6 はじめまして、レディ
幻獣は既に谷へ移した。後は幻獣を狙う帝国兵を追い返さねばならない。めいめい谷まで移動する。
エルも皆について歩いていた。初めて見る雪は思った以上に厄介で、その足取りは危なっかしい。今にも滑って転びそうなエルを見かねて、エドガーが声をかけた。
「エルと言ったかな。雪は初めてかい? 滑らないように気をつけなさい。この谷は深いからね」
エドガーがにっこりと微笑むと、エルも思わず顔が綻んだ。
「ありがとうございます。とってもきれいだけれど、歩きにくくて」
「置いて行ったりしないから、しっかり歩くんだよ」
「はい……きゃあ! 」
言われた側からエルは足を滑らせた。雪がブーツの底に張り付いて、踏み締めるはずが止まらない。尻餅をつき、ずるずると滑っていく。エドガーは慌ててエルを支え、抱き起こす。
数メートル先は崖だった。底が見えない程、深い谷だ。
「ふう、危ないところだった……大丈夫かい? エル」
エルは眼前の景色に青ざめ、恐怖に震えた。なんとか頷くが、呆然としてすぐに声は出なかった。心臓が嫌な激しさで動いている。
エドガーは、エルが少し落ち着くのを待ってから、共に歩き始めた。
「あ、あの。ごめんなさい。それと、ありがとうございました」
「どういたしまして。ここは特に狭いからね。君が無事でよかった。そうだ、こちらこそマッシュが世話になったそうだね」
「マッシュのお兄さんですよね。自慢の兄貴だっ、て、マッシュが」
「おや、それは光栄だ」
エドガーは嬉しそうに笑った。笑った顔は、特にマッシュと同じ顔に見える。
「おっとこれは失礼。まだ名乗っていなかったね。私はエドガー・フィガロ。マッシュの双子の兄だよ」
エドガーは立ち止まり、恭しく一礼した。そしてエルの手を取り、甲にキスをする。それは流れるように優雅で、風格のある所作だった。エルはますます恐縮する。
「いえ、そんな。お世話になっているのはわたしの方なのに。今だって、そう」
お世話になります。と、エルは頭を下げた。
「君の世話なら喜んで。可愛らしいレディ。それよりも、妬けるね。出来れば私にも気軽に接して貰えないだろうか。敬語も遣わなくていい。私もマッシュと同じなんだから、ね? 」
エドガーはウインクして微笑み、そのままエルの肩を抱こうとする。
「わかったわ。ありがとう。よろしくね、エドガー」
エルはふわりと笑った。エドガーもさらに笑みを深める。そこへ前方からマッシュが現れた。少し先を歩いていたが、二人が遅いので戻って来たのだ。
「エル、ここにいたのか。兄貴は手が早いから気を付けろよ」
「ひどい言い方だな、マッシュ。レディへの挨拶なのに」
マッシュはエルの肩に触れようとする兄の手をさり気なく払う。その様子にエドガーは少し驚いた。
これまであまり女性に興味を示さなかった弟が、自分をエルに触らせまいとした。彼は弟の変化を喜びはしたが、かといって邪魔されたことは面白くない。
「おや、マッシュ。嫉妬はみっともないぞ」
「いや、俺は兄貴の癖が気になっただけだよ」
エルはエドガーに助けてもらったのだと弁解をしつつ、二人のやり取りを可笑しそうに聞いていた。
みんな良くしてくれている。何とかやっていけるかな、とエル思った。
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