FF-D D+S New!夢物語


37 幼馴染

 隠れ家に到着するや否や、ディオンとアリーはあっという間に子供達に囲まれてしまった。彼らは口々に言いたい事を言うが、誰も他の者が何と言っているかはあまり聞いていない。外部からの人間が物珍しく、且つディオンはつい最近忽然と消えて以来である。二人は子供達の好奇心の格好の的となった。

「ねえねえ、本当に王子様なの?」
「あ、ああ…そうだ」
「ふーん。それよりどこに行ってたの?タルヤ先生が心配してたよ」

 などと、質問攻撃は止む気配がない。それも、どの子も真っ直ぐに無垢な瞳を向けてくるものだから、ディオンとて無碍にはできなかった。

「面目ない。──タルヤ先生はおいでか?」
「うん。診療室にいるよ」
「そうか、後で挨拶に行こう」

 アリーは外に浮かぶ大きな船を眺めていた。出航が近いのか、乗組員たちが忙しそうに右往左往している。
 ディオンは一通り質問に答えて、その場を去ろうとする。しかし子供達の興味はアリーに移っていった。

「ねえねえ、このお姉さんは?もしかしてお姉さんもお姫様なの?」

 アリーは少し屈んで子供たちと目線を合わせる。よく見れば、何人かの子供たちの頬にはベアラーの刻印がされていた。

「そうよ。一応ね」

 すると、一人の女の子がぱっと目を輝かせた。

「ジルもお姫様なんだよ!お姫様のお友達がいたけど、ずっと会えないんだって」
「え?ジル?」

 アリーは思わず立ち上がった。ジョシュアからもバイロンからも、ジルもここにいるとは聞いてきたが、未だ本人には会えていない。それに、会えないお姫様の友達とは自分の事ではないか。思わず黙ってしまうと、女の子は突然後ろを振り返って手を振った。

「あっ!ジルだ!」

 豊かな銀髪を揺らしながら、女性が一人遠くを歩いている。女の子に手を振り返すその女性と、アリーは目が合った。

「お姉さん?」

 女の子はアリーを見上げると、もう一度ジルを振り返る。ジルは片手で口元を押さえて肩を振るわせていた。彼女の側にいた隻眼の男が、突然号泣し始めたジルに驚いている。

 アリーとジルは同時に走り始めた。互いに近づき、顔を見る。どちらもすっかり大人になったが、面影がある。アリーの槍も年季は入ったが全く同じ物だ。
 アリーとジルは硬く抱き合った。二人とも、ようやく会えた喜びに震えている。
 周りの者の目が一斉にジルとアリーへ向けられていた。どの人も暖かく二人のやり取りを見守っている。

「ああ、アリー。やっと会えたわね」
「ジル、ジル…うう」

 アリーは話したい事などいくらでもあったのに、すぐに言葉にするのは難しかった。お互いに何もかも変わってしまった。生きて会う事など、長い間諦めてしまっていた。ただ涙が溢れるままに、拭うのも忘れて互いの存在を確かめ合う。

「ごめんなさい、ジル」

 アリーはそう言うと、もう一度ジルを抱きしめる。

「どうして謝るの、アリー」

 アリーよりも少し背の高いジルは、驚いてアリーを見下ろした。

「あの日、ジルは鉄王国に──ロザリアとの平和の証として来ていたばっかりに」

 ジルは頭を横に振った。そんな事はないと言うが、アリーは自分だけ城でのうのうと生きていた事が申し訳なくて仕方がなかった。

「辛い思いばかりさせてしまったでしょう?白銀公にも、申し訳が立たないわ」

 アリーはジルを見上げる。ジルは困ったように、眉を下げた。昔から、この人はどんな顔をしていても美しいとアリーは頭の隅で考える。

「全て、済んだ事よ。クライヴとシドと、トルガルが助けてくれたわ」

 5年前、シヴァのドミナントと共に消えたザンブレクのベアラー兵はクライヴである。さらにシドも噛んでいたとなれば、ザンブレクの兵の目を掻い潜って逃げ切れたのも頷けた。

「二人とも生きて会えた。これだけで十分嬉しい」

 ジルがそう言って微笑むと、アリーはなんだか救われたような気がした。申し訳ないと思っているのは間違いなくアリーの本心だが、自責の念は出来なかったことへの言い訳のようにも思える。詰まるところ、許しを得ないと納得できなかったのかもしれないとアリーは考えた。

「ジルが元気そうで嬉しいわ」
「ええ。ジョシュアからは少し聞いていたのだけど、ようやくね」

 いつかのように、二人で微笑み合う。こんな日が再び来るとは夢のようだった。
 長く離れたために、昔と同じようにはできないかもしれない。アリーはそれが不安だったのだが、杞憂かもしれない。

「昔あなたの言っていた友人とは、この御仁なのだな、アリー」

 アリーがディオンの声に振り向くと、彼もまた嬉しそうな顔をしてそこにいる。アリーに置いていかれたディオンはゆっくりと歩いて着いてきて、しばらくそこで待っていた。
 ディオンはどうしてもテランスを思い出してしまう。とはいえ、彼はアリーが会か見つからなかった友を思って泣いたのを知っている。再開できた事を、ディオンもまた自分の事のように嬉しかった。

「ええ、そうよ。幼馴染のジルよ、ディオン」

 アリーがそう言うと、ディオンは胸に手をやり、ジルに軽く会釈する。

「ジルはもう知ってると思うけど、ディオンよ」
「ええ。ジョシュアもタルヤも心配していたわ、突然いなくなってしまったから」

 ジルもお姫様然とお辞儀で返す。一瞬だけとはいえ、彼らの貴族然としたやり取りが繰り広げられると、ますます周りの視線が集まった。

「これから、灰の大陸へ行くところなの」
「灰の大陸だと?上陸どころか船で近づくのさえ難しいと聞いているが」

 ディオンがそう言うと、ジルは簡単に説明した。たしかに従来の船ならばそうだった。灰の大陸の周りは激しい海流が渦巻いている。しかし隠れ家の機工士・ミドの作った最新式の船、エンタープライズなら可能である。

「クライヴとジョシュアがそこにいるの。助けに行かなきゃ」

 ジルは力強くそう言うと、決意に満ちた表情をする。ディオンも頷いた。

「ならば、余も同行しよう。フェニックスとの約束を果たしに来た」
「心強いわ。ちょうど出発するところだったの」

 そう言って、ジルは二人を隠れ家のまとめ役・オットーに紹介し、その後船着場まで案内した。
 出航間近で誰も彼もが慌しい。ディオン達も着いたばかりで一息着く間もないが、クライヴ達は既に灰の大陸に乗り込んでいる。あまり猶予はなかった。

 船着場に着くと、アリーはエンタープライズの大きさにまず圧倒された。風の大陸のどの国家も持ち得なかった技術が、この隠れ家にはある。それだけでも大変なことだ。

「ほう、こんなにも立派な船が」

 ディオンも船を見上げると、思わずため息をもらす。

「さあ、行きましょう。わたしたちで最後よ」

 ジルは船に乗り込むと、二人を振り返る。

「では、アリー。行ってくる」
「気をつけてね、ディオン。兄さん達をよろしく」

 もちろんだ、と言ってディオンはアリーに軽く口付ける。ゆっくりと離れる暖かさが妙に恋しくて、アリーは思わずディオンの袖を掴んだ。しかし掴んだもののこの後どうするかなど考えていたわけでもない。途端に気恥ずかしくなっていると、ディオンはアリーの額にもキスを落とした。
 互いに微笑み合うと、今度こそ離れた。船に乗り込むディオンとジルを見送り、アリーは船の出航を見届けた。大きなエンジン音も、沸き出る蒸気も、時折聞こえる少女の勇ましい掛け声も、それに応える船員達の掛け声も、何もかもが目新しい。
 やがて船が沖へ出ても、アリーはしばらく船と海を見ていた。ロザリアにも海はあったが、ここは潮の匂いも風も違う。アリーは世界の広さをまた一つ思い知った。

2023/10/01



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