19 迷走する意志
セシルはゴルベーザの魔力によって、いとも簡単に吹き飛ばされてしまった。そのまま床にドサリと倒れると、ぐうの音も出ないほどに傷め付けられていた。
アベルは未だカインに壁にぶつけられた衝撃で動けずにいた。だが、身体は動かせなくとも目はしっかり開いている。セシル達が成す術もなかったゴルベーザの力に、アベルは戦慄を覚えた。
「させるものか! 」
ヤンがゴルベーザに飛び蹴りを試みた。しかし彼と、彼の近くにいたギルバートもまた、ヤンの足がゴルベーザに届く前に見えない力で吹き飛ばされた。
「虫ケラに用はない」
冷たい瞳で床に倒れ込んだ者達を一瞥すると、ゴルベーザはカインに指示を出し始めた。
「カイン。遊びはその辺にしてクリスタルを手に入れるのだ」
「はっ! 」
「やめて! カイン! 」
ゴルベーザの指示に従おうとしたカインを、ローザが咎める。すると、カインは弾かれたようにローザを見た。
「下がるんだ、ローザ……」
苦しげにローザを呼ぶセシルを見て、ゴルベーザは「ほほう」と小さく唸った。
「そんなにこの女が大事か。ならば、この女は預って行こう」
ゴルベーザがばさりと重厚なマントを広げてローザを覆うと、彼女の姿は忽然と消えてしまった。
一瞬のことに誰も対応できなかった。セシルは自らの非力さに、ギリギリと歯を食いしばる。
「お前とは是非、また会いたい。その約束の証だ」
一方的にそう告げるなり、ゴルベーザはマントを翻した。その間にカインは素早くクリスタルを回収する。
「行くぞ。カイン」
「命拾いしたな。セシルよ」
「待……て……」
セシルは逃がすまいと軋む身体を必死で捩る。しかし、ゴルベーザがくるりと後ろを向いた瞬間、その姿はカインと共に消えていた。
リディアはゴルベーザが完全に消えた事を確認すると、クリスタルルームの中央へと静かに移動した。彼女が魔力を練り上げると、柔らかな癒しの光がうねるように涌き出る。
「ケアル! 」
床に転がっていた者たちの傷がたちまち癒されてゆく。皆、ゆっくりと身体の感触を確かめながら起き上がった。
「大丈夫? 」
「ありがとう、リディア」
ギルバートは立ち上がりながらリディアに答えた。しかし、彼の表情は暗い。
「でも、ローザがさらわれてしまった……」
「クリスタルも、守れなかった」
ヤンはそう言うと、ギルバートと共にぐっと堪えるように下を向いた。
「アベル、起き上がれるか? 」
アベルは恐る恐る、といった具合でようやく身体を起こした。セシルはアベルに手を差しのべて、アベルを引き上げる。
アベルはやっとの思いで立ち上がったが、まだ足許はフラフラして覚束ない。たった二発だったはずだが、カインの攻撃は相当重かった。かなりのダメージだ。
「はい……すみません……」
アベルが答えると、セシルはにっこりと笑った。
「声が戻ったな」
「へ? ……あ! 」
アベルは声が出ることにようやく気がついた。パクパクと口ばかりが動き、声にならない声で驚きながら喜んだ。
セシルはアベルの混乱ぶりにクスリと笑う。
「ありがとう。お陰でまだ生きている」
アベルはセシルに微笑んだ。全体の状況は頗る悪いが、アベルは声が出たことが嬉しかったし、セシルを守れた事はもっと嬉しかった。
アベルはこれまで、セシルに頼ることが多かった。パーティの中でも、戦闘力も体力も魔力も、何一つ一番にはなれない。さらに過去のトラウマにいつまでも苛まれ続けている。そんな自分でも、セシルの命を守ることができた。そう思うと、アベルは少し自分に自信を持つことができた。
D+S FF-D New!夢物語
- 19 -
prev * next
しおりを挟む
MODORU