28 仲間たち
ティナはうずくまるようにして座り込んでいた。茫然としたように大きく開かれた翡翠色の瞳は、彼女の眼前にある真新しい墓だけを映している。
エルはそんなティナの後ろ姿を、沈痛の面もちで見ていた。ティナのすぐ側にいるものの、あまりの悲壮な様子にかけるべき言葉が見つからない。側にいるのに何もできない自分がもどかしかった。
エルたちがブラックジャックから降りた時、既に事は済んでいた。
エル達が空から追っていた幻獣達は魔石と化し、レオ将軍は亡くなった。どちらもケフカの手にかけられたのだと、その場にいた仲間達から聞かされた。
ティナはまだ、全ての感情を取り戻し切れていない。だが、それでもレオ将軍の死は彼女の心に大きな影響を与えた。
ティナの心が大きく振るえている。分からないなりにも、かなりの衝撃を受けたことは間違いなかった。
「レオ将軍……」
ティナは語りかけるように呟いた。視線はずっと墓に向けられている。
「人はみな、力が欲しいのね。私みたいになりたいのかしら」
ティナは目を伏せ、手で自分の胸にそっと触れる。エルは何も言わないで、手をそっとティナの肩に置いた。小さな背中が小刻みに震えているのがよくわかった。
「もっと、あなたからいろんな事を教えてもらいたかった……」
絞り出すように震えた声で、ティナは墓に向かって話しかけた。
エルはただ、ティナの側にじっと立っていた。いつの間にかやって来たガウはエルの足下にちょこんと座りこみ、心配そうな顔でティナとエルを交互に見ていた。
ティナとエル、ガウから少し離れた広場では、怪我をしたインターセプターがロックの手当を受けていた。帝国は味方として雇った筈のシャドウにまで手を出したのだ。
ロックは帝国への怒りに震えながらも丁寧に、インターセプターに包帯を巻いてやる。
「これでよし。もういいぞ」
ロックは巻き終えた包帯の端を折り込むと、インターセプターをひと撫でした。彼の側でしゃがんで見ていたセリスは、ロックを見上げて微笑む。
「やさしいのね」
ロックはたちまち得意な顔になり、頬をポンと赤く染めた。二人の世界ができあがりである。そんな様子を知ってか知らずか、インターセプターは用は済んだとばかりにそそくさと立ち上がる。ヨロヨロと歩き始めたインターセプターを、リルムがそっと抱き上げた。
「リルムがついていてあげるね」
インターセプターは大人しくリルムに抱かれると、気持ちよさそうに目を閉じた。
「帝国が裏切った。あやうく罠にはめられるとこだったぜ」
セッツァーは煙草をふかしながら吐き捨てるように言った。
「だが、事前に脱出でき申した。エドガー殿の情報のおかげでござる」
カイエンが神妙な表情でそう言うと、エドガーはニッコリ笑って答えた。
「お茶を運んで来てくれたレディにご挨拶したら丁寧に教えてくれたよ」
「……便利な特技だな」
マッシュが少し渋い顔をした。けれど、エドガーは意にも介さない。
「目の前に女性がいるのに口説かない。そんな失礼な事ができると思うかね ? 」
エドガーは怪訝な顔するマッシュに「チッチッチ」と人差し指を立てた。
「礼儀だよ。れ・い・ぎ」
エドガーはほんの一瞬だけ、気づかれないようにエルを見た。しかし、エルはエドガーを見てすらいない。それが彼には面白くないが、顔には出さなかった。
「……はあ。わかったよ」
マッシュはため息をつきながら、彼もチラリとエルの様子を伺った。エルはエドガーのことも、エドガーがメイドを口説いたことも大して気にしている風でもない。ずっとティナと一緒に墓前にいる。
マッシュは、少なからずエルはエドガーを気にしているのではないかと思っていた。それに対して焦りもした。けれど、それは自分の杞憂なのかもしれないとも考える。
人の心は、本人にしかわからない。時には本人にもわからないことすらままある。
マッシュは兄のことを大切に思っている。けれど、兄の「癖」は決して良く思っていない。とはいえ、今回はそれに助けられたことも事実である。言いたいことはぐっと飲み込むことにした。
「それにしても、レオ殿は無念でござった。帝国にいる数少ない理解者が……」
カイエンはレオ将軍の墓の前へ移動していた。墓前に座ったまま皆の話を聞いていたティナ達の側まで行くと、墓の前で手を合わせた。
「とにかく、作戦の立て直しだ。飛空挺に戻ろう」
場を取りまとめるようにエドガーが皆に呼びかけた。仲間がぞろぞろと歩き出すと、ずっと黙っていた村の老人がエドガーに声をかけた。
「わしも行ってもいいのかの? 」
「あなたは? 」
エドガーが尋ねると、老人の代わりにロックが答えた。
「この村の人だ」
歩いて来ていたティナも、老人の事をエドガーに教えた。
「ストラゴスさんよ。魔導士の血を引く人なの。力になってくれるわ」
「なんと。それは心強い」
エドガーは目を瞬かせて、もう一度ストラゴスを見た。近くまで歩いてきたエルも興味を隠せずに、思わず立ち止まった。
「力の使い方を誤った帝国を放っておくわけにはゆかんしの」
そう言ってストラゴスは腰に手をやり、うんと伸びをした。エドガーは納得し、エルも新しい仲間が増えることを喜んだ。
話が纏まろうとしていた時、彼らの後ろからリルムが駆けて来た。髪に結んだリボンを揺らして、彼女の祖父であるストラゴスを追いかけて来る。
「リルムも! 一緒に行きたい! 」
頬を紅潮させて、しきりにせがむ。けれど、ストラゴスの答えはにべもない。
「だめじゃ」
けれど、リルムも負けない。しつこく食い下がり、ストラゴスと口喧嘩が始まった。
「いや、そうは言っても子供は足手まといだしなあ」
火花を散らす二人にマッシュが割って入った。リルムの怒りの矛先は、この瞬間からマッシュに向かった。
「何をー ! このキンニク男 ! 」
「ははっ ! 口だけは達者だな。嬢ちゃん」
わはは、と余裕たっぷりにマッシュは豪快に笑う。その姿にリルムはますます腹が立った。
「くーっ ! 似顔絵描くぞ ! 」
リルムがそう叫ぶと、先にサマサへ来ていた仲間達が血相を変えて飛んで来た。口々に「やめ!ヤメ!」と叫びながら大慌てだ。
しかし、マッシュは何がそんなに不味いのかが分からない。マッシュは顔中に「?」を浮かべている。
ティナはマッシュに、リルムも魔導師の末裔であることと、描いた絵を敵と戦わせることができることを説明した。その間、ストラゴスを始め残りの者はリルムを宥めにかかり、マッシュは事なきを得た。
「わかったわかった。しょうがないやつじゃ、まったく」
「やったー! 」
ふう、とため息をつくストラゴスを後目に、リルムは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。ガウまで飛び跳ねる始末で、エルやティナもそれを眺めてすっかり和んでいる。すっかり意気投合だ。
改めてマッシュがみんなに声をかけ、今度こそぞろぞろとブラックジャックへと歩き始めた。
しかし、エドガーは何か考え込むような顔をして、じっと動かない。それに気づいたリルムは歩きかけた足を止め、エドガーの前まで戻って行く。
「どうしたの ? 色男」
「え ? ああ、何でもないよ。……ところで君、いくつだい ? 」
はっと我に返ったようなエドガーを訝しがりながらも、リルムは質問に答えた。
「10歳よ。変なの、先行ってるよ」
リルムはそう言い残して、さっさと行ってしまった。エドガーはその後ろ姿を見送ると、ふうと息をついた。
本当は、エドガーは二つのことを考えていた。
一つ目は、フィガロのことだ。
エドガーは常にフィガロの国益を最優先に考えてきた。しかし、帝国が牙を剥き出しにした今、守るべきはフィガロだけでは済まされなくなってきている。
既に君主を失った国も多く、現在王として君臨しているのは自分と帝国のガストラだけだ。統率が取れない今、仮に今すぐ帝国が崩壊したとしても世界平和とはほど遠い。
エドガーが即位した頃は、小さな国だと帝国に小馬鹿にされた。また、エドガー自身も若かったことも手伝って、随分と辛酸を舐めさせられた。こうして世界を守る戦いに身を投じるなど、帝国と対等に渡り合う事に腐心していた頃には想像もしなかった。
そしてもう一つは、エドガーは自分を見つめていた。
エドガーは自分を「自分らしくない」と思っている。自らのフェミニズムを人に語りながら、特定の誰かを思い浮かべ気にすることなど、今までにあっただろうか、と。そして、そんな心の内を初対面の10歳の女の子に見破られたのかのようで、一瞬ドキリとしてしまったのだ。
おかげでそれまで考えていたことが吹き飛んでしまった。もちろんリルムを口説くことすら忘れていた。とはいえ、リルムはまだ幼い。
「10歳……さすがに犯罪か。……やめとこう」
「うん、それがいい」と口説かなかった自分に言い訳をして、一国の王は仲間達を追って歩き始めた。
20170324
お久しぶりになってしまった
ティナの愛の機微はすっとばしたくせに悲しませてしまうという暴挙に今気づいた……
もうちょっと説明的な何かを盛り込むべきだったかななどと言い訳してみる
でも愛は不滅
FF-D D+S m-ds New!夢物語
- 29 -
prev * next
しおりを挟む
MODORU