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44 戻って来るよ



 生ぬるい空気と淀んだ魔力に飲まれまいと、マッシュは精神を集中して気合いを入れ直した。気を抜くと精神を乗っ取られそうなほど、おどろおどろしい雰囲気が立ち込めている。彼は複雑な表情で、回りにいる虚ろな目をした人々を見つめた。
 大勢の人間が、高くそびえる塔を取り巻いている。彼らは狂信者と呼ばれていて、世間からは廃人だと認識されていた。実際に、世捨て人となった者が心の拠り所を求めて、世界中から集まって来ている。
 一行も、本来なら近づきなくはなかったのだが、なんとその中にストラゴスがいた。ファルコンで上空を通った際に、ガウが甲板から見つけたのだ。

 信者たちから発せらる禍々しい雰囲気が歪んで魔力を帯び、塔を訪れた者の武器を封印してしまう。同行しているカイエンは、どうしても抜けない刀に未だ納得がいかない。そして、もっと納得がいかないのは、ようやく見つけたストラゴスだった。
 ストラゴスはマッシュ達が何を言っても、何をしても全く反応しない。一緒に旅をした仲間が目の前にいるのに、まるで呪いにでもかかったかのような変貌ぶりだった。


「おい! じいさん? どうしちまったんだい……」

「ストラゴス殿! 我らのことがわかりませぬか!!! 」


 マッシュとカイエンは何度も何度も声ををかけているが、ストラゴスは全く反応がない。ガウはすっかりしょげてしまい、その場に座り込んでしまった。


「ううううむ。埒が開かぬ」


 困りきった顔でカイエンが言うと、マッシュはポリポリと頭をかいた。彼らはじっとストラゴスをみていが、やはりこちらの存在にすら気付かないような素振りだ。彼はひたすら何やら念じている。


「仕方がない。一旦引き上げよう」

「がうがう! がう、腹へった! 」
 

 一行はは後ろ髪を引かれる思いで塔を後にした。

 一方そのころ――。

 イーゼルに立てられたキャンバスがしゅうしゅうと音を立てて、僅かな黒煙を上げている。ぜいぜいと肩で息をしながら、エルはそれを見張るように見つめていた。
 エドガーとセリスもエルと同じようにしていたが、キャンバスから魔物が消滅した事を確認すると剣を納めた。
 キャンバスは魔物に取り憑かれていたことをすっかり忘れたように、そこに描かれた女神は穏やかに微笑んでいる。まだ完成していないその絵は、リルムが手掛けているものだ。
 豊かな髪、美しく澄んだ瞳、滑らかな肌はまるで本物のようだ。さながらアフロディーテのような出で立ちの女神は、未完成ながら美しく豪奢な雰囲気を醸し出している。いかにもジドールの貴族が好むようなド派手な絵ではなくい。優しく明るい配色も相まって、リルムのセンスが存分に表れたよい絵だと、エドガーは感嘆のいきをもらした。


「おーい! 魔物はくたばったから安心しろよ」


 リルムは物陰にかくれている雇い主に声をかけた。


「おかげで助かった……なんせ、命より大事な絵じゃからの」


 アウザーはそう言うと立ち上がった。戸棚の影からひょいと顔を出し、リルムの姿を探している。


「へーえ。命よりも大事なんだ」


 リルムは呆れたように肩をすぼめ、エルに目配せした。エルも開いた口が塞がらない。命がないと絵も楽しめないのに、とボソリとつぶやく。


「どうしてあの絵に魔物が? 」


 セリスが問うと、アウザーは淡々と話し始めた。
 なんでも、アウザーは競売で買った石を見ていると、彼は急に女神の絵が欲しくなった。色んな画家に描かせてもどうも思い通りのものができない。そんな時、リルムの噂を聞いたアウザーは彼女に依頼した。
 ところが、アウザーが持っていた石の魔力に引き寄せられた魔物が描きかけの絵に取り憑いた。魔物が現れて困っていたところにたまたま街を見つけて訪れていたエル達が立ち寄り、魔物を退治したということだった。


「リルム行くよ」


 リルムはそう言うと、身体を玄関の方へ向けた。しかし、すぐにアウザーに振り向くと、はっきりとした口調で続けた。


「でも心配しないで……ケフカを倒したら、必ずこの絵を完成させるために戻ってくる! 」

「リルムや……。いつまででも待っておるからの……」


 そう言うアウザーは少し寂しそうにしたが、元気良く出発したリルムを快く見送った。


20190601


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