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50 決戦前夜



 一行はフィガロ城に来ていた。
 獣が原で倒れていたシャドウを助けた後、しばらくサマサに滞在していたが、いよいよケフカがいる瓦礫の塔へ乗り込むのだ。今夜は決起集会を兼ねた晩餐会が開かれている。
 晩餐と言っても、仲間内だけのささやかな物だ。マッシュどころかエドガーまでもが出陣すると聞いた神官長が血相を変えて飛んで来た以外は、ほぼいつも通りだ。
 ガミガミと説教されるエドガーに仲間たちは気の毒がっている。エルはその様子に目を丸くしながらも、エドガーがこんなにも愛され必要とされている事に感動すらしていた。

 仲間たちで飲み食いするのも今夜が最後だ。たとえ勝ったとしても、皆それぞれ帰るべき場所へ戻ってゆく。マッシュ達に拾われた事、ファルコンや、かつてはブラックジャックで仲間たちと過ごした日々が、エルの脳裏に次々に浮かんで来る。
 エルは既に泣きそうだった。どうも感傷的でいけない。それとも、一口飲んだ飲みなれないワインに酔っているのだろうか。

「エル、大丈夫? 」

 隣に座るセリスが、心配そうにエルの顔を覗き込んだ。泣きそうだったのを知られたくない一心で、エルは慌てて笑って見せると、ごまかすように他の話題を振った。

「ケフカは、三闘神と一つになったんだよね……」
「そうね……」

 セリスは悲しそうに目を伏せる。

「昔から知っているだけに、辛いわね」

 セリスはそう言うと、持っていたスプーンでプリンを掬った。デザート一つ取っても、城の食べ物は豪華で美味しい。セリスはその優しい甘さに、うっとりとため息をついた。
 エドガーが説教から逃れるようにやって来た。彼はエルの隣に座り、ようやく開放されたとため息をついて見せる。だが、その表情はむしろ嬉しそうで、エルはクスリと笑った。エドガーは、ワインの入ったグラスと、ツマミをそれぞれの手に持って来ている。

「いよいよだな」
「うん」

 エドガーはワインを一口含んだ。彼は目を閉じて、口の中に残った香りを楽しんでいる。その時、セリスの表情が神妙な顔つきに変わった。

「どうした、セリス? 」

 エドガーがそう言うと、セリスは「あくまでも予想だけど」と前置きをして話し始めた。

「三闘神は幻獣界において、魔法を司る神様だったわよね。という事は、その神を倒したら……」
「どうなるの? 」

 エルはエドガーが差し出したツマミの中からクルミを摘み、ポリポリと咀嚼する。ゴクリと飲み込むと、セリスの次の言葉を待った。

「よく、分からないけど……」

 言い淀むセリスに、エルはイヤな予感がした。すると、今度は後ろから返事が聞こえた。

「幻獣、そして魔法がこの世から消えてなくなってしまうかもしれん……」

 三人が一斉に振り向くと、ストラゴスが深い考え顔をして立っていた。

「すると……」

 エドガーはエルを見た。悲しみと、戸惑いとがない混ぜになったような表情をしている。
 だが、エルはまだピンと来なかった。他人事のように受け止めないと、恐ろしくてたまらなかったのかもしれない。

「エルとティナは、どうなるの……?」

 セリスは隣に座るエル、次いで部屋の対角線上でモグを抱いて幸せそうにしているティナを見つめた。

 晩餐会という名の決起集会は、誰からともなく作戦会議に変化した。夜もすっかり更け、プランFまで考えたところで解散となる。
 一行にはそれぞれ個室が貸し出され、久々に寛げると皆喜んだ。フィガロ側も、砂に埋まった城を救い、且つ世界をも救おうとしている英雄達への支援を惜しまない。
 湯浴みを済ませ、そろそろ寝ようかとエルはベッドの端に座っていた。ぼんやりしながら壁の絢爛な装飾を眺めていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。

「エル、エドガーだ。少しいいかな」

 エルがドアを開けると、紺地に深い緑色で縁取りされたナイトガウンに身を包んだエドガーが立っていた。
 エドガーはダンスの誘いかと思うほど、優雅に手を差し出したポーズを取りながら立っている。エルは目をぱちくりさせた。

「どうしたの? エドガー? 」

「お手をどうぞ、レディ・エル」

 エルがエドガーに差し出された手を取ると、彼はエルの手の甲に頬を寄せ、キスをした。愛しくてたまらない、といった表情に、エルは嬉しいような恥ずかしいような、ふわふわした気分になる。
 エドガーに手を引かれ、ついて行った先は彼の私室だった。エドガーは流れるように優雅な仕草でドアを開けた。エルにウインクし、まるで執事のようにエルへ入室を促す。

「どうぞ」
「おじゃまします」

 エルはドアをくぐり、部屋へと足を踏み入れた。
 エドガーの部屋は、本棚に所狭しと並んだたくさんの本と、作りかけの機械やその部品に囲まれていた。けれど決して散らかっている訳ではなく、きちんと整頓されている。
 作業台と文机を兼ねた大きなテーブルと、天蓋付きのベッド、大きなランプとクローゼットがある以外は特に何もない。粗末な訳ではないが、華美でもなかった。一国の王の物としては慎ましやかな部屋は、エドガー本来の飾らない性格が現れているようだ。

「君ともう少し一緒にいたくてね。お付き合い願えるかな? 」

 エドガーはいたずらっぽく微笑むとドアを閉め、エルを抱きしめた。

「わたしも……」

 エルがエドガーを見上げると、エドガーは至極嬉しそうな顔をしていた。そのまま彼の顔が降りてくるとエルは目を閉じて、その時を待った。

 明日で全ての決着が付く。
 幻獣の命で今日まで生命を繋いだエルや、幻獣とのハーフであるティナの存在が明日もあるとは限らない。もちろん明日に控える闘いも恐ろしいが、たとえ勝っても消えてしまうかも知れないと思うと、エルは恐ろしくてたまらなかった。
 けれど、エドガーに抱かれていると、不安が全部溶けてしまうような気がした。すがるようにエドガーを抱きしめ返すと、エドガーはさらに力強くエルを抱きしめる

 エドガーはたくさんのキスをエルに与えた。それを受けるエルは、彼に溺れそうだ。エドガーが身体のどこに触れても、エルは心が震えた。遂に自立できなくなるほどだったが、エドガーの支えで何とかその場所に留まっている。
 エルはもう何も他の事を考えられない。早々に思考を手放し、エドガーに一切を任せる事にした。
 エルは溺れてしまったのだ。エドガーはエルを軽々と抱えると、彼女を自分のベッドへ運んだ。

 エルはふと、嫌な考えが過ぎった。もし自分が消えたら、エドガーはどう思うだろう。彼はこんなにも自分を愛してくれているのに。もちろん、それはエルも同じだが、残されるのは嫌だと思った。
 消えなくない。消える訳にはいかない。そんな思いを抱えて、エルは自分を見下ろすエドガーの頬に手を伸ばした。

「エドガーでいっぱいになったら……わたし、消えずに済むかな……? 」

 エドガーは悲しい目をした。情けないほど悲壮な顔つきに、エルはさらに恐ろしく、悲しくなる。

「エル、消えないでくれ……頼む……。そんな事になったら俺は──」

 エドガーは泣きそうな顔でエルの唇を塞いだ。エドガーはこれ以上喋ると現実になるのではないかと恐ろしくなったのだ。もう喋らせまいと、エルの口を物理的に塞いだ。けれど、同時にエドガーはエルの案は名案だとも思った。

「エルは、人間として心をちゃんと持っている。だから俺は、君は大丈夫だと信じている」

 はっとしたエルに、エドガーはもう一度唇を重ねた。

2020/05/06
なんてこった!
このサイトには珍しいオトナ回再び!
でも決戦前夜やしな。ドキドキ。
と、言う事でもう少しで完結しそうです。


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