FF-D D+S New!夢物語


41 目覚め

 ディオンが見つかったなら、きっとクライヴとジョシュアもどこかにいる筈だと、さっそく捜索が始まった。隠れ家の総力を上げての捜索である。そこにバイロン卿やテランス、ランデラに駐留している竜騎士達の一部も加わり、程なくして二人とも見つける事ができた。

 クライヴはディオンのように左腕が完全に石化していた。身体中に怪我はあるものの、命に別状はない。
 ジョシュアに至っては服がボロボロに破れて血だらけであったのに対して、ほぼ無傷であった。さらに、かねてから心配されていた胸部の石化すら無くなっている。ジョシュアは発見された後、捜索隊と共に歩いて帰還したくらいだ。
 
 三人とも見つかってから、何週間か経った。クライヴはとっくにベッドから出て、相変わらず隠れ家のために走り回っている。これまでの記録を残すのだと言って、忙しい合間を縫って彼は書き物を始めた。ジョシュアと共同でいつか本として世の中に出したいと、クライヴは新たな夢を見つけた。

 ディオンは未だ目覚めない。アリーは隠れ家で読み書きを教える傍ら、ディオンに付き添っている。テランスもしょっちゅう様子を伺いにやって来るのに、ディオンは眉ひとつ動かさなかった。

「姉さん、ディオンはどう?」

 ジョシュアが医務室にやって来た。手にはサンドイッチの乗った皿を持ち、それをアリーに差し出した。

「ありがとう。そういえば、お昼食べるの忘れてたわ」
「だよね。みんな心配していたよ。だから、差し入れ」

 ジョシュアはアリーの隣に椅子を持って来て座った。目の前に横たわるディオンの胸が、規則正しく上下しているのをじっと見つめる。

「怪我はある程度治ってるんだけどね。頭の怪我が、やっぱり堪えてるのかしら」
「死んでるんじゃないかと、あの時は血の気が引いたよ」

 アリーはサンドイッチを摘み、口の中へ押し込んだ。味なんてしなかった。特にお腹も空かないが、食べておかないと自分まで倒れてしまう。もはや義務感だけで食事をしていた。

「テランスは?」
「ああ、彼なら、さっき荷運びしているのを見かけたよ。ちょうどおじさんから物資がいろいろ届いたんだ」

 テランスは今や隠れ家の中でも一番の働き者になった。初めはザンブレク人だというだけで嫌厭されていたが、彼の人柄や働きぶりで隠れ家の住人の信頼を勝ち取った。他の竜騎士達を応援に呼ぶにあたっても、彼の功績は大きい。バイロンの一押しもあったが、それだけではない。

「彼も、いい人だね。本当に」
「ええ、そうでしょう。ディオンとテランスがいなかったら、わたしどうなっていたかしら。恐ろしいわ」

 アナベラに飼い殺されるか、どこかへ政略結婚させられたかがオチである。

「ジョシュアは本当に大丈夫?一度死んだと兄さんから聞いたのだけど」
「うん。兄さんが僕を蘇らせてくれたからね」

 クライヴはアルテマを倒し、アルテマの力さえも得た。アルテマが悲願としていた蘇生魔法・レイズを死んでしまったジョシュアに使い、その後アルテマの作り出した「世界の理」を破壊した。以降、たとえクリスタルを介しても誰一人として魔法を使えなくなっている。

 今こそフェニックスの力があれば、ディオンは目覚めるかもしれないのに。アリーはディオンを見た。
 いつか止めなければ永遠に呪われ続ける。だが、今一度、一回だけ、と望むのは罪だろうか
とアリーは内心でため息をつく。すると、アリーはディオンの眉間に皺が寄っているのに気が付いた。これまでぴくりとも動かなかったのに、首も動いた。

「ディオン…?」

 アリーが呼びかけると、ディオンの目が開いた。ぼんやりとした焦点を合わせるのに数秒かかって、彼はようやくアリーを見つけた。
 ディオンは口を開く。しかし、声が掠れてうまく発声できない。アリーとジョシュアは椅子が倒れるのも気にせずに、勢いよく立ち上がった。

「ぼ、僕、テランスを呼んでくるよ。タルヤも!」

 ジョシュアは大急ぎで走って出て行った。それを見送ると、アリーはディオンをもう一度見る。

「ディオン。ここ、どこか分かる?」
「隠れ家の…医務室、だろうか」
「そう、正解」

 アリーはそう言いながら、横たわるディオンに抱きついた。ディオンは左手をアリーの背に重ねる。

「右手が動かぬ。重い」
「うん…石に、なってた」

 ディオンの右腕は、テランスやアリーが把握していたよりもずっと石化が進行していた。最後の戦いがどれだけ激しかったかを物語っている。

「そうか──あれだけ力を使えば仕方あるまい。だが、私もアルテマに一矢でも報いる事はできたし、イフリートらも目的は達したようだ。故に、これでよい」

 ディオンはこの世から魔法が消えたことを既に察知している。

「やっと、解放された」

 ディオンはそう言うと、ほっと息をついた。アリーと目を合わせると優しく微笑む。互いの唇が近くなった時、大きな足音が二つ近づいて来た。アリーはハッとしてディオンから顔を離す。

「ディオン様!お目覚めになられたと──」

 テランスが滑り込むようにしてディオンのベッドまでやって来た。その後ろを、ゼイゼイと息を切らしてキエルも追いかけてくる。アリーはこの展開に既視感を覚えるが、それも日常が少しだけ戻ったような気がした。テランスがさらにキエルを連れて戻って来たのが嬉しいのはアリーも同じである。

「ああ、テランス。心配をかけ…」

 そこで、ディオンはハッとした。テランスを置いて来た筈なのに、何故ここにいるのだろうと思い至る。

「アリー様と、近くで偶然お会いしたのです」
「そなた、余の心を読んだのか」
「ディオン様の事なら何でも存じておりますゆえ」

 そう返事をするものの、テランスの表情は緊張していた。命令通りにキエルは保護したが、遠く逃げる事は結局しなかった。決して命令を拒否したわけではないが、そうなってしまったようなものだ。

「申し訳ありません、ディオン様。結局、ディオン様の元へ、戻ってしまいました」

 ディオンはテランスをじっと見つめた。どうにか動く左手を、そろそろとテランスの方へ動かす。

「ですが、私はもう2度と、貴方のお側を離れたくありません。どうか、お願いします」

 テランスは差し出されたディオンの手を掴んだ。嬉しそうなディオンの手をぎゅうと握ると、ディオンは途端に顔を顰めた。

「痛いぞ、テランス。余は首すら動かすのも辛いというのに」

 ディオンはあまり引っ張ってくれるなと笑った。テランスは慌てて手を緩めて、そっと握り直す。

「ありがとう。やはりそなたがいてくれれば心強い」

 ディオンにはやるべき事が山積みである。彼にはまだまだテランスの力が必要だ。オリフレムも、壊滅して飛び去った後の自治領も、ロザリアも、このまま放って置くにはいかない。
 そこへ、テランスの脇からキエルがひょっこりと顔を出した。テランスとディオンを交互に見る。

「キエル。世話になった。おかげで大仕事ができた。感謝しているぞ」
「いいえ。よかったわ」

 キエルがにっこりと笑うと、その場の雰囲気がさらに柔らかくなった。

「キエルがね、ディオンからのお礼が多すぎると言って受け取ってくれないそうなの。テランスか困ってたわ」

 アリーがそう言うと、キエルは困った顔でこう言った。

「だって、薬代にしては多すぎるもの」

 キエルは首を横に振る。テランスも困ったとこぼして頭をかいた。

「ならば、これからもそなたの薬を分けてくれないか。そなたの薬はよく効いた。竜騎士団で抱えたい」
「ほんと?」

 それならばとキエルは応じた。ようやく職が安定すると、とても嬉しそうにしている。

「ここで、タルヤ先生からも多くを学べるであろう。どうか励んでくれ」
「ありがとう!お兄さん」

 そうするうちに、今度はタルヤとクライヴ、ジョシュアとジルやトルガル、果てはミドまで雪崩れ込んできて、部屋はあっという間に満杯になった。診察の邪魔だと言って、ディオン本人と見習いのキエル、関係者のアリーとテランス意外はタルヤに追い出されたのは言うまでもない。

 一方その頃、ハルポクラテスは花の種を丁寧に紙に包んでいた。大切に世話をした飛龍草から、遂に種ができたのである。

2023/10/10
キエルをテランス個人で保護するより隠れ家にいる方が安心よね。ただ、あの時点でディオンは隠れ家を頼りになんかできなかったろうけど。ディオンはとにかくみんなに愛されてくれ。




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