D+S FF-D New!夢物語


6 のばら



 リリーが帰って来た。 フリオニール達がフィンで発見し、連れ帰ってくれたのだ。さらに、既に討ち死になさったと思われていたスコット様もご一緒だった。これには皆驚き、喜んだ。
 ただ、スコット様は酷い怪我で、ここまで持ちこたえたのが奇跡とも思える状態だった。帰還したとはいえ、未だ予断を許さない状況だ。
 聞けば、リリーが随分無茶をしたらしい。己の限界を超えて魔法を使ったようだ。そのおかげで皆で帰って来ることが出来たようだが、これでは命が幾つあっても足りない。リリーは帰って来た時には既に意識がなく、人形のように横たわっていた。そして、そのまま3日間眠り続けた。
 目覚めた後もしばらくは起き上がるのもつらそうだったが、徐々に回復してきている。ここまで来ればもう心配はないだろう。
 しかし、リリーはぼんやりしている事が多くなった。泣くわけでもなく、いつも何か思いつめたような表情をしている。怖い思いもしたのだろうし、精神的にも疲れているのだろう。
 リリーの怪我は私が治した。しかし、魔法では心の傷までも治すことはできない。こればかりはどうしようもなく、見守ることしか出来なかった。

 反乱軍としては、帝国と対峙するにあたり、ミスリルを求めてサラマンドへ派兵する事が決まった。前回の功績もあり、フリオニール達に任せられる事となっている。そして、今回は私も彼らに同行する。
 まだ回復しきっていないリリーを置いて行くのは心苦しいが、事は一刻を争う。せめて今夜はゆっくり顔を見ておこうと思い、私の部屋に彼女を呼んだ。

 ろうそくの火が柔らかく辺りを照らす。そろそろリリーが来る頃だろう。そう思った頃、コンコンとノックの音が聞こえた。私は返事をし、彼女を招き入れる。


「リリー。具合はどうだ。」

「おかげさまで、だいぶ楽になりました。ありがとうございます。ミンウさま。」


 リリーはにっこり笑い、ぺこりと頭を下げた。


「そうか。しかし、まだ無理をしてはいけないぞ。」

「はい。心配かけてごめんなさい。」


 リリーは少し俯き、申し訳なさそうな顔で私の様子を伺っている。彼女のポニーテールが不安げに揺れた。無理をしたことについて、私に叱られると思っているのかもしれない。
 私はリリーの肩にぽんと手を置き、息をついた。


「そうだな。今回ばかりは寿命が縮んだ。あまり無茶するのはよくないが、よくがんばった。ゆっくり休むといい。そして、これからのことに備えなさい。」

「はい。ミンウさま。」


 リリーは顔を上げ、私を見上げた。安心したような、穏やかな微笑みを浮かべている。


「リリー。ミスリルの事は聞いているな。私は明朝、フリオニールらと共にサラマンドへ発つ。傷付いた人々はまだまだ大勢いる。陛下もまだあまり良い状態ではない。私がいない間、頼んだぞ。」

「……はい。ミンウさまも、どうかご無事で。」


 リリーはしっかりと頷いた。凛とした黒い瞳に頼もしさを覚える。
 

「ちゃんと、寝て下さいね。なるべく、きちんと三食食べてくださいね。」

「ああ、ありがとう。けれど、私はそんなに信用がないのかい?」

「ミンウさまは昔から、集中なさると直ぐに寝食をお忘れになりますから。そんなことでは、いつか身体を壊してしまいますよ。」


 返す言葉もなく、思わず苦笑いをしてしまった。リリーの言う通りで、それらは私の悪い癖だ。弟子にここまで言われてしまうとは我ながら不甲斐ないが、それが嬉しくもあった。
 

「あの、ミンウさま。ミンウさまに頂いたつめたがいの髪飾り、先日フィンで失くしてしまいました。折角くださったのに、ごめんなさい。」


 リリーはとても申し訳なさそうに、残念そうな表情で目を伏せた。


「ああ、気にするな。あれは魔除けだからね。お前の身代わりになってくれたのかもしれない。それよりも、お前が無事に帰ったことの方がよほど大事だよ。」


 私がそう言うと、リリーは顔を真っ赤にし、瞳を潤ませる。


「あの、ミンウさま。一つ、いいですか? 」


 リリーは言いにくいのか、口をもごもごさせている。遠慮がちに視線を向け、私の反応を窺っているらしい。


「構わないぞ。」

「……いえ、やっぱりいいです。」

「どうした。遠慮はいらない。」

「あ、あの……。」
 

 リリーが先程よりもさらに真っ赤になっている。目を泳がせて、どうにも落ち着かない。何を言おうとしているのだろうかと思い待っていると、少し躊躇した後、意を決したようにリリーが口を開いた。


「発たれる前に、だ、抱きしめて、ください。なんだか心細くて。一人でいるのが、怖いんです。」


 今にも泣き出しそうな必死な顔をし、キュッと手を握りしめながら絞り出すような声だった。


「良いだろう。ほら、おいで。」


 私は両腕広げてリリーを迎えた。おずおずとやってきた彼女をそっと抱く。ふと、こんなに華奢だったろうかと感じた。随分とやつれている。心がキリキリと痛んだ。


「他に、何か要望は? 」


 抱いたまま私が問うと、リリーは黙って首を横に振った。
 リリーは泣いていた。帰ってからというもの、口数も減り、ずっと塞ぎこんでいた。ようやく涙が出た。


「リリー。お前はよくがんばった。怖かっただろう。つらかったろう。本当によく帰って来てくれた。私には、それだけで十分だ。」

 
 リリーは遂に号泣し始めた。まるで子供のように、わあわあと声をあげて。そうして心を落ちとけるといい。私はリリーにそう言い、彼女を抱く力を強めた。
 リリーが落ち着くまで、今だけはこのままでもいいだろうか。私は、彼女の背中を優しくさすった。

 リリーは泣き疲れてそのまま眠ってしまった。起こさないように、彼女の部屋まで連れて行き、ベッドに寝かせた。
 戦いはいよいよ本格化するだろう。私は眠るリリーの頬をそっと撫でた。必ずここに帰って来るのだと、決意を新たにした。

20140723


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