25 思い思いに
帝国で待機することになったエルたちは、与えられた控え室で過ごしていた。そこでは思わぬほどの厚遇で、専任のメイド数名とティータイムまで付いていたほどだ。
ただし、ここはあくまでも帝国である。どんな毒物が入っているかわからないと、ティータイムに出された菓子や茶には誰も手を付けようとはしなかった。
特にするべきこともないので、各人がそれぞれ好きなように過ごしている。エルは仲間達を見渡した。
マッシュは瞑想を終え、続けて筋トレを始めたところだ。ガウはなぜか壁に登ろうと躍起になっているし、モグは何かインスピレーションを得たらしく、踊っている。お尻をフリフリしながら踊る様は、まるで本物のぬいぐるみのようだ。ティナがいたら、きっとしばらく離してもらえなかっただろう。
カイエンは部屋の端に座り込んで刀の手入れをし、エドガーに至っては茶菓子を運んできたメイドを口説いている。
エドガーはいつもに比べてピリピリしていたはずだったが、口説いている時は微塵も表に出さない。メイドも嬉しそうに赤い顔をして、まんざらでもなさそうにしているあたりがさすがである。
セッツァーはブラックジャックに一旦戻ると言い、ロックとティナが出立する際に共に出て行った。
仲間の誰ひとりとして、完全に帝国を信用することはしていない。敵地で気は抜けないと、特にエドガーはずっと気を張っていた。
エルはシドの部屋から出た後もしばらく落ち込んでいた。シドから聞かされた話が頭の中をぐるぐる巡って離れない。
けれど、同時に安堵感も感じた。自分が何者であるかを、ようやく確認できた。あとはどう向き合うかなのだが、すぐに答えが出るほど簡単な話ではない。
自分の意志ではないにしろ、幻獣の命を奪ったかもしれない。少なくとも力は奪っている。そのお陰で今日まで生き長らえて来たことに、相当なショックを受けていた。
とはいえ、いつまでもくよくよ悩んでいるわけにもいかなかった。かつて自分や幻獣セイレーンに起きたことはまだ終わってはいないのだ。今の所手がかりは無いが、いずれ解決しなければならない。
仲間の元に戻ってからは、エルはできる限りいつも通り振る舞った。エルの気丈な様子が、エドガーは余計に心配になった。けれど、自分があまり世話を焼くと水を差すことになる。気が気でないが、今は何もしないことを選んだ。
エルは暇を持て余していた。目的を果たした今、あまり帝国で長居したいとも思わない。
「ねえ、みんな。わたしもブラックジャックへ戻るね。ここだと何だか落ち着かないの」
エルがそう言うと、エドガーがいち早く反応する。気が付けば、彼が口説いていたメイドはもういなかった。
「では、私も一緒に行こう。ブラックジャックの中も気になるしね」
エドガーはウインクすると他の者にも声をかけ、エルと共に帝国を出た。
飛空艇では、セッツァーが忙しそうに飛び回っていた。
上着を脱ぎ、長い銀髪をひっつめ、シャツの袖をまくり上げ、工具を取り出す。不時着の時に壊れたブラックジャックの修理の続きをするのだ。
エドガーと、後から追いかけて来たシドが手を出したそうにうずうずしている。
「不時着のショックだな。エンジンがいかれちまった」
セッッァーがひとりごちる。
「手伝おうか? これでも機械の国の国王だ」
「ワシだって、メカのことには詳しいぞ」
エドガーとシドが、我こそはと名乗りを上げた。けれどセッツァーは2人を一瞥すると、露骨に嫌そうな顔をする。
「遠慮しとくよ」
「カジノを潰して改造すればいい。もっと早くなるぞ」
シドは食い下がるが、セッツァーの顔がさらに険しくなった。元々悪そうな顔なのに、さらに引きつっている。
「論外だ! もう出て行ってくれ」
セッッァーはこめかみに青筋を浮かべながら、怒りに震える拳でシドとエドガーをつまみだした。
エドガーは不服そうに抗議しているし、シドはまだ「カジノを潰せば早くなる」と、繰り返している。しつこい2人に、セッッァーは深いため息をついた。
「好きなんだね。この船」
エルは、興味深々といった風に目をキョロキョロさせてエンジンルームを眺めている。
「気ままなギャンブラーにもな、若いころは必死で打ち込めることがあったんだ」
「……え? 」
エルは目を瞬かせてセッッァーを見上げた。けれど、セッツァーはそれ以上話す気はないらしい。さっさと作業に戻り、無心に手を動かしている。
エルには、セッツァーが背中で「この話はしない」と言っているように感じて、何も聞けなかった。
2016.10.06
お久しぶりすぎて内容がぶっ飛んでます。
設定とか粗方は覚えてますが、細かいところで矛盾してませんように……!
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