39 友よ
フィガロ城周辺の景色は随分様変わりしていた。エルは朝の澄んだ空気を肺一杯に吸い込むと窓を閉め、身支度に取り掛かる。
地形が変わっていても、コーリンゲンの村は以前と変わらず同じ場所にあった。城が浮上した先にちょうど村があったので、行ってみようということになった。
何でもいいから情報を得ようと酒場へ入ると、店の奥のカウンター席で見慣れた男の姿があった。けれど、彼はすっかり荒んでいて、真っ昼間から出来上がっている。
相変わらずボサボサの銀髪は、以前ならそれが却って小粋に映ったものだ。しかし、今では見る影もない。元来の人相の悪さも手伝って、常人なら声をかけることすら躊躇うほどだが、彼にはむしろ都合が良かった。
だが、そんな彼にためらいなく話しかける人物が現れた。面倒くさそうに、不機嫌を隠しもせずに振り向くと、そこには共に空を駆けて戦った仲間たちがいた。
「セッツァー! 」
セリスは店に入るなりセッツァーを見つけると、彼の名を呼びながら近づいた。日頃彼に声をかける者などそういないので、他の客たちは知らぬフリをしながらも横目で事の成り行きを見守っている。
「……生きていたか」
「いっしょに行きましょう。ケフカを倒しに! 」
溌剌と話すセリスとは対照的に、セッツァーは皮肉なほど無気力に笑った。そして、彼女らを振り向いた身体をまたカウンターの方へ戻す。
「ふ……もう俺は何もやる気力が無いよ」
そう一言いうとセッツァーは手にしていたグラスを煽った。琥珀色の液体が彼の喉を流れてゆく。けれど、さほど旨そうには見えなかった。彼はただ、惰性で飲んでいる。エドガーはそう察しをつけると、渋い顔で腕組みをした。
「何を言っているのよ」
セリスは少しむっとした。セッツァーのあまりの投げ遣りさに苛立っている。
「もともと俺はギャンブルの世界に、つまり人の心にゆとりがあった平和な世界に乗っかって生きて来た男だ……」
セッツァーは話しながらグラスをテーブルに置き、ゆっくりとセリスの方へ身体を向けた。
「そんな俺に、この世界で何ができる。翼も失ってしまった」
そう言うとセッツァーは自嘲し、右の口角だけを上げて卑屈に笑った。その様はなんとも寂しげで、エルには真っ二つに折れたブラックジャックと彼が重なって見えた。
けれどセリスは食い下がる。なんとしてもセッツァーにも希望を持って欲しいし、何より戦力が足りない。彼女も必死だ。
「世界が引き裂かれる前に、あなたは私達と必死に戦ってくれたじゃない。あんなつらい戦いに……」
「でも、もう俺は……夢をなくしちまった」
セッツァーは無気力で、何も見ていないような目をしている。オペラ座で出会った彼はエネルギーが漲り、むしろギラギラしていた。なのに、それは幻だったのではないかと思うほどだ。
「こんな世界だからこそ、もう一度夢を追わなければならないんじゃない? 」
セリスはめげなかった。挑戦的な目でセッツァーを見つめ、ずいと身を乗り出す。
セリスの意志の強い瞳と血色の良い唇が、セッツァーの目の前に現れる。その仕草は図らずも色っぽく映り、セッツァーは思わずセリスに目を奪われた。
「世界を取り戻す夢を見るの……! 」
セリスはそういうと、ニッと笑った。挑戦的な雰囲気はそのままに、強く美しい笑みだった。
セッツァーには、見失ったことにすら気づかなかった勝利の女神が、彼のすぐ側で微笑んでいるかのように見えた。俄にセッツァーの瞳に力が戻る。
「ふふ……あんたの言うとおりだぜ。つきあってくれるか? 俺の夢に……」
セリスは「もちろん」と頷き、他の仲間たちも笑顔で迎える。
「ありがとう。……行こう、ダリルの墓へ」
「ダリルの墓……? 」
エルが聞く。どうして墓なのかと顔に「?」を浮かべていると、セッツァーがニヒルな笑みを浮かべた。
「蘇らせるんだ。もうひとつの翼を」
一行はコーリンゲンを出て、セッツァーの友人・ダリルの墓へと向かうことになった。
あれだけ飲んだくれていたにも関わらず、セッツァーは飲み代を現金できちんと支払った。むしろ「釣りは要らない」と、チップを弾んだくらいだ。
世捨て人同然だった男が顔つきをがらりと変えて、仲間たちと颯爽と去っていく。これまでとのギャップが大きすぎた。店のマスターも客達も唖然として、当面の村の噂話のネタを提供することとなった。
◇
コーリンゲンの村の南西へ行ったところに、ひっそりと墓が作られていた。人里離れた場所で、草木をかき分けてようやく入り口が見つかった。墓と言うには壮大で、むしろ遺跡のような広大さだ。
「ここは……あなたの友達の……」
セリスが遠慮がちにセッツァーに聞いた。セッツァーはこの墓に彼の友人ダリルと、彼女の愛機・ファンコンを葬ったという。飛空挺を安置するために、こんなにも大きな墓を作ったのだと彼は言った。
「たいしたヤツだ。世界がひっくり返っちまったてのにビクともしちゃいねェ」
そううそぶきながら、入り口の扉を開く。何年も閉じられたままだった扉は新しい空気を拒むように、ぎいぎいと不気味な音を立てた。
「なんたって墓だからな。いろいろ出るかもしれないぜ。気をつけな」
ぎしぎしと軋む長い階段を地下へ向かって降りて行く。
──友よ 安らかに。ダリルここに眠る──
長い階段を降りてゆくと、やがて一つの墓石に行き当たる。ダリルの墓だ。外で摘んだ花で花輪を作り、マッシュがそれを墓に供えた。
セッツァーは刻まれた文字を手でなぞる様に撫でて埃を落とす。次いで持参した酒瓶を懐から取り出し、墓石にじゃぶじゃぶかける。
「お前の好きな銘柄だ。ザルだったお前にゃ物足りねぇだろうが、これしか手には入らなかった。今回はこれで勘弁してくれよ」
セッツァーがダリルに語りかけるのを、皆黙って聞いていた。そして手を合わせ、祈りを捧げる。
「いろいろと思い出すぜ」
セッツァーは墓石をじっと見つめた。そして、彼の青春の思い出話が始まった。
20171106
FF-D D+S m-ds New!夢物語
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