16 乱れた心
深紅の幕が張られた広間の奥に、ひときわ豪奢な玉座が鎮座している。赤いローブに身を包んだファブール王は、それらにひけを取らない堂々たる出で立ちだ。
ファブール王は王の間に辿り着いたセシル一行を一瞥すると、とヤンに声をかけた。
「ヤンよ、戻ったか」
「はっ」
膝まづき頭を下げていたヤンだが、がばりと身を起こす。
「申し上げます。ゴルベーザなる者がバロンを動かし、我が国のクリスタルを奪いに来るようでございます」
ヤンの報告に王の顔つきが変わった。凛々しい眉が寄せられ、表情に緊張が走る。
「それは誠か」
「この方たちは、それを知らせに来てくれたのです」
ヤンがそういうと、王はヤンの後ろで控えていたセシル達へもう一度視線をやった。
「して、その方たちは何者じゃ」
不審がる王にヤンが経緯を説明する。セシルも時間がないと進言するが、王は信用して良いものかと決めかねていた。原因は、セシルだ。
「しかしその姿はバロンの暗黒騎士であろう。 信じてよいものだろうか……」
セシルははっとして自分の鎧を見下ろした。アベルにはバロン兵の鎧から着替えさせたが、戦闘する都合上、自分はそのままでいたことに今になって気が付いた。
アベルもセシルも、この王の一言が一番堪えた。彼らが飛空挺団赤き翼の一員だったころ、団員であることが何よりの誇りだった。ところが、今ではバロンの関係者であったことですら不審の原因になるまでに堕ちてしまった。
やるせない気持ちでいる二人を、ヤンは必死で弁明する。
「陛下! 彼らは信頼できる方たちです! 私が襲われていたところを助太刀して……」
「お久しぶりです。 ファブール王」
ギルバートは颯爽とヤンの横へと進んだ。彼は王に脱いだ帽子を手に、優雅な一礼をして見せる。それを見た王は目を見張った。
「これはギルバート王子! 」
「ダムシアンも襲われ、クリスタルを奪われました。父も母も……恋人も失いました」
王の表情が固くなった。目をつぶり口を一文字に結ぶ。けれど、未だ決心がつかないといった風だ。
「このファブールを、ダムシアンの二の舞にされるおつもりですか! 」
煮え切らない王に、ギルバートは語気を荒げて訴えた。彼らしからぬ強い口調に、ついに王も腹を括った。
「すまぬ! 誠であったか」
王はセシルに詫びた。セシルも膝まづいたまま頭を垂れる。
「だが、主力のモンク隊はヤンを除いて全滅したのであろう」
そう言うと王は玉座から降り、膝まづくセシルの目の前まで歩いてきた。王はセシルに顔を上げるように促す。
「そなたらも、我らに力を貸してはくれないか? 」
「はい! 」
二つ返事で答えたセシルに王は「よろしく頼む」と言うと、直ちに大臣たちを召集した。
「この方たちは素晴らしい腕をお持ちです。 私と共に最前線に就いて頂きます」
「お主がそこまで言うのなら、そなたたちに賭けてみよう。娘たちは救護の任に就いてもらおう」
王の言葉にヤンとセシル、アベルは短く返事をして頭を下げだ。ローザも姿勢を正すと「承知しました」と言い、リディアと共に頭を下げる。
王は「頼むぞ」と言うと玉座に戻った。ちょうどその頃、大臣達が作戦会議のために集まり始めていた。王は家臣にてきぱきと指示を出していく。
「では参りましょう」
ヤンは立ち上がり、セシル達を促す。前線へ駆り出される者たちが歩き始めると、不安げな顔をしたローザがセシルに駆け寄ってきた。
「セシル! 」
セシルは歩を止め、ローザを振り返る。
ローザは振り返ったセシルの胸にトンと右の手のひらを置いて、セシルを見上げた。それはまるで恋人同士のような雰囲気である。セシルのすぐ後ろに着いていたアベルはその瞬間、心臓がきゅっと音をたてて絞られるような感覚を覚えた。
「気をつけてね……」
今にも泣き出しそうな潤んだ目を向けるローザに、アベルは言いようのない焦燥を感じいた。同時に、今の自分は男としてここにいるというのに、こんなにも心がかき乱されていることに驚きもしていた。
大抵の事はこれまで冷静に対処してきたと自負していたが、もはや幻だったかのようだ。
「……君も」
セシルはローザに緊張感の漂う表情で短く答えると、すぐにくるりと踵を返した。まだ何か言い足りないローザと、緊張で硬い表情をしたディアに見送られながら、彼らはヤンの後について城門へと急いだ。
20190510
D+S FF-D New!夢物語
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