FF-D D+S m-ds New!夢物語


43 面影



 どこまでも広がる草原に、エルはどこかほっとした心持ちだった。今や世界のあちこちが風景を変えてしまったが、ニケアと同じようにここも以前の姿を留めている。
 エルが思わず微笑むと、さあっと凪ぐ風にマントをはためかせるエドガーと目が合った。彼は先ほど街で買った大量の干し肉を抱えながら、柔らかい笑みをエルに返す。エルは何とも言えない幸福な気分で一杯だった。
 

「ねえ、エドガー」

「なんだい? 」


 エドガーがエルを優しい瞳で見つめた。
 エルはエドガーの大きな水色の瞳に溺れているような錯覚すら起こしそうだ。そんな自分にこっそりカツを入れ、首をフルフルと横に振った。


「ううん。何でもない」


 エルがいたずらっぽく肩を竦めると、エドガーは「そうか 」とだけ返事した。そっけないながらも彼のその顔は心底嬉しそうで、エルは思わず目を逸らし、ひとりドキドキした。
 そんな彼らの少し先を歩いていたマッシュとカイエンはそのやり取りを見て見ぬ振りをする。カイエンはやや顔を赤らめていたが、必死で平静を装う。
 赤面する壮年のサムライを見たマッシュは笑いをかみ殺すのに忙しく、彼もまた平静を装うのに腐心した。

 失恋からは吹っ切れた。まだほんの少しくすぶるものの、ここで笑えるのだから随分癒えたものだとマッシュはエルとエドガーを振り返る。
 マッシュは他の地域よりも長く育った草をかき分けながら、さり気なく道を作るようにしてまた歩き始めた。そうして一行は獣ヶ原を進み、人里からはすっかり離れた場所へやってきた。


「さて、ガウを探そうぜ」


 マッシュがそう言うと、カイエンは「一層逞しくなっているのでござろうなあ」と、目を細めて答えた。

 カイエンの亡くなった息子・シュンとガウは似た年頃だった。二人は仕草も顔つきも性格もまるで違うが、カイエンはガウを見ているとどうしてもシュンを思い出す。そして、そのたびに悲しみとやるせなさに苦味が走るのを、彼は人知れず堪えている。
 どうしても重ねて見てしまう、とカイエンは苦笑いを隠すようにして広大な平原を見渡した。

 柔らかな風を見に受け遠くを眺めていると、カイエンの視界で何かが動いた。草色の鮮やかな色の髪が弾み、長く伸びた草の影を走っている。


「やや、マッシュ殿! 」


 カイエンの指し示す場所へマッシュが視線を移すと、草原とよく似た色のマントをはためかせた小さな体が躍動した。
 ガウだ。けれど、彼はまだ仲間たちには気付いていない。モンスターの群れに入っており、彼は今、正にモンスターのように振る舞っていた。


「ガウ殿! 」


 カイエンは大きく手を振った。マッシュも彼と同じように声をかける。


「おーい! ガウー! 」


 マッシュが大きく手を振り、彼はエドガーが抱えていた干し肉を幾つか掴むとカイエンと同じように振り回す。すると、ガウはすぐに彼らに気づいた。満面の笑みを浮かべながら、猛スピードで彼らの元へと走って行く。
 しかし、ガウと群れていたモンスター達もマッシュらの存在に気が付いた。彼らもガウと共にやってきて、そのまま戦闘へと移行する。
 モンスター達はまるでガウを庇うようにして一行に立ち向かった。ガウを見失ってしまうほどの勢いで、一行はモンスター達を全滅させるより仕様がない。バタバタなぎ倒すと、ガウがひょっこりと顔を出した。

 エルはガウに声をかけ、彼に干し肉を投げた。
 モンスターに混ざっているときのガウには仲間たちも下手に近づいたり、なるべく刺激しないようにしていた。人間でありながら本物の獣のような出で立ちで、一見獰猛そうに見える。だが、その実繊細でいつも怯えているようにも見えたからだ。
 獣ヶ原で時々食べ物を分けていたエルでさえ、モンスターと群れているガウと出くわすことはなかった。


「ガウー、干し肉だよ! 」


 ガウはエルが投げた干し肉をしっかり掴むと、ますます嬉しそうな顔でにっこり笑った。その顔はもう、獣ではない。


「ガウ、がうー! ガウガウ、おれガウ!
みんなのなかま! 仲間! 」


 そう言いながら、ガウは干し肉にガブリと食いついた。


「また一緒に、旅をするー! 」


 勢い良く干し肉を平らげたガウは、マッシュの身体を駆け上がる。あっという間に肩車の位置まで来ると「もっとくれ! 」と、干し肉を抱えたエドガーのマントを掴んだ。そのまま干し肉の中に飛び込みそうなガウの勢いにエドガーは大笑いし、カイエンはまた目を細めて優しく笑った。


20180320



FF-D D+S m-ds New!夢物語
- 44 -

prevnext

しおりを挟む

MODORU
↓選択できます↓