49 もしかすると
一行はまた爺さんの家の前に戻って来た。これからいよいよ爺さんとガウと対面させるのだ。
「いいか? ガウ。立派になった自分を親父に見せてやるんだぞ」
「はう……」
マッシュが優しくガウの髪を撫でた。ガウは緊張した顔でマッシュを見上げる。
初めてのジャケットは窮屈で動きにくい。テーブルマナーも結局よくわからぬままだ。何より、自分の身寄りはモンスターだけだとばかり考えていた少年は、実のところ未だ混乱していた。
「ガウ、大丈夫? 」
エルは少し俯いたガウの顔を覗き込む。彼はまた身長が伸びて、いつの間にか少しだけエルよりも背が高くなっていた。
カイエンはそわそわと刀を確かめたり、ため息をついたりして落ち着かない。ガウが心配でたまらない、といった風だ。いつもどっしり構えるカイエンには珍しい事だった。
大人たちの中では、ガウに無理強いだけはしまいと決めている。どんな経緯でガウが獣が原で育ったかはわからないが、その事実こそが獣ケ原に至る経緯の不穏さを物語っている。
ガウは前を向いた。視線は決意に満ちている。大いに混乱し揺らいでいたガウは、はっきりと家の玄関を見据えている。向き合う事に決めたのだ。
「おいら、行く。オヤジ、会う」
そう言うと、ガウは玄関に向かった。
仲間たちが見守る中、マッシュが玄関をノックする。入室の許可が出ると、連だって家に入っていった。
「よう、親父さん」
マッシュが爺さんに声を掛けるが、爺さんは相手が誰だかピンと来ていない。
「なんじゃい、お前ら…? 」
爺さんは数秒ほどじっと考えた後、ぽんと手を打った。
「おお! 修理屋か! 」
マッシュは否定も肯定もせず、爺さんの目を正面から見つめた。
「親父さんよ。あんた、息子がいたんだろ…? なあ、そうだろ……? 」
「……息子? 」
爺さんは「はて」と首を捻った。ピンと来ないようで、ブツブツ言いながら何やら考え込んている。
「おう。実は生きてるんだよ、親父さん」
そう言って、マッシュは仲間に目配せした。エルとカイエンは頷き、ガウの背をそっと押す。
「オ…ヤジ……」
ガウは緊張した表情で爺さんの前へ出た。すこし俯いて、不安そうな瞳を揺らしている。
「なんじゃ。さっきから、おまえ達、息子じゃと? ワシには息子などおらん! 」
爺さんはきっぱり言い切った。しかし、そのすぐ後で、何かを思い出したように遠い目をして語り始めた。
「そういえば……昔、悪い夢を見たことがあるな。……悪魔の子が生まれる夢じゃ! 」
爺さんは突然大声を出した。怯えたような声色で、手はわなわなと震えている。
「ワシは子どもをおぶって獣ケ原まで行くんじゃ…悪魔の子を……。獣ケ原に着くと、その子はにわかに泣きだしよった……」
エルは息を飲んだ。やはりこの爺さんはガウの父親だろう。けれど、この言い方はひどい。まるで悪夢かのように語っているが、何が彼をここまで追い詰めたのだろうか。
マッシュは爺さんの言い草に驚いた。余りの事に、思わず声を荒げる。だが、爺さんは意にも介さないどころか、全く聞いていない。すっかり自分の話に入り込んでしまっている。
「おいっ!! 親父さん──」
爺さんの口は止まらない。多少大げさだったとしても、概ね真実だろう。夢だと思い込もうと自分に言い聞かせるかのように、ガウの生まれた時の事を饒舌に語る。
マッシュはオロオロし始めた。こんな話をガウに聞かせたかったのではない。マッシュはガウの様子を伺うが、小さな背中しか見えなかった。
獣が原で赤子を捨てた時の話になると、爺さんは如何にそれが恐ろしかったかを力説する。ブルブルと震えて見せた爺さんは、言いたいことを言った事に満足し始めていた。
「だめだ…この人はもう…」
気が触れた老人に、誰もこれ以上ガウの事であろう思い出話を語らせる気にはならなかった。ガウのためになればと勝手にお節介したのだが、こんな結果になるとは誰が想像しただろう。
カイエンはガウの肩を抱き、エルはガウと手を繋ぐ。彼らはガウと共にこの家から出て行く事にした。
最後に残ったマッシュを呼び止めて、爺さんはどこか焦点の合わない目を彼に向けた。
「あんたみたいなリッパな子をもった親は幸せじゃろうて。ワシゃ今でも悪魔の子に追われる夢を見るんじゃ。恐ろしや、恐ろしや……」
マッシュの中で、何かがぶつりと音を立てた。遂に堪忍袋の緒が切れたのだ。
「このじじい! 言わせておけば……ガウの気持ちも考えないで! ブンなぐられたいか? 」
そうは言ったものの、マッシュは瞬時にそれを恥じた。幾らまともな思考を持たないとはいえ、明らかに自分よりも非力な老人相手に怒鳴りつけてしまった。長い年月をかけて修業してきたモンク僧であるはずなのに、この老人に何の慈悲も見いだせなかった。
とはいえ、マッシュの許せない思いが消えるわけでもない。握りしめた震える拳で本当に爺さんを殴ってしまわないように、歯を食いしばって耐えた。
ふとマッシュが前を見ると、目の前にガウが立っていた。老人を庇うように両腕を広げて、マッシュを見つめて低く唸っている。
「ガウ……ゥ ゥ……」
「すまねえ……つい…」
マッシュは項垂れた。ガウに申し訳ないばかりで、大人気なかったと反省しきりだった。そこへ先に家を出ていたカイエンとエルも、ガウを追い掛けて戻ってきた。
マッシュは何とも居づらい気持ちで頭をポリポリとかいた。どうしたものかと思っていると、ガウは目を潤ませていた。
「オ…ヤジ……いき…てる。ガウ……し… あ… わ… せ……」
ガウはそこまで言うと、大粒の涙を流した。
2020/05/03
ガウが健気でかわいい。
当時も感じるものはあったけど、もう親目線でしか見られなくなってしまった。
ガウのお母さんが出産の時に亡くなって、それで気が動転した爺さんはそのまま気が触れた。という話をどっかで聞いたので、一応ベースはそれ。
生まれたての赤ちゃんなんてみんな血まみれやからね。びっくりはするよね。
夢なのにヒロインの存在感が空気なのはうちのデフォルトかもしれない。
でも、ここででしゃばるとちょっと違うかなと。
原作はバイブルですから。
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