46 長い洞窟
「みんな! 」
煮えたぎる溶岩に囲まれた暗い洞窟に、青い人影が声をあげた。彼は自らの仲間を遠くに認めると、嬉しそうに手を振った。エルとセリスも手を大きく振って応え、彼に近づいて行く。
「ロック……! 」
セリスは想い人の無事な姿に安堵し、目の前にいることに感動さえしていた。今すぐ駆け出して抱き締めたい衝動を抑えながら、足場の悪い通路を慎重に進む。
ロックは手のひらに戦利品を乗せ、再会した仲間たちに見せた。一行は彼の手の中の物を一斉に覗き込む。
「やっと……見つけたんだ。魂をよみがえらせる、伝説の秘宝」
「それは、魔石…? 」
セリスが問うと、ロックはフェニックスの魔石だとそれは嬉しそうに答えた。
フェニックスといえば蘇生を司る幻獣であることは有名な話だ。
ロックの思惑を感じ取ったセリスは、つい先程まで歓喜に満ちていた瞳を一瞬で曇らせた。セリスはロックからすっと目を逸らせる。傷付いた顔をして、じっと斜め下を見詰めている。けれどロックはそんな彼女を気にする様子はなく、興奮しきりだ。
長年追い求めた秘宝を手に入れたのだから興奮するのは仕方のないことだ。だが、それを意味することを瞬時に理解した彼の仲間たちは、セリスに同情する。
エルはセリスの背をそっと擦り、寄り添った。ロックの態度に、エドガーは片手で頭を押さえて小さく息を吐く。けれど、ロックは既に自分の世界に入ってしまっている。
「フェニックスは自らを石に変えたという伝説があるが、やはり本当だったんだ。しかし……」
興奮冷めやらぬロックは、ほくほくした表情で魔石を手の中で転がしながら検分する。
けれど、ある一点で表示が変わった。
「ヒビがはいっている……これでは、奇跡の力を起こすことはできないかもしれない」
「ロック……あなた、レイチェルを……? 」
セリスは青い顔をしていた。今にも倒れそうなほどだ。
ロックはセリスの顔を見ると、彼女の瞳を見つめて唇を噛んだ。
「俺はレイチェルを守ってやれなかった。真実を、なくしてしまった。だから、それを取り戻すまで俺にとって本当の事は、何もない」
ロックははっきりとした口調でそう言うと、くるりと踵を返す。そして出口の方向へ歩き始めた。
「行くのか? コーリンゲンまで」
エドガーがそう問うと、ロックは一度足を止めた。そして、彼を振り返らずにこくりと頷ずくとまた歩き始める。
「セリス……行こう。とりあえず、ここを出ないと」
エルがセリスを見上げると、セリスはすっと顔を上げて前を向いた。目線はしっかりとしていて、決意に満ちている。
――わたしはロックが好き。彼が誰を好きでも――
「……そうね。わたし、見届けるわ。決めたんだもの」
セリスはセッツァーに迫られた時に宣言したことを、頭の中で反芻していた。
一行はコーリンゲンの村へ戻った。
すぐさまレイチェルの安置される部屋へ行き、ロックは魔石をもう動かない身体の上に置いた。けれど、目立った変化は何もない。
ロックは落胆し、セリスは彼を心配そうに見つめる。他の者が諦めて部屋を出ようとしたその時、魔石が突然強い光を放った。
「魔石が……あれは…」
エルが思わずつぶやくと同時に、魔石がふわりと浮かび上がった。そして次の瞬間には粉々に砕け散ってしまった。
絶望的な表情で愕然とするロックに、誰も声をかけられない。しんと静まり返った部屋に、重い空気がのし掛かる。
「ロック……」
ふと、女性の声がした。始めて聞く声に、エルははっとしてベッドを見た。レイチェルの目が開いている。これには一行も目を剥いて驚いた。
ロックは泣き出しそうな表情でレイチェルを呼んだ。
「レイチェル!! 」
「ロック、会いたかった。お話ししたかった」
レイチェルが微笑むと、ロックは彼女が横たわるベッドにすがり付くようにして側についた。そっと彼女の手を握る。
「フェニックスが最後の力で少しだけ時間をくれたの。でも、すぐに行かなければならない」
ロックは一言も聞き漏らすまいと、じいとレイチェルを見つめる。いつになく真剣で真面目な表情をしていた。
セリスは黙って二人の様子をやや離れたところから見守るが、その表情は硬い。けれど、その視線は外されることはもうなかった。
レイチェルはひとことづつ、ゆっくりと噛み締めるようにロックに語りかける。
「だから、あなたに言い忘れたことを、今言うわ」
ロックはごくりと唾を飲み込んだ。ますます神妙な表情になり、レイチェルの言葉をじっと待つ。
「ロック。私、幸せだったの。死ぬ時、あなたのことを思い出して、とても……とても、幸せな気持ちで眠りについたの」
ロックは目を見開いた。きつく結ばれていた口許は緩み、呆けたような顔つきに変わる。
「あなたに言い忘れた言葉……ロック、ありがとう」
「レイチェル!! 」
ロックは哭いていた。人目を憚ることもわすれて、大粒の涙を流す。長年彼をがんじ絡めにしてきた鎖が、今ようやく緩み始めている。
「もう行かなきゃならない。あなたがくれた、幸せ。本当にありがとう。この私の感謝の気持ちで、あなたの心をしばっているその鎖を断ち切ってください。あなたの心の中のその人を、愛してあげて」
ロックは頭を強く殴られたような衝撃を受けた。彼はレイチェルへの罪悪感ばかり感じていたが、彼女は自分を怨んでなどいなかった。後悔に苛まれ、自責の念に押し潰されていたロックの心は、完全に解放された。
レイチェルはロックに再び微笑んだ。そして、ゆっくり眼を閉じる。今度こそ、もう二度と開くことはない。
ロックはレイチェルの手を取ると、彼女の手の甲にそっと自分の頬を当てた。
しばらく誰も話さなかった。動くことすらしなかった。
ロックがレイチェルから手を離し、立ち上がった。そして、ベッドから背を向けてふと視線をやると、部屋の隅にいたセリスと目が合った。
セリスは心配そうな表情で、気遣うようにロックを見ている。
「ロック……」
「大丈夫……レイチェルが俺の心に光をくれた。もう、大丈夫だ」
そう言って、ロックは晴れやかに笑った。それなりに付き合いの長いエドガーですら、ロックの本当の笑顔は初めて見た。セリスはほっと息をついた。
ロックは急にモゾモゾと動き始めた。自身のあらゆる場所に備えるポケットから、あらゆるアイテムを次々に出してゆく。
「どうしたの? 」
セリスが不思議そうな顔をしてロックに近付く。エルは彼の近くに置かれたアイテムを一つずつ手に取った。
「エクスポーション、フェニックスの尾、エーテルスーパー、エリクサーに、……これ何? 」
エルは真っ赤に燃え盛るような色をした盾をエドガーに見せた。盾はほんのり暖かい。
「ああ、これはフレイムシールドだな。珍しいものだ」
セリスも次々と現れるアイテムに目を見張った。
ロックの服には、一体どんな仕掛けが施されているのか不思議なくらい、たくさんのお宝が出て来た。
「あら、バリアントナイフだわ」
「おう。フェニックスの洞窟のお宝だ! 」
ロックはどんなもんだと言わんばかりの顔つきで胸を張った。
バリアントナイフを差し出すセリスからそれを受け取ると、ロックは柔らかな瞳でセリスを見つめた。
何かに遠慮も罪悪感を感じることのない、まっすぐな愛情が、視線を通してセリスにも伝わる。ロック自身も、こんなにも穏やかにいられることすら忘れていた。
ロックの中でレイチェルは消えることはない。レイチェルを足枷にしてきたのはロック本人だった。
長い時間をかけて人生を再び歩み始めたロックが、また新たな愛を受け入れる事をようやく自分に許すことが出来たはレイチェルのおかげだ。
20190722
これは子供時代に於ける最大の問題シーンでした。
「セリスはどうするねんな!」と、思ってました。(考察参照)
でも、今なら多少解釈が変わったかも。
少なくとも、この回書くための解釈ではこの通りです。
子供には難しいわ。
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