FF-D D+S New!夢物語


38 ようやく

 目の前にいるクライヴは、ぼんやりして空っぽになってしまったような虚な表情だ。瞳すら動かない様子を不思議に思い、アリーは

「兄さん?」

 と、呼びかける。けれど、クライヴはぽかんとした顔でただアリーが言った「兄さん」という言葉を繰り返す。それが自分の事だとは思わなかった、といった風だ。

「あなたの事だよ。兄さん」

 どこからかジョシュアも現れると、アリーの言葉を飲み込み切れないクライヴに優しく語りかけた。
 クライヴは、自分がクライヴだということ、兄弟の存在、全てを忘れてしまったかのようだった。ジョシュアとアリーの言葉で徐々にクライヴが自分を取り戻すと、いつか皇宮で見かけたアルテマが姿を現した。
 どこの町なのかは分からない。しかし不安な雰囲気の漂う場所だ。なぜだか分からないが、アリーは閉じ込められているような気がした。

「ここから出させてもらうぞ」

 そう言って、クライヴとジョシュアは並んで火を纏った。火柱を立てて全てを焼き尽くすように、空気まで燃えているようだ。アリーにはそんな力はないはずなのに、近くにいてもやけど一つしなかった。

 アリーはかくんと頭が前へ落ちる感覚と、誰かの話し声で、はっと周りを見渡した。
 部屋には自分一人、炎もどこにも見当たらない。クライヴ達が帰って来た様子もなく、ただ夢を見ていたのだと理解するのに1秒ほどかかった。
 隠れ家に着いたばかりでディオンはそのまま出立し、疲れ切っていたアリーは部屋を借りてそこで休んでいた。それから数日経った今、アリーは隠れ家の者に読み書きを教えるのを手伝っている。少し疲れたと休憩していたはすが、うっかりうたた寝をしていたのだった。
 もっと色んな何かが夢の中で起こっていたような気もするが、もう全く思い出せない。大切な事だったような気がするが、考えても仕方がない。そう思っていると、何やら外が騒がしい。何かあったのだろうかとアリーは立ち上がり、部屋を出た。

 いつも穏やかな空気が流れる隠れ家だが、この時は誰もが落ち着かず、ザワザワしていた。人々の視線の先で、不気味な何かの塊が宙に浮いている。薄暗い空の不気味さも相まって、何とも気味の悪い光景であった。

 それからさらに数日後、ようやくクライヴ達が帰還した。シドや仲間達の無事の帰還に、隠れ家の誰もが湧き立っている。アリーも船着場へと急いだ。
 ちょうどクライヴを先頭に船から降りてきたところだった。アリーは弾む息を落ち着かせ、兄を呼ぶ。

「兄さん」

 クライヴはすぐにアリーを見つけた。泣きそうな顔をして、アリーをぎゅうぎゅうに抱きしめる。以前会った時はベアラーだった。互いに自由に話す事も、触れ合うこともままならなかった。けれど、彼を制限するものは、もう何もない。

「アリー、無事でよかった」
「兄さんもね」

 互いに泣き笑いしながら、額を合わせる。
 暗殺部隊がほぼ全滅したと聞いた時は血の気が引いたものだ。けれど、クライヴはジルと共に無事に逃げ仰せた。そして、また生きて会うことができた。再会の喜びを噛み締めていると、次にジョシュアもやってきた。

「姉さん、良かった。無事だったね」
「ジョシュアも来い」

 クライヴはそう言うと、ジョシュアの返事も聞かずにアリーと二人まとめて再びぎゅうぎゅうに抱きしめる。

「兄さん、苦しい──」

 アリーがもがいていると、いつのまにかジルも増えている。それを、クライヴの後ろでディオンがおかしそうに眺めているのが見えた。

「兄さん、今はディオンも兄弟よ」

 アリーがそう言うと、ジョシュアは目をぱちくりさせる。

「確かに、そういえばそうだね」

 アナベラが再婚した縁で、三兄妹とディオンは義理の兄弟にあたる。兄弟同然のジルも入れれば五人兄妹と言えなくはない。というのがアリーの主張である。
 ジョシュアとアリーは同時にディオンの方を向いた。そして、

「ディオン!」

 と呼び、クライヴがディオンを引き込んだ。突然の事にディオンは目を白黒させながら、されるがままにぎゅうぎゅうになる。きゃあきゃあと大騒ぎしていると、くうんと犬の鳴き声のようなものが聞こえ始めた。
 アリーが足元を見ると、大きな狼が自分の匂いを嗅いでいる。それが終わると、狼はアリーを見つめて座り込んだ。

「もしかして、トルガル?」
「ああ。なかなかの大物だろう」

 クライヴがそう言うと、トルガルは元気よくわんと吠えた。アリーはしゃがんでトルガルを撫で回す。トルガルは気持ちよさそうに目を細めている。あまりの愛らしさに、アリーは思わずトルガルを抱きしめた。長い毛は硬いがフサフサして気持ちが良い。子供だった頃が信じられないくらい、大きくて立派な狼である。

「みんな大人になっちゃったわね」

 そう言うと、アリーは涙が止まらなくなってしまった。

「みんな、生きてた。また会えて本当に良かった」

 嗚咽を漏らすアリーをディオンがそっと抱くと、今度はクライヴが目を丸くする番だった。

「クライヴ、アリーは別の幸せも見つけたのよ」
「あ、ああ。そのようだ。形ばかりの許嫁だと聞いていたから、少しばかり驚いただけさ」

 こんな時、アリーを慰めたり宥めたりするのは自分の仕事だと思っていたクライヴは拍子抜けしていた。けれど、みんな大人になったのだ。会えない時間があまりにも長過ぎた。どうにも思考と行動が追いつかない。

「ルサージュ卿とは、改めて話をしなければ」

 などと言って、クライヴは嬉しいような悔しいような、複雑な心境でアリーとディオンの様子を伺った。

2023/10/03



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