンは至極上機嫌であった。

2023/09/27
バイロンおじさんが素敵。まさかおっさんが癒しになるとは。これまでのおっさんキャラの誰よりも良いと思う。好き。こんな叔父さん欲しかったってたぶんみんな思ってるよね。



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