9 王様と泥棒とわたし
「懐かしいな! 俺、ちょっと城の中を見てくるぜ」
そう言うなり、マッシュはいそいそと城に入っていく。巨体を揺らし、あっという間にいなくなってしまった。
一行はフィガロ城にたどり着いた。飛び去ったティナを探すべく、フィガロ城で砂漠を潜るのだ。そうして山を越えないと、ティナが飛んで行ったと思われるコーリンゲンには辿り着けない。
フィガロ城は、城でありながら砂漠に佇む機械の要塞のような建物だ。ごつごつとして無機質な印象だが、城の中に街がある。大勢の人々がここで暮らしていた。
民は皆生き生きとし、おおらかで暖かい。彼らはその国王と王弟の帰還、そしてその仲間たちの来訪を手放しで喜び、歓迎した。
エドガーの姿を見つけるやいなや、大臣の一人が駆けてきた。
「エドガー様、お帰りなさいませ」
「ああ、帰ったよ。変わりはないか」
「は! 今のところ、帝国からも動きはない模様です! 」
大臣が敬礼すると、回りにいた衛兵達も一斉に敬礼する。それに応えるように、エドガーも力強く頷いた。
「そうか、何よりだ。明日の朝、我々はコーリンゲンに向かう。よろしく頼むぞ」
「は! 」
改めて敬礼する兵士達に見送られ、エドガーが城に入る。仲間たちもぞろぞろと彼の後へ続いた。
エドガーは城内のあちらこちらで人に声を掛けられていた。エドガーの方でも、兵士、商人、大臣、子供、誰にでも等しく応え、声をかけてる。
どの人もエドガーの姿を一目見ようとし、エドガーもそれを無碍にしない。彼は王の間へ入るまで、終始微笑みながら手を振っていた。
城ではそれぞれに部屋をあてがわれる事なり、夕食までは自由行動となった。
エルは、ロックとセリスと共に一通り城を見学した。その後二人と別れ、エドガーのいる王の間に戻って来ている。
ロックとセリスは部屋で休むと言ったので、エルも自室まで歩いていた。けれどその途中でエドガーに会い、立ち話をしながらそのまま広間まで来たのだ。
この気さくな王様は、なかなか人気者らしい。街の人はみんな誇らしげにエドガーの話を聞かせてくれ、エルにはそれがとても新鮮だった。そのことをエドガーに話すと、彼は少し照れながら鼻の下を指でこすり、嬉しそうに笑った。
帝国にいた頃は常に威圧感と緊張感で張り詰めていたエルは、フィガロの居心地の良さにすっかり感動していた。
「エル、どうだい? 我が自慢のフィガロは」
「とっても良いところね。みんな優しいし、豊かだし。生き生きしてて、輝いて見えるの。いつか住んでみたいと思ったわ」
「それは光栄だ。君なら大歓迎するよ。なんなら、今からでも住めばいい」
エドガーはパチンとウインクした。エルはパッと表情を明るくした。
「本当? わたし、ここにいてもいいの? 」
「ああ、もちろんさ。マッシュも喜ぶぞ」
「行くところがなくて、これからどうしようかと思っていたの。ありがとう! エドガー。帰る場所が出来るのね。嬉しい」
エルは目をキラキラさせて、新しい生活に思いを馳せている。エルの魚が水に遭ったかのような喜びように、エドガーも嬉しくなった。
「そのときは何の仕事をしようかしら。わたしね、お給金を貰うのが夢なの! 」
「ならば私も探しておこう。君にぴったりの仕事が見つかるといいな」
その時、廊下から足音が聞こえた。広間にも響き、二人は入り口を振り返る。すると、マッシュがワインの瓶を一本とグラス2つを手に歩いて来た。彼は広間を進み、エドガーとエルの前までやって来る。
「お、エルもいたんだな。どうだい? フィガロ城は」
「ふふふ。エドガーにも同じことを聞かれたわ。とっても素敵なところね。わたし、好きよ。エドガーがね、フィガロに住まわせてくれるんだって。だから、是非って、お願いしていたところなの」
「そりゃいいな! エルなら大歓迎だよ。記念に一杯どうだ? グラス、もう一つ貰ってくるからさ」
エドガーはマッシュからグラスを受け取る。マッシュはエルにも差し出すが、エルは受け取らず、首を横に振った。
「おや、付き合ってくれないのかい」
「ありがとう。でも、止めておくわ。明日も早いし、そろそろ休むね」
言うが早いか、エルの身体は既に出口へと向かっている。マッシュも彼女を振り返り、声をかける。
「いいじゃないか。少しくらい飲んでいけよ」
「ううん。いいの。十年ぶりなんでしょう? たまには、水入らずでどうぞ。じゃあ、おやすみ」
エルはそう言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。エドガーとマッシュは思わず顔を見合わせる。
天涯孤独のエルは、エドガーとマッシュが羨ましかった。二人はエルを邪魔者扱いになどしないだろう。だからこそ、水を差すのは気が引けた。
エルは今度こそ自室に向かって廊下を歩く。辺りはすっかり暗くなり、外では無数の星々が瞬いていた。それに吸い寄せられるように窓に近づいて外の景色を眺める。宝石箱のような夜空に見惚れていると、今度はロックに会った。
ロックは風呂を済ませたところで、頬はしっとりと上気している。さっぱりとした顔をして、短く切り揃えられた銀色の髪はまだ濡れていた。バンダナをハンカチ代わりにして汗を拭きながら、此方に歩いて来る。
「お、エルじゃないか。どうした? 迷子か? 部屋まで送ってやるよ」
「ありがとう。でも、迷子じゃないわ。さっきまで王の間にいたの」
王の間と聞き、ロックは急に心配し始めた。エルに矢継ぎ早に質問し、彼女の身の安全と無事を確認する。
「手の早い王様に何もされなかったか? 大丈夫か? 」
「ふふ。そんなに心配しなくても大丈夫よ。マッシュもいたしね。ありがとう。そうだ。ねえ、ロックは泥棒なんでしょう? 」
「違う! 俺はトレジャーハンターだ! 」
ロックは持っていたバンダナを、ぎゅっと握り締めて反論した。お宝探しが仕事であって、絶対に泥棒ではないと言い張る。
「似たようなもんでしょ。だいたい何でお城のこと、あんなに知ってたの? まさか過去に盗みに入ったとか……」
「そんなわけねーだろ! 」
この話をすると、ロックはいつもムキになって怒る。エルはそれが可笑しくて笑った。ロックはため息をつき、苦笑いして続けた。
「パイプ役だったんだ。リターナーと、フィガロのな。だから顔も利くんだよ」
「ふうん。意外と真面目な仕事だったのね」
ロックはがっくりと肩を落とした。今までエルにこんな目で見られていたとは思ってもみなかった。すっかり項垂れて、ショックを隠し切れない。
「お前なあ……そんなだったら俺、ここでこんなにのんびりしてられねえよ。とっくに豚箱入りだぜ」
「そうか。それもそうね」
うんうん、とエルはひとり納得する。
「ねえ、それよりロック。セリスのこと、どう思う? 」
「セリス? なな、なんでまた? 仲間、だよ。他に何かあるか? 」
セリスの名前を出した途端、ロックは目を泳がせてあからさまにうろたえた。
エルは真っ直ぐに彼を見据えてずい、と身を乗り出し、ロックに詰め寄る。
「な、な、な、なんだ? 何でセリスが出てくるんだ? 」
「なんでも」
「なんだよ、全く」
ロックは困ったような、焦ったような赤い顔をしていた。彼は目を見開いて、エルの様子を窺っている。
「……ロックがね、ときどき、わからないの。誰かを見てるようで、誰も見ていないような。そんな風に、見える」
「……そう、か」
ロックは視線を落とし、黙り込んでしまった。泣き笑いのような、複雑な表情をしている。表面からはわからないが、少し引っ張れば根っこのように深い所にある感情がずるずると出てくるかのような面持ちだった。
エルは質問攻めにした手前、ロックの様子に罪悪感に駆られていた。エルもすっかり気落ちして、萎れた花のようになってしまった。
「あの、ごめんなさい。そんなに、落ち込むなんて思わなくて。わたし……こんなこと……」
「……取り敢えず、今日はもう休もう。エルも疲れただろう? 」
行こう、とロックは言った。少し気まずい雰囲気のまま、彼はエルを部屋まで送り届けた。
ロックは真っ直ぐ部屋に戻らずに、ひとり夜空を眺める。星や月の、さらに遠くを見つめるように。そして、その星と月は王の間の双子も優しく照らしている。
こうして、フィガロの夜は更けていった。
20140828
フィガロに住んでみたいわたしの妄想です
でも、お城じゃなくてサウスフィガロがいい
だって、王宮なんて血みどろの骨肉の権力争いなんだろうし
だからこそマッシュは嫌になったわけで
でもエドガーは好き
でもなー、例えメイド同士でも、絶対に何かあるよ
あんた今陛下に色目使ったでしょキー!!!
みたいなのとか
・・・考え出したらどうもこうなるからヤメ
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