4 夜襲
城下町は既に地獄絵図のようだった。アリーは逃げ惑う人とそれを追いかける敵兵を見つけた。すぐに彼らの間に割って入り、民を逃した。そして兵士たちが逃げ道を確保し、民を保護する。
幾らか町を駆けたところで、アリーは今まさに荷馬車に連れ込まれようとしている女性を見つけた。
アリーはすかさずチョコボごとその女性の腕を掴んでいる兵士へ突っ込んだ。狼狽える敵兵をチョコボで蹴り倒し、槍を突き立てる。敵を女性から引き剥がす頃には他の兵士達も加勢して、荷馬車の中も改めた。
加えてアリーは荷馬車の車輪を氷の魔法で凍らせた。それをロザリア兵がすかさず破壊し、さらに荷馬車に繋がれたチョコボも切り離す。荷馬車の中に囚われていたのはアリーが睨んだ通り、女や子供ばかりだった。
アリーがふと城門を見ると、今壊したばかりの荷馬車と同じ作りの物が門の方へ進もうとしていた。城門は夜襲が始まった時に、既にこじ開けられている。
アリーは急いで味方を振り返って見渡した。その中から1番門に近く、且つチョコボに騎乗していたビッグスに指示を出す。
「ビッグス!門へ行け!荷馬車を外へ逃すな!」
「御意!」
そう叫びながら、ビッグスは数名の兵士と共に城門へチョコボを走らせた。あの荷馬車にも、大勢の女子供が乗せられているに違いなかった。
アリーは数名の兵士を助けた民に付き添わせ、彼らを城の裏口へ向かわせた。ここで救護すると申し合わせている。
アリーは町を駆けた。風のように走るチョコボは、できれば昼間の草原で乗りたかったとアリーは兄を思い出す。
クライヴと狩りをした時はとても楽しかった。それがどうしてこんな事になっているのだろう。血生臭い町を逃げ遅れた者が居ないか、もう敵はいないかと思いながら走るのは辛い。こうしてアリーは涙も出ないほど、公女であることへの責任と使命感、そして恐怖に駆られていた。
空が白じみ始めた頃、ようやく粗方の敵は片付いた。アリーがビッグスに追うように命じた荷馬車は既に壊れて動かなくなっている。また、荷馬車の中に押し込まれた人もきちんと脱出したのも確認された。
アリーはぐるりと町を見回した。取り残しはないか、何か見落としていないかとさがしていると、敵兵が1人の男性に今まさに剣を振り上げようとしているのを見つけた。
槍の間合いも、チョコボの足の速さを鑑みても、ここからでは間に合わない。しかしこのままでは、彼が殺されるのをますみす眺める事になる。それは嫌だった。
アリーが魔法を戦闘に使うのは、これまで槍に宿す使い方しかしてこなかった。けれど、やってみて上手くいくなら試す方が良い。アリーはクリスタル流れるエーテルを感じ始めた。
「サンダー!」
槍に仕込んだクリスタルが煌めいた。雷が生まれると、次の瞬間には敵兵の鎧に落ちる。剣を振り上げたまま、その敵兵はバタリと倒れた。成功だ。
アリーは声を張りあげた。
「無事か!」
男性は腰を抜かして口をパクパクさせていた。泡を吹かないだけマジである。遅れて着いて来た兵士が立たせてやると、彼は震えながらアリーに頭を下げた。
「あ、ありがとうございました」
「城の裏口へ。避難民はみんなそこだ。お早く」
アリーがそう言うと、男性は拝むようにして去って行った。
2023/07/26
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