3 不穏の影
「そんな……」
「クリスタルを、奪う……なんて」
兵士たちは、皆暗い表情でセシルを取り囲むようにして話を聞いていた。
先日下ったミシディアでの任務について、作戦会議が行われている。しかし、その内容はクリスタルの“強奪”である。近頃は
疚しい命令が多くなったとはいえ、こんなにも非人道的な命令は前代未聞だった。
赤き翼の面々は動揺を隠せない。命令を伝えるセシルも苦い表情をしていた。
「……ミシディアの民は、クリスタルの秘密を知りすぎているとの陛下のご判断だ……」
誰もが複雑な思いだった。しかし、彼らに表だって異を唱えることなど出来ようもなかった。
「任務は明日だ。今日はこれで解散する」
皆、落胆した表情で唇を噛んでいる。誇り高い騎士たちは、まさか自分たちの力を略奪のために使われるなどとは露ほどにも思っていなかった。
はっきりと口にする者はいないが、かつて賢王と名高かった自国の王への疑念がムクムクと膨れ上がる。夕暮れ時特有の寂しさが、なおさらその心情を煽るようだった。
不意にアベルは古い記憶が甦った。沸き立つ鍋のようにふつふつと、凄惨な出来事が胸の内に次々とわき起こる。
アベルの家族は凶賊によって殺されていた。幼いアベルが一人生き残ってしまったが故に、その時の光景は今も鮮明に思い出せてしまう。
「う……おえ」
突然吐き気を催したアベルは、慌てて手を口元へやった。なんとか堪えたものの、顔色は酷く青白い。隣にいた兵士が驚いて素っ頓狂な声をあげた。
「お、おい! アベル? お前大丈夫か? 」
「大丈、夫……うっ」
兵士は慌ててアベルの兜を外してやった。アベルは吐き気を抑えるのに必死になっている。
セシルは他の隊員たちをかき分けてアベルの前までやってきた。小柄なアベルに合わせるように少し腰を屈め、マスクをはずして顔をのぞき込む。
「アベル、大丈夫か? 」
「は、はい! 申し訳ありません……」
セシルの薄紫の瞳にアベルの顔が映る。青ざめて、今にも倒れそうだ。なのに、アベルはふとアンとしてセシルと出会ったことも同時に思い出す。
「君はもう休むんだ。明日も待機していてくれ」
一瞬だけ、頬が赤くなりそうだと心配したアベルだったが、杞憂に終わった。すぐに表情が曇り、むしろ顔色はますます青白くなった。
「そんな……! 隊長! 大丈夫です! わたしもお供させてください! 」
アベルは必死で食い下がる。置いて行かれるなど、騎士の名折れだと思った。
「いいや。何かあってからでは遅い。体調は万全であることが大前提だ」
「……はい」
ここまで言われては、もう撤回されることはない。アベルは酷く落胆した。
しかし、心のどこかで安堵もしていた。騎士として──組織の一員としてはともかく──少なくとも幼い頃のトラウマを上塗りせずに済むことはありがたかった。
◇
翌日、アベルは雑務をこなしていた。報告書などの事務仕事をセシルから言付かっている。全て片づけた頃には既に夕方になっていた。
アベルはまとめた資料と共に、王の元へ報告へ行く事になっている。
謁見の許可が下り、王の待つ広間へ通されるとセシルもそこにいた。どうやらミシディアでの任務は早々に終わったらしい。しかし、その会話の内容は芳しいものではなかった。
「陛下は一体どういうおつもりでしょうか。皆、陛下に不信を抱いております」
「お前をはじめとしてか? 」
王は射抜くようにセシルを睨みつける。思ってもみない王の切り返しに、セシルは一瞬言葉を失った。
「決してそのような……」
「私が何も知らぬとでも思っているのか! お前ほどの者が私を信頼してくれぬとはな……」
王はあからさまなほど大きくため息をついてセシルを攻める。そして、より一層冷ややかな目をしてセシルにこう言い放った。
「残念だが、これ以上お前に赤い翼を任せてはおけん。今より飛空艇部隊長の任を解く! 」
「陛下! 」
セシルは垂れていた頭をガバリと上げた。信じられない気持ちで王を見つめた。
「代って、幻獣討伐の任に就けい! ミストの谷付近に幻の魔物、幻獣が出没するそうだ。その魔物を倒し、ミストの村へこのボムの指輪を届けよ。出発は明日の朝だ! 」
一方的にまくし立てる王に、アベルは居ても立ってもいられなくなった。終わるまでは控えていようとしていたが、最早黙ってなどいられない。資料を抱えたまま玉座へ近寄り、セシルが控える場所よりも少し後ろでひざまづいた。資料を傍らに置き、口を開く。
「お、恐れながら申し上げます」
「なんじゃ、お前は」
王は「お前は誰だ」とでも言いたげな顔をでアベルを眺めた。
「わたしは赤い翼に所属する、アベル・フィードと申します」
この時、アベルは違和感を覚えた。以前なら、王と直接の面識はなくとも、飛空挺団の、それも赤い翼の隊員なら王も顔くらいは把握していたはずだった。赤い翼はいくつかある騎士団の中でも花形である。それなのに、王は自分の事を知らないような振る舞いだ。
とはいえ、今はそんなことを言えた物ではない。むしろ機嫌を損ねないように、慎重に言葉を選ぶ必要があった。
「何だ。申してみよ」
「隊長は、陛下を誰よりも信用なさってます。ですから、そのようなことはございません」
「私からも申し上げます」
更に後ろから声がした。セシルの幼なじみであり、竜騎士団団長でもあるカインだった。彼もセシルの隣で膝を着き、王に進言する。
「お待ちください、陛下。セシルはそんな──」
しかし、王は聞く耳を持たない。カインの言葉を最後まで聞くことはなく、カインとアベルにも命令を下した。
「こ奴のことが心配なら、お前たちも共に行け! 」
セシルは皆目して思わず腰を浮かした。カインやアベルを巻き込むことになるとは、さすがに思いもしなかったのだ。しかし、王はとりつく島もない。近衛兵長のベイガンを呼び、赤く光る指輪を持ってこさせた。
「もう話すことはない! その指輪を持ち、下がるがよい! 」
ベイガンは「ボムの指輪です」と言って、それをセシルに手渡した。セシルが受け取ったのを確認すると、控えていた近衛兵達がセシルたち三人を謁見の間から出るように促す。
半ば追い出されるようにして、彼らは広間を後にした。そして出るや否や、拒絶するかのように扉をバタンと閉じられてしまった。
「陛下……」
やるせない思いで、セシルは閉ざされてしまった謁見の間の扉を見つめた。
「すまないカイン、アベル、お前たちまで……」
セシルは二人に向き直り、謝罪した。彼は酷く落ち込み、俯いてしまった。カインはそんなセシルの肩に手を置き、気にするなと慰める。アベルもカインと同じ気持ちだ。
「その幻獣とやらを倒せば陛下も許して下さる。また赤い翼に戻れるさ」
「隊長……お供させてください。今度こそ」
セシルはカインとアベル顔を交互に見やる。その表情はとにかく申し訳なさで一杯だった。普段の凛々しくきりっとした「隊長の顔」しか知らなかったアベルには、却って新鮮だった。
「気にするな。準備は俺に任せて、今夜はゆっくり休め」
カインのマスクから覗く口元は、優しげに微笑んでいる。アベルは二人は良い友達なのだなと思い、少し羨ましくなった。
「あ、カインさん。準備ならわたしが」
パタパタと準備の為に駆けて行ったアベルを見送り、セシルとカインはこの場を後にした。
20171017
いよいよ本編開始です
ヒロインちゃんもしっかりお供します
2023/06/16
前から思ってたんだけど、竜騎士団は団長なのに、なんで飛空挺団は隊長なんだろう?作中でももちろんこうなってて???であった。でも直さないけど。
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