40 夢を追う男
ダリルはバーのカウンターに腰掛け、グラスを傾けた。大きな氷がコロンと音を立て、透明な液体が彼女の喉へ流れて行く。
「今度のテスト飛行は危険かもしれない」
ダリルはもう一口酒を飲み、ちらりと隣に座る弟分を見た。
「船の限界まで挑戦するなんてムチャだ! 」
内容の割に淡々と話すダリルに、セッツァーは驚く。もちろん止めた。けれど、彼女は頑として受け入れない。どうしても譲らない姉貴分に、セッツァーは歯噛みした。
「私にもしもの事があったら、ファルコンはよろしく」
聞き入れない上に、ダリルは縁起でもないことをさらりと言う。セッツァーも、不機嫌だった顔をさらに歪めた。
「バカ言え! ファルコンをいただくのはスピードでお前に勝った時だ。それまでは俺の前から逃がさねェぞ」
セッツァーは煙草の煙を吐き出すとグラスの中身を煽り、ダリルを睨みつける。ダリルはからりと笑って答えた。そして、彼女も持っていた葉巻に火を付ける。
「ふっ。好きにしな! 」
ダリルは旨そうに煙を吸い込み、吐き出した。セッツァーの苛立ちは全く気にしない。セッツァーはいつものことだとは思いつつ、「チッ」と舌打ちをしてまた酒を煽った。
翌日、二人は飛空挺に乗り込んだ。ダリルにとっては、人生を賭けた空への挑戦の始まりだった。
「やっぱり空は最高だな! 」
セッツァーは口笛を吹いた。ご機嫌で舵を取り、ゆっくりとスピードを上げて行く。
風も、すこしひんやりする空気も、セッツァーには全てが心地よかった。彼の全てとも言える空を、全身で堪能する。それをダリルと共有するこの時間が、彼には何よりも大切だった。そんなセッツァーを、ダリルはさらにご機嫌で挑発した。
「いつまで後にいるつもり? 悔しかったら私の前に出てみな! 」
そう言うと、ダリルはさらにスピードを上げてどんどん前へ進んで行く。セッツァーの飛空挺との差は広がるばかりだ。
「それとも、私のお尻がそんなに魅力的なのかしら? 」
ダリルは笑った。ケラケラと笑うその様子は随分楽しそうで余裕がある。この段階ではエンジンも機体の性能も、特に無理はしていない。なのに、とんでもないスピードだ。さらに丸いフォルムも美しく、機能美も兼ね備えている。セッツァーのブラックジャックとは比べるまでもなく、ファルコンは素晴らしい飛空挺だった。
セッツァーは感嘆した。彼の船では、やはりまだ追いつけそうにはないなと感服するばかりだ。だからこそ張り合いがあり、楽しいのだ。
セッツァーは空に、そしてダリルに夢中だった。そして彼は、いつか自分の力でダリルを追い抜いて、ファルコンもダリルも自分の物にすると心に決めていた。彼は恋をしていた。
「さすがだな」
「これからが本番よ。記録を塗り替えるわ! 」
ダリルの飛空挺はどんどん高度と速度を上げた。だんだんセッツァーの位置からは見えなくなる。
「雲を抜け、世界で一番近く星空を見る女になるのよ! 」
セッツァーが何を言おうと、ダリルは限界に挑戦するつもりだった。セッツァーは諦めたように息を付き、ダリルを見送る。
「日没までに帰れ! いつもの丘で落ち合おう! 」
ダリルはセッツァーの声に答えると、あっという間に見えなくなってしまった。しかし、それが彼女の最後の姿となってしまう。
約束の丘は夕焼けが美しかった。
赤い夕日が燦然と輝き、ダリルの栄光を今か今かと待ち受ける。けれど、待てど暮らせど、一向にダリルは現れなかった。
セッツァーは待った。日が暮れても、夜が明けても。何日かしてまた来てみても、やはりダリルは来なかった。
「遠くの土地で壊れたファルコンを見つけたのは、それから1年後だった」
セッツァーはじっと彼の話に耳を傾ける面々に静かに話した。悲しく衝撃的な結末に誰もが息を飲み、黙ってしまう。
ダリルの事故によって、セッツァーの青春は終わった。そして、それは彼の夢が破れた瞬間でもあった。セッツァーはどこか陰のある男だとみんな感じていたが、その陰の正体はこんなにも悲しい出来事だったのだ。
セッツァーは墓石から目を離し、仲間達に視線を移した。
「次はこっちだ。行くぞ」
一行は墓石のあった場所からさらに移動し、大きな格納庫のような物の扉の前に来た。地下に作られ、年月が経っているせいかお化け屋敷のように見える。けれど、みるからに頑丈そうで立派な作りをしたそれは、作り手の情熱と愛情が伺える。
セッツァーは話を続けた。
「俺はファルコンを整備し、大地の下に眠らせてやった」
そう言いながら、セッツァーは格納庫の扉を開いた。中にはブラックジャックとはまた違った趣の飛空挺がひっそりと佇んでいる。
「これが、ファルコン? 」
エドガーは飛空挺を目にすると、セッツァーに問うた。セッツァーはニヤリと笑う。
「羽を失っちゃあ、世界最速の男になれないからな」
セッツァーはそう言うと、手のひらでファルコンの機体をそっと撫でた。ふと、彼の脳裏に在りし日のダリルの姿が浮かぶ。カラカラと笑いながら、いつかのように「好きにしな! 」と言われているかのような感覚を覚え、セッツァーは人知れず口角を上げて笑った。
「また夢を見させてもらうぜ。ファルコンよ」
セッツァーに促され、一行はファルコンに乗り込んだ。セッツァーは操縦桿を握ると、ふうと息を吐く。
セッツァーはこんな形でファルコンに乗ることになるとは思ってもみなかった。けれど、ダリルの残した飛空挺で再び夢を追うことが出来るのだ。結局彼女には永遠に勝てなくなってしまったが、それでも感慨深かった。
「頼むぜ」
セッツァーはファルコンに、そしてダリルに今度こそ夢を叶えるのだと誓った。
エルには、セッツァーに再びギラギラしたエネルギーが蘇ったように思えた。彼の原動力は飛空挺と、それに賭ける夢なのだ。エルは今更ながらに思い知った。
飛空挺に乗り込んだセッツァーは、一際輝いて見える。やはり、この人と飛空挺、そして空は切り離せないものなのだ。
「今度は俺達の夢を」
エドガーがファルコンの甲板に出て、皆の顔を見渡す。みんな希望に満ちた顔をしていた。
「瓦礫の塔のケフカを倒しに行きましょう」
セリスは強い瞳で決意を語る。
「そして俺達の仲間を探そう」
マッシュが言うと、エドガーも続ける。
「そうだ。俺達にもまだ夢はある。いや、夢を作り出せる! 」
ファルコンが浮上する。地下を出て、大地がみるみる遠くなっていく。そこへ、1羽の青い鳥が飛んで来た。セリスは、どうしてもその鳥から目が離せなくなった。
「セッツァー! あの鳥を追って! 」
「どうした? 」
突然叫ぶように言うセリスに、セッツァーは怪訝そうな顔をする。けれど、セリス本人も、同じくらい不思議そうにしていた。
「わからない……。けど、あの鳥の行く先に仲間が待っていそうなの」
「……きっと、いるよ。みんなとまた、会える」
エルは自分に言い聞かせるように、ぽつりと言った。セリスはエルの言葉に強く頷き、まだ近くを飛んでいる鳥を見つめる。
エドガーはそっとエルの肩を抱き寄せ、優しく微笑んだ。セッツァーがそれを目敏く見つけ、面白い物を見たとばかりに口角を上げて笑う。
マッシュはセッツァーに苦笑しながらも、以前の賑やかさが戻りつつある仲間達に安堵の息を漏らした。エルと彼の兄に関しては少々複雑だが、彼らの幸せを願っているのも本当だ。これでいいんだと、マッシュは自分にはっぱをかけた。
鳥は無邪気にファルコンの周りを飛び回っている。エルはこの一年、鳥は1羽も見なかった。目の前の青い鳥が、幸せや希望の象徴のように見えた。
20171109
セッツァーさんて今思い返すとかなりのロマンチストですよね
当時は子供だったのでその辺の機微はさっぱりわかってませんでしたけど
多少はわたしの希望と都合で捏造した設定もありますが、それでもやっぱり夢追人ですよね
彼と付き合ったら、きっといろいろうっとりするような思い出を作れそうな人だなあと思った次第です
でも結婚には向かなさそう、なんて笑
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