24 帝国首都ベクタ
「俺達から離れちゃだめだぞ」
マッシュはそう言い、エルの髪をくしゃりと撫でる。「はい」とも「いいえ」とも答えられずに、エルは何ともいえない気持ちで笑って返した。
ベクタに入ると、街だった場所は既に破壊されていた。幻獣たちが魔導研究所に捕らわれていた仲間が皆殺しにされたことを知り、襲ったのだ。それを受けたガストラはすっかり憔悴し、戦意をなくしたということだった。
ガストラは一行に和平へ向けた会食を望んでいる。彼らがその案に同意すると、早速帝国の要塞へと招かれたのだった。
会食前に控え室へ通され、一行はそこで休憩を取ることにした。
時間までには戻るからと、エルは一人で部屋を出た。先にシドの元を訪ねるつもりだ。
一人で歩いているつもりだったが、後ろから誰かが付いて来る。人の気配に、エルはさっと振り返った。
「……エドガー」
「やあ。君をひとりにしてはおけないからね。どこへ行くんだい? ひょっとして、シド博士に会うのかな? 」
エドガーは心配そうな顔でそう言ったが、エルは渋い顔でどう返答しようかと思案する。
「君が心配なんだ。ここは帝国。どこで何があるか、わかったものではないからね」
「でも……」
「聞かせて欲しい、一緒に。例えどんな事を聞こうとも、君は大事な仲間だからね。一人で抱えようなんて思わないでくれ」
エルはじっとエドガーを見た。
今にも自分を押し潰しそうな大きな不安を、誰かに預ける事ができればどれだけ楽だろう。知られたくない思いと、誰かに打ち明けてしまいたい気持ちの狭間で揺れるエルには、エドガーは一際大きく、逞しく見えた。
「なんだか……君が消えてしまいそうで、俺は怖い」
エドガーは絞り出すような声でそう言うと、不安そうな瞳でエルを見つめた。
「……わかった。一緒に来て。わたしも、怖い」
エドガーの表情が少しだけ明るくなった。こんな秘密を共有しても楽しくはないが、エル一人で抱えるよりもずっと心強かった。
「ありがとう。無理を言ってすまない」
「ううん、わたしもありがとう。何だか、心強い」
エドガーは優しく笑い、二人でシドの元へ向かった。
シドはエルやエドガーの姿を見て少し驚いたものの、快く招き入れてくれた。シドはエルの無事を喜び、温かい紅茶で二人をもてなす。
エルは、これまでに感じていた違和感について質問した。シドは一瞬だけはっとした表情をした後、覚悟を決めたような顔付きになった。大きく息を吐き、ゆっくりと話し始めた。
「エル。おまえには、幻獣の血が流れているのだよ」
静かにはっきりと、シドは言った。
エルは帝国に引き取られて間もない幼い頃、血液がうまく作れない病気を患った。病気が分かったころには、すぐにでも骨髄移植が必要なほど進行していた。
しかしエルは孤児である。血縁関係のある人間が一人も居ない故に、骨髄の適合者は全く見つからなかった。悪化の一途を辿るばかりのエルに打つ手がなくなると、医者も研究者も匙を投げてしまった。エルはもはや死を待つしかない状態だった。
そんな中、エルをなんとか救おうとした人物がいた。当時から魔導研究所の第一人者であったシドである。
シドは研究と実験を繰り返し、試行錯誤の末に幻獣を使うことを試みる。他に打つ手が無く、苦肉の策であった。
しかし、試しに人型をした幻獣、セイレーンとシヴァを検査してみると、セイレーンがエルの骨髄と適合する型に近いことがわかった。
直ぐに移植手術を施す事になる。
結果、エルはみるみる回復した。その回復は通常考えられるよりも各段に早く、関係者たちも信じられない思いでいた。
一方セイレーンは次第に力を失い、あっという間に衰弱した。そしていつの間にか姿を消し、現在も行方不明のままになっている。
エルは完治した後、凄まじい魔力を発揮するようになった。ティナほどではないにしろ、魔導アーマーに引けをとらないほどである。セリスのように魔力を注入する方法よりも、よほど強い魔導師になった。
そこで他の者にも試してみようということになったのだが、誰一人上手くいかなかった。結局、その方法で魔道士になった者で生き残っているのは、エル一人だけである。
エルは終始黙って聞いていた。エドガーが彼女を様子をそっと伺うと、やや俯いた顔に表情はない。エルは事実に打ちのめされていた。ただじっと一点を見つめている。
エルは、思い起こせば確かにセイレーンという名は幻獣たちから何度か耳にしていた。しかし、自分がセイレーンによって生かされた事実をこれまで知らずにいた。
エルはまだ自分の過去としての現実味を感じられない。だが、セイレーンを犠牲にした以上、セイレーンとの関係を受け入れなければならない。
エドガーは難しい顔でピクリとも動かないエルを、ただ優しく見守ることしか出来ないでいた。
会食は滞りなく済んだ。
すぐにロックとティナがレオ将軍とセリスと共に大三角島へ向かうことになり、他の者は帝国で待機している。その間に魔導研究所を探したが、やはりセイレーンも、その魔石も見つけることは出来なかった。
20150801
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