11 悲しい思い出
ギルバートは肩を震わせて泣いている。冷たくなったアンナの身体をぎゅうぎゅうに抱きしめて、大の大人が大声でおいおい泣いている。
普段は美しく整えられているであろう金髪も服装も振り乱し、周りの目は全く気にならない様子だ。ギルバートの悲しみは並の物ではない。
けれど、あまりの泣きっぷりは、傍目には奇怪なほどだった。ここまで派手に泣ける成人男性など、彼を置いて他にいない。
「ア、アンナァ……」
全くその場から動こうとしないギルバートに、他の面々は呆れ始めていた。中でも、つい最近似たような経験をしたリディアには、腹に据えかねるものがあった。怒りと悲しみが入り混じったような表情で、リディアが怒鳴りつける。
「弱虫! お兄ちゃんは大人でしょ! なのに……あたしだって……!」
「リディア……」
セシルは悲痛な面持ちでリディアの言葉を噛み締める。アベルもリディアとつないだ手に思わず力が入る。
しかし、ギルバートは開き直った。身も心も傷付いた今、彼は自棄になっていた。
「そうさ……君の言う通り、僕は弱虫さ。 だから、ずっとこうしてアンナの側にいる。もう何もかも、どうでもいいんだ! 」
ギルバートは誰の顔も見ない。身体もアンナへ向けたまま、取り合おうともしなかった。
しかし、その言い分にはセシルも黙っていられなくなった。子供じみた事を言うギルバートに、いつもは穏やかな彼の顔は少しばかり強張っている。
それに、砂漠の光を手に入れる為にはギルバートの協力が必要だ。カイポの住人によると、砂漠の光はアントリオンの生息地にあるが、そこへは王族でないと入れないという。ここでギルバートに出会えたことは幸運だったのだが、肝心の彼がこの調子ではどうにもならない。
「悲しいのは君だけじゃないんだぞ! そんなことをしても、アンナも喜びはしない! それに今の僕らには、君の助けが必要なんだ!」
セシルの言葉で、ギルバートはピタリと泣くのを止めた。彼は意外そうな顔をして、ゆっくりとセシルの方へ向き直った。
「僕が、君たちを助けるだって? 」
心底驚いたと言わんばかりに、ギルバートはセシル一行を見渡した。セシルは簡単に事情を説明する。
「僕はセシル。 カイポで高熱病に倒れている仲間を助ける為、砂漠の光がどうしても必要なんだ。 それには……君の助けが要る! 」
「僕が、助ける……」
ギルバートは神妙な顔つきで、ぽつりとこぼした。まるで「自分が誰かの役に立つなどと思っても見なかった」といった風だ。
自分が誰かを助けるというのは、ギルバートにとって慣れないことである。しかし、同時に心地よい響きでもあった。
「そうだ。 ローザの為に……頼む! 」
セシルは頭を下げた。今彼に出来る精一杯を見せる。アベルもセシルの後ろで一緒に頭を下げた。
ギルバートはポカンとして彼らを見ていたが、直ぐに顔つきを引き締めた。そして、意を決して彼らへの協力を申し出る。
「ローザという人は、君たちの大事な人らしいね。愛する人を、失ってはいけない」
ギルバートはアンナを優しく横たえると、しっかりした足取りで立ち上がった。
「砂漠の光は、東の洞窟に住むアントリオンが 産卵の時に出す分泌物から出来る。洞窟には浅瀬を渡らなければ行けない。 ダムシアンにあるホバー船なら、浅瀬も越えられる。カイポにも浅瀬を越えて行けるはずだ」
セシルとアベルは顔を上げると、嬉しそうに顔を見合わせた。リディアもニッコリ笑っている。
「さあ、急ごう! ホバー船はこっちだ」
「ああ! 」
一行はギルバートを加えて、アントリオンの洞窟へ向かう事となった。
ギルバートは横たえたアンナを振り返る。愛しい人の姿を目に焼き付けるように見つめ、最後の言葉をかけた。
「さよなら……アンナ! 」
そう告げたギルバートは、一度も振り返らずに広間を出た。その姿は潔く、堂々たるものだった。
洞窟に着く前に日が落ち、この日は野宿することになった。
食事を終えるとすぐにリディアは寝てしまい、残った大人たちで見張り番をしている。夜中まではギルバートとアベルで、その後から朝まではセシルが交代で見張りをすることに決まった。相談が終わると、彼らはそれぞれの身の上話に花を咲かせていた。
セシルはバロンで元々赤い翼を指揮していたことや、アベルはその隊員で彼の部下であったことをギルバートに話した。さらにその後のミストでのことやリディアのこと、共に国を出たカインのことやカイポで伏せっているローザのこと、そしてテラとの出会いのことも話す。
ギルバートはセシル達のこれまでの経緯に随分心を痛めた。彼も故郷やアンナを失ったばかりであることも手伝って、とても他人事ではないと悲痛な表情でじっと目をつぶった。
「本当に、何と言ってよいか……君たちも、つらい思いをしてきたんだね」
「……僕の一生をかけてでも、償いをしなければならない。たとえ許されなくても」
セシルはそう言うと、俯いてしまった。
月明かりに照らされた銀髪が、儚い光を放ちながらさらりと落ちた。彼の沈痛の表情を覆い隠すようで、なんとも哀しく、美しい。アベルは気付かれないように嘆息した。
アベルはじっとセシルを見つめる。慰めの言葉の一つも言いたかったが、やはり声が出ない。アベルもまた俯いて、なんともどかしいことかと自分の状況を呪った。
「僕は、吟遊詩人として各国を放浪していたんだ」
ギルバートは静かに語り始めた。セシルとアベルは顔を上げ、ギルバートの話に聞き入った。
ギルバートはダムシアンの王子であることを隠し、世界中を歩いた。旅の終わりに、ダムシアンに帰るために最後に立ち寄ったカイポでアンナと出会ったという。
「運命とは、本当にあるのだと思ったよ。そのくらい、僕達は強く惹かれ合ったんだ」
懐かしむように、そして少し寂しそうな顔でギルバートは語る。そして、それをじっと聞くセシルも、無意識のうちに彼の黒髪の娘に思いを馳せていた。
ギルバートとアンナは出会って間もないうちに結婚の約束までしていた。けれど、アンナの父・テラがそれを認めなかったために、彼らは駆け落ちしてしまった。そんな時に現れたのが、バロンの赤い翼を率いたゴルペーザと名乗る者だった。
「その後は見ての通りさ。僕は何もかも無くしてしまった」
ギルバートは溜め息をついた。そして、大事そうに抱えていたリュートを構え、音楽を奏で始める。その旋律は物悲しく、彼の心境をそのまま映しているかのようだった。
20171112
この後しばらくギルバートのターンです
わたしが思うギルバートのイメージをそのまま出します
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