FF-D D+S m-ds New!夢物語


10 俺が守る



「それ、えーーーんやこーーーーら! 」

 砂漠に朝日が上る頃、フィガロ城は砂漠の中へと移動し始めていた。
 城が沈む姿は勇壮そのもので、フィガロの技術の粋を集めたと言っても過言ではない。
 エルは城の潜砂機能をいたく気に入り、機関室で現場を指揮するエドガーに仕組みを聞きたがった。しかし、これは国家機密で、どうしても教えてもらえない。エルは少しムキになった。

「もしも、君が私の后になってくれるのならば、教えないこともないよ」

 エドガーはそう言うと少し屈んでエルの手を取り、彼女の手の甲に口付けた。エルは反応に困って固まってしまった。

「兄貴の言うことは真に受けちゃだめだ。手が早いので有名なんだよ、兄貴は」

 マッシュがさも面白くないような顔をして、慌ててエドガーからエルを引き剥がしにやって来た。ついでにエルへのお説教が始まってしまったので、ロックとセリスが宥めにかかる。機関室は早朝から大騒ぎだった。
 コーリンゲンに着くまでには少し時間がかかる。その間にフィガロ城で朝食を摂る事となった。

 エルは時間よりも少し早く食堂に着いた。中に入ると既にロックも来ており、エルを見つけると彼は右手を軽くあげて挨拶する。
 エルは昨晩のことを気にしていた。そのせいでロックを見つけた瞬間、思わず目を泳がせてしまった。けれど、彼は何もなかったかのように、明るく普段通りに振る舞った。
 エルはその心遣いに感謝し、同じように挨拶を返す。ロックはニッと笑い、エルもほっとして微笑んだ。
 他愛もない話をするうちに他の仲間も揃い、和やかに食事を楽しんだ。
 やがてフィガロ城はコーリンゲン前に到着し、浮上する。
 一行は城を辞し、村へと入った。

 村に入ると直ぐに男性が通りがかった。マッシュが彼に声を掛け、早速聞き込みを始める。

「この前、光の塊みたいなものがが村に飛び込んできたんだよ。ああ、怖かった」

 村の男は青ざめた表情で答えた。マッシュは礼を言い、皆に報告する。

「どうらやら、ティナはここを通ったらしいな」
「けれど、ここにはいないようね。何処へ行ったのかしら」

 セリスは腕組みをして考える。  

「ここへ着たのなら、他にも情報があるはずだ。もう少し聞き込みをしよう」

 エドガーの考え通り、その後「光が南のジドールの方へ行った」との情報を得ることができた。
 また、村の中には、「みんな怖がっていたけれどきれいだから私は好き」と言う女の子もいた。更にその子の母によると、「この子の前でピタッと止まったの。優しい目をしていたわ。本当に怪物だったのかしら」という話も聞くことができた。一行はその光が、きっとティナであろうという確信を得る。
 ある程度の情報を手に入れた一行がら聞き込みを終えようとした頃だった。村のお婆さんがロックに声をかけてきた。

「おや、ロックじゃないか。レイチェルの家には行ったかい」

 ロックは途端に暗い顔をし、俯いた。何も聞いてはいけない、と思わせる雰囲気が漂う。それにセリスもピクリと反応して、ロックの様子をじっと見つめている。
 マッシュはロックの変化をさほど気に留めなかったが、エドガーは何か事情を知っているらしい。ロックに気遣わしげな視線を送っている。
 エルはその異様な雰囲気と、昨晩のロックの様子から何も言えず、黙っていることにした。

 エルは歩きながら考えた。
 きっと、ロックはこの村でレイチェルという人と何かあったのだ。けれど、この村に来ることになってからも、来てからも、ロックはその事を一切話さなかった。踏み込まれたくない事だったのだろう。なのに、エルは問い質すような事をしてしまった。
 セリスとのことは気になるが、軽率だったことを悔やんだ。とはいえ、謝るのもまた蒸し返すようだと頭を悩ませる。

 悶々と考えるうち、気がつくとエルは迷子になっていた。いつの間にか仲間を見失ってしまっている。キョロキョロと辺りを見回すが、見知った姿は誰も見当たらなかった。
 ふと視界を上げると、目の前に家がある。窓のさんに埃がたまり、庭の花壇は花よりも雑草が幅を利かせている。玄関の扉は開きっぱなしだ。
 あまり手入れがされていない家だが、かといって廃墟というわけでもないらしい。どんな人が住んでいるのか興味を持ったエルは、その家に入っていった。

 家の中に入ると、更に地下への階段が続いていた。エルは何の疑いもなく降りていく。すると、奥からやや年配の男性が出てきた。
 男性な頭はボサボサで、ヨレヨレの白衣は肩幅が合わないのか少しズレている。さらに無精ひげがだらしなさを強調するようで、とにかく薄汚い。

「おや珍しい。お嬢さん、お客かね? 」
「ここ、お店なの? 」
「いや、店じゃないさ。ちょっとばかし、薬を置いているがねえ」

 男はニヤニヤしながら答える。エルは気味悪いと思ったが、勝手に入ってきた手前、我慢する。

「なんのお薬? 」
「そうさねえ。例えば……死んだ人間をそのままの姿で保管する薬、なんてのもあるねえ。けっけっけっ! 」
「……え? 」

 エルの予想の範疇を遥かに超えた答えが返って来た。エルは動揺し、理解が遅れる。やがて意味が分かると背筋がぞくりとし始め、思わず目線をさまよわせる。
 エルはふと、男性の後ろにベッドがあることに気付いた。そして、そこには女性が横たわっている。エルはゴクリと唾を飲み込んだ。

「あ、あの、その、奥の人……ももも、もしかして」
「ああ、そうさね。ある人の、だーいじな大事な宝物だねえ。ワシの薬を使えば、永遠にあのまま保存できる。けーっけっけっ! 」

 それを聞くやいなや、エルは一目散に逃げ出した。髪を振り乱し、階段の途中でスカートの端を踏み、転びながらも何とか脱出する。
 家を出た途端に力が抜け、その家の植え込みに座り込んでしまった。羽織っていた短いマントで自分の体を包み、息を整える。ブーツごと足を抱え、早く仲間を探そうと心に決めた。

 一方、エルがいないことに気づいたエドガー達は、手分けして村中を探し回っていた。それぞれ四方に散らばって、隅々まで探す。
 マッシュは村の入り口近くのパブに入った。まさかこんな所には来ないだろうと思うが、一応見ておこうと思ったのだ。
 店の中を見回すと、黒い影のような男とその足元に犬がいるのに気が付いた。つい最近まで、マッシュと共に旅をした人物である。思わぬ知り合いに出会えた喜びと、万が一の探し人の情報をと求めて彼に近づいた。

「シャドウじゃねえか。久しいな」
「また会ったな」

 シャドウはマッシュには目もくれず、黙々と酒を飲む。その足下で、黒い犬が目だけをマッシュにチラリと向け、直ぐに元の位置に戻した。

「インターセプターも元気そうだな」
「……俺たちに構うな」
「なあ、女の子を探しているんだ。仲間なんだけど、はぐれちまってさ」

 シャドウは黙っている。けれど、マッシュは気にせず続けた。

「黒い長い髪を一つに括ってて、瞳も黒い。白い短いマントを羽織っている女の子なんだ。見ていないか? 」
「その娘なら、村の東の家に入って行ったのを見た。後は知らん」
「サンキュー、シャドウ。またどっかで会おうぜ! 」

 マッシュはパブを後にし、東側を目指して走り出した。
 マッシュがその家に着くと、他の皆も既にそこにいた。エルの姿を確認し、ほっと息をつく。しかし、エルの顔色が悪い。少し青ざめているように見えた。 

「おい、エル? どうしたんだ? 何かあったのか? 」

 マッシュに気づいたエドガーと、座り込むエルの側についていたセリスが声をかけた。

「マッシュ。我々も今、ここへ来たところでね」
「エル、あなた泣きそうな顔してるわよ」

 エルはぽつりぽつりと家の中で聞いたことを話した。一通り話し終えると、また少し青ざめる。
 セリスとマッシュはぎょっとして驚いたが、黙って聞いていたロックが口を開いた。

「俺だよ。それを、頼んだの。……着いて来な」

 エルはまだ動揺していた。混乱したままなんとか立ち上がり、ロックに続く。
 他の面々もさらに後を追って、その家の中に入った。

「おや、ロックじゃないか。それに、さっきのお嬢さんも。ロックの知り合いだったのかね! 」

 エルはビクビクしながら入っていく。エドガーが後ろから、落ち着かせるように彼女の肩にそっと手を置いた。エルが見上げると、小さく「大丈夫」と、口を動かす。エルは一つ頷き、前に向き直った。

「お前さんの宝物は、大事に大事に保管してあるからねえ」

 ロックは無言で男を通り過ぎ、花で飾られたベッドの前まで来た。そして、横たわる女性を見つめながら、絞り出すような声で言った。

「俺は、守ってやれなかった。守ってやれなかったんだ……」

 ロックはしばらくそこから動かなかった。
 悲痛なその姿に、エルは胸を痛めた。動揺などすっかり飛び去ってしまった。
 ロックの、あの何とも言えない暗い表情が、全てここで結びついた。

 セリスは横たわるレイチェルを、食い入るように見つめていた。エルには、彼女が少し震えているようにも見えた。しかし、セリスのあまりにと張り詰めた雰囲気に、声をかけることすらためらった。
 後にレイチェルの家にも訪れ、ロックからいきさつを聞いた。

 レイチェルはロックをかばって山から転落し、記憶をなくした。元々ロックがレイチェルの両親によく思われていなかったこともあり、そのまま二人は別れてしまった。
 ロックは村を離れ、旅をしている間に村は帝国の攻撃を受けた。その際にレイチェルは死亡したのだが、彼はそのことを暫く知らずにいたのだという。
 生き残った村人によると、レイチェルは死ぬ間際にロックを思い出した。最期までロックの名前を呼びながら亡くなった、ということだ。

 ロックは皆から顔を背けたまま、じっと動かない。セリスの表情が、また一段と険しく、悲しげに変化する。エルはそれを心配そうに見つめていた。

20140902

難産でした
ロックの過去については、大人になってから感じたわたしの感想が大いにものを言ってます

子供の頃は、
ふーん、可哀想
位にしか思わなかったのですが、改めて見直すと、「なんて気の毒!なんたる悲劇!」
と、思うと同時に、レイチェル保存に関して背筋が凍る思いをしました
倫理的にどうとかいうこともそうですが、長い間捕らわれ続けるロックの不健康さと、その感覚のマヒで本人は気づいていない感が恐ろしかったのです



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