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37 砂漠の王



 マッシュ一行は、今度はバザーを物色するエドガーそっくりの男の真後ろまでやってきた。
 マッシュはやや緊張した面もちで、男に声をかける。けれど、その返答は彼らの期待や想像とはかけ離れていた。


「なんだ、お前らは」


 男のにべもない返事に、マッシュもエルも目が点になった。セリスもぽかんとして、開いた口が塞がらない。マッシュはまずエドガーで間違いないと踏んでいたのに、と戸惑いを隠せない。
 男は三人を一瞥すると、また視線をバザーの品々へ戻した。
 しかし、マッシュは男がエルを見た時、ほんの一瞬、僅かに目を見開いたことに気付いた。端から見れば十分誤魔化せたであろうほど、本当に一瞬だった。けれど、エル本人も違和感を覚えている。
 男を問い正すことを一旦セリスに任せ、マッシュはエルに目配せをした。エルも頷く。
 ──やっぱりあれは兄貴だ。マッシュは確信した。


「本当に、エドガーじゃないの? 」


 セリスの問いかけを無視して、男は別の店へ移動した。三人は逃すまいと彼を必死で追いかける。
 セリスはめげずに再度呼びかけた。


「ねえ、エドガーでしょ? 」

「訳のわからない事を……小僧、これをくれ」


 男はリンゴをひとつ買い求め、代金を払った。店番の少年から威勢のいい声が響く。
 男はリンゴをかじりながら、船着き場の方向へ向かって歩き始めた。三人もまた彼を追いかける。そして、船着き場へ入る手前で追いつき、立ち去ろうとする男の前に立ちはだかった。このままでは引き下がれない。


「これからフィガロ行きの船に乗るのに忙しいんだ」

「とぼけないでよ」


 男の弁に、セリスは腕組みをして仁王立ちする。


「それとも……記憶をなくしたの? 」


 セリスがそう言うと、男は前髪をかきあげて気障ったらしく答えた。


「オレは生まれた時から荒くれ者のジェフって名さ、レディ」

「あら、レディなんて言うのはエドガーさんだけよ」


 セリスはにっこり笑って詰め寄った。しかし、ジェフは意にも介さず人差し指を立ててポーズを取る。これも見たことあるなあとエルは思った。


「レディに優しくってのは、世界の常識なんだよ」


 そう言ってジェフは船に乗り込んだ。三人もそれを追いかけて、船の積み荷の陰に忍び込む。
 三人が物陰に隠れたことを確認したジェフは、既に船で控えていた部下たちに出航を命じた。
 行き先はサウスフィガロ。港で船を下り、サウスフィガロの洞窟を経由してフィガロ城に潜入する作戦だ。

 ジェフの合図で船にマストが張られた。碇を引き上げ、いよいよ船はニケアを出航した。


「フィガロ城に入る方法は、お前たちがよく知っているな? 」


 ジェフの問いかけに、部下達は一斉に勇ましい掛け声で返事をする。盗賊達は城の宝が手に入ると、相当興奮していた。


「案内してくれ。潜入してからは俺が指揮をとる」


 オオー! と部下達の威勢のいい掛け声が、また響いた。
 熱狂する盗賊たちは、波の音とマッシュ一行と共に海を進んでいった。






 やがて船はサウスフィガロへ到着した。盗賊達はいそいそと船を下りてゆく。
 最後まで船に残っていたジェフは、部下達の居なくなった甲板で一人つぶやいた。


「……助けに行く。待ってろよ……」


 誰にも聞こえないような小さな声でそう言うと、ジェフはまだ遠いフィガロ城の方角へ目を向けた。厳しい顔つきで空を睨む。
 一方、マッシュ達も船を下りようと移動していた。ジェフが出口へ向かって歩いていると、三人と鉢合わせする。


「ん……? お前達、まだいたのか? 」

「エドガーなんでしょ? 」


 ジェフとセリスはしばらくにらみ合い、お互いの質問を無視して船を下りた。
 港に降りると、盗賊達がジェフを待っていた。出迎えるように一人の壮年の盗賊がジェフの前へ進み出る。


「ボス、用意ができましたぜ。行きやしょう」


 ジェフは「ああ」と頷き、彼の後ろにいた三人を振り返った。


「人違いだぜ。諦めな」


 ジェフはそう言い捨てて、盗賊達を連れて去っていった。けれど、言葉とは裏腹に、彼は少し進むと振り返る。そして、三人にウインクした。盗賊達に気取られないように、こっそりと。それを見た三人はさらに盗賊達の後を追いかける。
 やがてサウスフィガロの洞窟に着いた。奥へ進むと、泉の奥に更に道がある。けれど、泉は見るからに深く、渡る手段もない。ジェフには完全に行き止まりに思えた。
 ふと、ジェフが泉を見ると、水の中に大きな亀がいた。亀は現れた盗賊達を、何事だと言わんばかりに見つめている。


「さ、どうする? 」


 ジェフは盗賊達に問いかけると、一人の若い盗賊が進み出た。彼は手に何か持っている。彼は泉のほとりに腰を下ろし、手の中の物を泉に入れる。


「よ〜し、よし、よし。カメちゃん、エサだよ」


 餌につられて大きな亀が近づいてきた。若い盗賊が泉の畔に餌を置くと、亀は夢中で貪り始める。盗賊達は、この亀の背を臨時の足場にして泉の奥へと入るつもりだった。


「ね? 」


 若い盗賊は得意そうにジェフを見上げる。ジェフはヒュウ、と口笛を鳴らした。


「やるな」

「俺、昔カメ飼ってたんっす」


 盗賊は人差し指で鼻を擦り、へへへと笑った。
 泉の奥へと進むと、やがてフィガロ城の地下へ辿り着いた。
 盗賊達は宝の在処をしっかり把握しているらしい。ジェフが宝を盗って来いと指示すると、彼らはまっすぐ奥へと進んでいった。
 盗賊達がいなくなるのを確認すると、ジェフは彼のすぐそばで倒れている兵士へと近づいた。しゃがんで兵士の様子を伺うと、兵士は青い顔をして息苦しそうにぐったりしている。


「大丈夫か? もうすぐの辛抱だ」

「く、苦しい……」

「……原因は何だ? 機械室はどうなっている……? 」


 ジェフは厳しい顔つきで城の中へと進み、機械室へ向かった。


「こいつが……絡まっていたせいか……」


 ジェフは驚愕した。機械室へ入ると、おぞましい光景が広がっている。数多のツタのような触手を持つモンスターが、機械という機械に絡み付いていた。
 ショートして火災にならなかっただけでも幸運だと思えるほどの絡まりようで、流石にジェフも面食らった。盗賊達もここで足止めを食らっており、追いついてきたジェフに助けを求めた。


「ボス! どうしやす ?宝が隠してある部屋はこの奥ですぜ」

「俺がくい止めている間にお前らが行け! 」


 ジェフは絡み付くモンスターを睨みつけ、すらりと腰に下げた剣を抜いた。部下達を庇うように立つ姿は、ならず者達をも魅了する。


「ボス! 危険ですぜ! 」


 部下達はジェフの身を案じ、後込みし始めた。しかしジェフはここで諦めるなと、彼らの尻を叩いて進むように促した。


「いいから行け! 」


 勇敢なボスに感化された盗賊達は、意を決したように走り出す。宝物を目指して一目散に駆けて行った。



「エドガー! 」


 盗賊達がいなくなると、エルが機械室の扉を開けた。呼び声にジェフは振り返り、彼女の顔確認する。
 ジェフだった男は、それは嬉しそうに笑った。


「何ボケっと突っ立ってる! エル! 手伝ってくれよ! 」

「もちろん! エドガー! 」


 エルも嬉しくなって微笑み返す。すると、彼女の後ろからセリスも声をかけた。


「やっぱりエドガーね」


 セリスが扉から顔を出し、マッシュも続いて合流した。


「行くぜ! 兄貴! 」

「ああ、そっちは頼んだぞ! 」


 エドガー達は、ツタをなぎ払いながら、元凶であるモンスターに飛び掛かった。





 四人でモンスターを退治し、絡まっていた触手をエルとセリスの魔法で焼き払う。このとき、エルは少しの違和感を覚えた。
 ほんの僅かに、魔力が制限されているように感じた。もっと強く出せるはずなのに、どうしてもそこに届かない。気のせいかと思うほどの細かな差だが、エルにはとても気のせいには思えなかった。
 燃える触手の残骸と自分の手のひらを見比べながら、エルは感じた違和感を分析する。
 

「しらばっくれて」


 一方、エドガーはセリスに責め立てられていた。彼女も怒っているわけではない。ひどく心配していたのだ。


「フィガロが故障したって話を聞いてな。助けに行きたいけど、砂の中だろ。そんな時にあいつらが城から出てきたって話を聞いた」

「利用したわけね」

「秘密の洞窟に案内してもらうまで、フィガロ王だって事をバラすわけにはいかなかったからな」


 エドガーはすまなかったとセリス達に詫びた。
 エルは答えの出ない分析を止め、彼らの会話に参加することにした。既に、触手も燃え尽きている。


「かつては自分達を牢に入れていた王様だものね」


 セリスは笑った。


「水くせえな」


 マッシュは唇を尖らせた。エドガーは苦笑いして彼を宥める。しかし、遠くの方で物音がし始めた。エドガーはハッとして、仲間達に声をかけた。


「おっと、まずい。隠れろ」


 盗賊達が戻ってきたのだ。エドガー達は慌てて物陰に隠れた。少し出遅れたエルを引っ張って、エドガーは大きな制御盤の裏へ入り込む。
 機械室へ入った盗賊達は、モンスターが居ないことに歓喜した。しかし、そこには彼らのボスの姿もない。


「ボス! ……ボス? 」


 盗賊達はきょろきょろとあたりを見回してジェフを呼び、探した。しかし、一向に返事はなく、姿も見えない。だんだんと彼らにも諦めの表情が現れはじめる。


「もしや、あの怪物にやられて……」


 一人の盗賊がそう言うと、次々と伝染するかのようにジェフ死亡説が成立した。


「短い間のボスだったけど……」

「行こうか……長居もできない」


 盗賊達は宝が手に入った喜びと、ボスを失った悲しみの狭間で揺れながら、城を出て行った。


「いいの? 宝は……? 」


 エルは制御盤とエドガーに挟まれながら、エドガーを見上げて聞いた。
 どんなお宝かは知らないが、きっと代々守り続けてきた大切な物なのだろうことは想像できた。けれど、エドガーは大丈夫だと優しく微笑んで、首を横に振った。


「宝などなんの価値もない。本当の悪はケフカさ。やつらには罪はない」


 エルはその答えに安堵した。エドガーは彼女が心配するほど傷ついていないのだ。


「さて、かくれんぼは終わりにしようか。俺としてはもう少しこのままでもいいのだが、城の者を助けてやらないとな」


 そうエドガーに言われて、エルはようやく状況を把握した。
 そう言えば、狭いところでエドガーに抱き込まれる形で密着している。エルは居心地が良かった分、信じられないほど違和感を感じなかった。認識すると恥らいがその存在を主張し始める。
 エルは顔を紅潮させて、その場から離れた。エドガーも続いて物陰から出た。

 盗賊を見送った後すぐに城を操作し、フィガロ城は無事に日の目を見ることができた。砂の中で窒息寸前だった人々も回復し、死者を出さずに済んでいる。国民からのエドガーの株がまた上がったのは言うまでもない。
 その日、城が浮上した頃には既に日が陰りだしていた。一行はもちろん大歓迎を受け、城に泊まることにした。


20171028


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