35 芽生え
「うわあ! 誰か来た! 」
ツェンでセリスと再会したマッシュとエルは、モブリズの村に来ていた。
村は壊滅状態でその荒れ様はすさまじく、人っ子一人見なかった。人の生存は絶望的かと村を出ようとした一行だったが、マッシュがほんの僅かな物音に気が付いた。どこかに隠し通路でもあるのではとセリスが仮説を立て、三人で探すと、地下の大きな居住空間に行き当たったのだった。
「ここから先は行かせないぞ! ボクたちだって戦えるんだ! 」
三人が地下へ入ると、真っ先に飛んできたのは小さな男の子だった。彼らを通すまいと必死になっている。他にも子供たちが大勢いるらしく、騒ぎを聞きつけて集まってきた。
「待って! 」
子供達に威嚇され、困り果てていた三人の前にようやく大人の声がした。それは三人のよく知る人物の声だ。彼らは驚いた。
「ティナ?! 」
子供達をかき分けて、ティナが奥から息を弾ませてやって来た。エルが彼女を呼ぶと、ティナよりも回りの子供達が先に反応した。
「ママ! この人たち、ママの友達? 」
子供達は口々にティナに聞く。ティナはふんわり笑いながら、優しく「そうよ」と答えて興奮していた子供達を宥めた。
「みんな……生きていたのね。会いたかった」
ティナは優しい笑みのまま、やってきた三人に微笑んだ。
「ティナ。いっしょに行きましょう。ケフカを倒さなければ、世界は破滅してしまう」
「ええ……」
セリスがティナの目をまっすぐに見る。けれど、ティナはばつが悪そうに目をそらした。加えて、ティナは少し困ったような顔をしている。
「みんな、上がってちょうだい。よかったら奥で休んで」
ティナはにっこり笑って、三人を迎え入れた。
地下にはティナを除いて子供しかいなかった。
子供達はエル達に気を許したらしく、居間に通されてテーブルについた彼らに寄ってきては口々に自分たちの境遇について教えてくれた。
「パパもママも、ボクたちをかばって死んじゃった」
「光が、みんなを……」
なんでも、ケフカの裁きの光によって、村の大人達はみんな子供達をかばって亡くなったそうだ。そんな時、村に現れたのがティナだったという。
「ティナ姉ちゃんのこと、みんなママって呼んでるんだ」
そう教えてくれた女の子は、とても嬉しそうだった。新しいママができたんだ、と。
「ディーンとカタリーナは、ぼくたちのなかで、いちばん年上なんだ」
そう言いながら、男の子達はこの中では割と年嵩の青年と少女を連れてきた。二人は子供達にひっぱられながら、エルたちに近づいてくる。
「ティナがママで、この2人はお兄ちゃんとお姉ちゃん! 」
マッシュの足下に、また別の子がやってきた。そして、彼のゆったりした作りのズボンを軽く引っ張ってこう言った。
「ティナママを……つれていっちゃうの……? 」
不安そうに瞳を揺らすその女の子に、マッシュは思わず言葉に詰まった。もちろん連れて行くつもりだったのだが、かといって「そうだ」とも言いにくい。彼はセリスやエルと顔を見合わせて苦笑いをする。
そこへ、ディーンが三人の前へやって来た。彼が三人をあまり歓迎していないことは、その表情を見れば分かる。ディーンは不機嫌そうに三人を一瞥した。不躾な態度だが、彼らも生きるのに必死なのだ。
「ここは俺たちの国だ。勝手なことされちゃこまるぜ」
腕組みをして、難しい顔をするディーンの隣で、カタリーナも口を開いた。
「ティナはみんなの心の支えなんです。ティナがいてくれたから、みんながんばってこれました」
カタリーナは三人の目ををそれぞれ見ながら、ティナが必要だと訴える。三人はすっかり困惑してしまった。
「私、戦う力が消えてしまったの……」
ティナがティーポットとカップを携えて居間に入ってきた。それらのトレイをテーブルに置くと、三人と共にテーブルに着く。
「世界が引き裂かれた日……この村の大人たちは、ケフカのさばきの光から子供達をかばってみな死んでしまった」
ティナは彼女の背後で不安そうに一同を見守る子供たちを振り返る。
「ここは子供達だけの村。そして、ここにたどり着いた私を子供達は必要としている」
ティナが三人に視線を戻すと、ディーンが大声を上げた。
「ティナをとるな! 」
「ディーン……」
カタリーナはいきり立つディーンを宥める。けれど、彼女も同じ気持ちだった。
「ごめんなさい。でも、ティナがいなくなったら私たち、支えを失ってしまう……」
そう言うと、カタリーナはディーンを連れて居間を出て行った。
「あの子たちがなぜ私を必要としているかはわからない。私が、あの子たちを守らなくてはならない理由なんてない」
ティナはカップに紅茶を注いだ。茶葉のいい香りが部屋を満たしてゆく。
「でも、何か変な感じなの。そして……この感情が私に芽生えた時、私から戦う力がなくなってしまった」
カップを皆に配り終えると、ティナは自分の紅茶に口をつけた。静かに一口飲むと、話を続ける。
「何かわかりかけているような気がするの。はっきりとは言えないけど……」
ティナは俯いて、カップの中身をじっと見た。ティナの困惑した顔が茶色い水面に浮かんでいる。
「でも、その答を見つけようとすればするほど、私の中から戦う力がなくなっていくの」
「そう……なら、仕方ないわね……」
セリスは目を伏せ、ティナに同意した。
エルもマッシュも異論はない。ティナは少しほっとした表情になり、息をついた。そして、すまなさそうな顔で、小さく「ごめんね」と言った。
エルは一口紅茶を飲んだ。優しい味と香りに、何だかほっとする。マッシュも気に入ったらしく、どこの茶葉だとティナに聞いていた。
その時、子供の鋭い声が地下室に響いてきた。
「大変だ! フンババがこっちにやって来る! 」
ティナは勢いよく立ち上がった。厳しい顔つきで、足早に入り口の方へと向かって行く。
「ティナ!? 」
「あなた戦えないんじゃ……! 」
エルとセリスが呼び止めるが、ティナは外へ飛び出した。三人もティナを慌てて追いかける。
「大地が引き裂かれた時、に甦ったい古の怪物フンババ……この村は私が守る! 」
ティナは現れたフンババに挑むが、やはり戦えない。結局一撃も与えることができずに倒れてしまった。
マッシュ達が地上に出ると、ティナが丁度倒れるところだった。彼女を助けに、急いで向かった。
「ティナ! しっかりしろ! 」
いち早く駆けつけたマッシュがティナを抱き起こす。けれど、ティナはぐったりして動けない。マッシュは少し離れたところに彼女を寝かせ、エルやセリスと共にフンババを迎え撃つ。
「くそっ。来るぞ! 」
◇
三人でフンババを撃退し、ティナを地下へと連れ帰った。返り討ちに遭ったフンババは、悔しそうに逃げて行った。
「ティナ……大丈夫? 」
ベッドに寝かせると、ティナは直ぐに気が付いた。エルが心配そうに声をかけると、ティナはゆっくりと身体を起こした。
「やっぱり、もう戦う力がない……」
「ティナ……」
愕然としてティナは俯いた。かけ布団を握りしめる手は、心なしか弱々しく見える。セリスはティナを宥めるように、優しく彼女の背をさすった。
「ママ! 」
「しっかりして! 」
「ママも死んじゃうの……? ボク、絶対にイヤだよ! 」
ティナが目覚めたことを報告しに行ったマッシュが、子供達と共に戻ってきた。彼らは一目散にティナのベッドへ集まり、みんな心配そうにティナを見上げている。
「私、ここに残るわ。一緒に行っても足手まといになる。それに、子供たちは私を必要としてる……」
ティナは近くにいた子供の頭をそっと撫でる。優しく繊細な手つきは子供達を安心させるようで、彼らはすっかり大人しくなった。
ティナは言葉を選びながら、ぽつりぽつりと話し始めた。三人は黙って耳を傾ける。
「もう少し時間が経てば……今、私の中に芽生えようとしているものの答が出れば……」
決断したティナに、誰も反対はしなかった。また様子を見に来ることを約束し、ティナとまた別れることになった。
その日のうちに、マッシュ達三人はモブリズを後にした。
20171023
FF-D D+S m-ds New!夢物語
- 36 -
prev * next
しおりを挟む
MODORU