15 孤高のモンク
セシル一行はホブスの山頂に着いた。
視界が開け、広く青い空がどこまでも広がっている。生い茂る葉が柔らかな風にのってそよぐ。それだけならば居心地のよいのどかな場所だが、辺りには激しい怒号が響いていた。
何事かと彼らが辺りを見回すと、人間が一人でボムの群と戦っていた。木々の間に開けた場所があるが、その人はだんだんと森の方へ追い詰められている。
「ねえ! あれ!! 」
いち早く見つけたリディアが、悲鳴に近い声を上げてボム達を指差した。
「あれは……モンク僧……? 」
リディアの指をたどったギルバートは目を見開いた。
ギルバートの視線の先では、男性が一人で戦っていた。彼は赤いゆったりとしたズボンを身に纏い、上半身の鍛え上げられた肉体が剥き出しだ。長い弁髪を振り乱し、身一つで戦う様は阿修羅のように勇壮だ。しかし、一人では分が悪い。
「助けるぞ! 」
セシルがそう言いながら走り出すと、一行も一斉に助けに向かった。
セシル達が走っている間にボムの群れはマザーボムに変わっていた。襲われていたモンク僧は善戦しているものの、完全に圧されている。
セシルは戦いに割って入ると暗黒剣を構え、リディアは呪文の詠唱に入った。彼女を守るようにアベルは剣を構え、ローザは弓を引き絞る。ギルバートは既に歌っていた。
モンク僧は口の中で「忝ない」と言うと、セシルと共にモンスターに飛びかかった。
◇
マザーボムを倒すと、 モンク僧はセシルたちの前へ向き直った。姿勢を正し、彼は深々と礼をする。
彼と共に前線で戦っていたセシルは、戦闘を終えた後もなお続く美しい姿勢と機敏な身のこなしに目を奪われた。
「危ないところを忝い。私はファブールのモンク僧長ヤンと申す」
ヤンはまず、彼の側にいたセシルに、そして後方にいたローザやギルバート、リディア、そしてアベルの一人一人と目を合わせながら話し始めた。
「我らはホブスの山で修行中、魔物の群れに襲われた。他の者は私を残し全滅してしまった。あれほどの手だれの者たちが……」
ヤンは拳を強く握り、悔やんだ表情でうつむいた。その姿は悲痛そのものだ。
皆がヤンの話を聞いてふと辺りを見渡すと、そこかしこに無惨な姿の僧たちが横たわっていることに気づいた。
アベルは俄にこみ上げる吐き気と戦いながら、懸命に精神を現実に引き戻す。震える手でなんとか剣を鞘に納めた。
悲しみとも恐れとも言いようのない気持ちに支配されることに必死で耐えていた。
セシルはアベルの様子がまたおかしい事に気付いた。アベルの方へ移動すると、背をそっとさすってやる。
手甲でごつごつした見た目とは反対に、手のひらの部分はは柔らかだ。
「アベル。大丈夫か? 」
アベルは何とかして頷くと、トラウマとの戦いに戻った。けれど、アベルの心はじわりと暖かな気持ちが混ざり初めている。
セシルはアベルの背で手を動かしながら仮面を外し、ヤンの方へ向いて口を開いた。
「僕らもファブールへ向かっている途中なのです」
「ゴルベーザという男がバロンを利用し、各国からクリスタルを奪っています」
ローザがセシルに続けて話すと、ヤンは驚きと焦りの混ざったような表情ではっと目を見開いた。
「ということは、ファブールの風のクリスタルも…! 」
ヤンの顔つきが緊張と焦燥でますます強ばる。彼は視線をファブール城の方角へ向けた。ここから城を見ることはできないが、城の無事をひたすらに願う。
ギルバートはリュートを抱え直し、倒れたモンク僧たちの方へ移動する。彼は弦をつま弾いて、穏やかな、けれど物悲しい旋律を奏でてゆく。その音楽と同じような顔つきで口を開いた。
「ええ、ダムシアンのクリスタルは、既に奪われてしまいました」
そう言うと、ギルバートは犠牲になったモンク僧たちへの鎮魂歌を歌い始めた。その美しいメロディーは死者だけでなく、生者の魂をも癒すかのような心地よさだ。
アベルも思わず瞳を閉じて、その心地よさに身を委ねた。
「次はファブールが狙われています」
セシルがそう言うと、ヤンは頭を抱えた。
「なんということだ。主力のモンク隊は全滅。城にいるのはまだ修行も浅い者ばかり。 今攻め込まれてはひとたまりもない」
「……恐らく、さっきの魔物たちもゴルベーザに遣わされたはず」
ローザの言葉に、ヤンは硬い表情で拳を強く握りしめた。
「もしや……我らを消してファブールを無防備にする為か!? 」
ヤンは絶望と怒りがない交ぜになったような声だ。怒りで握った拳がプルプルと震えている。
「とすれば、手薄になったファブールへもう既に向かっていてもおかしくない」
セシルにヤンは大きく頷いた。他の者も、互いに視線で確認し合う。ファブールへ急ごう、と。
やや回復したアベルの手を、リディアがきゅっと握った。
「僕らも手伝います! 早くファブールへ! 」
「しかし、そなたたちまで巻込んでは……」
力強く提案するセシルに、ヤンは遠慮する。ぬるい戦いでないことは想像ができる。本来なら付き合いで関わることではない。
「これは僕らの戦いでもあるんです。そこにいるアベルも同じです」
セシルがアベルの肩をとんと叩く。
アベルはリディアの手を握ったまま、ヤンの目を見て小さく頷いた。
「僕はダムシアンの王子です」
歌い終えたギルバートがリュートを手に、ヤンや皆の方へ戻ってきた。
「僕とローザ、アベルはバロンにいました」
セシルはそこまで話すと一呼吸置き、意を決したように続けた。
「この子も……バロン王に騙されて、僕が……」
リディアは絞り出すように話すセシルを複雑な表情で見上げた。まだやや青い顔をしたアベルとセシルを交互に見ている。
「皆、理由ありか……」
時間にして二秒ほど、考えをまとめたヤンは決心した。神妙な顔つきで改めて皆を見る。
「忝い! 助太刀願えるか? 」
「勿論だ! 」
セシルはさもたあり前だと言わんばかりに返事をし、他の者も既に闘志を燃やしている。
皆の意志を受け止めたヤンは、その瞳に強い光を宿した。彼は大きく息を吸い込む。心の整理は着いた。
「ファブールは東の山を越えたところ。さあ、急ぎましょう」
セシル一行はヤンと共に、ファブールへと急いだ。
20190508
D+S FF-D New!夢物語
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