25 霊峰
緑色に生い茂った木がざわざわと騒いでいる。空は厚い雲に覆われ、風は生温くおどろどろしい。山全体がどこか不気味な空気で満ちていた。
アンは肩まで伸びた髪を耳にかけながら汗を拭い、背筋を伸ばして眼前の景色を見つめる。
何かが出そうな雰囲気だ。そして山を歩いてみると、案の定あらわれるモンスターはアンデッドばかりだった。
長老の目算通り、アンデッド相手にはセシルの暗黒剣では歯が立たない。暗黒剣はもともと悪霊に近い力を扱っているからだ。そして、それは扱う者も攻撃と同時に傷つく危険な剣であった。今さらながら、バロン王はなぜセシルにそれを習得させたのか。アンは疑問に思っている。
アンデッド達には魔法がよく効いていた。とはいえ、アンの魔力などおまけのような物で、大したことはない。長老が双子の助っ人を付けてくれたことに、二人は大いに感謝していた。
山を三合目まで上った時、見覚えのある老人が佇んでいるのがセシルの目に映った。
「テラ! 」
セシルの呼び掛けに、テラはいち早く反応した。アンもそれに気づくと、お互いに駆け寄った。
「セシル! お主らもやはりメテオを求めて──ん? ……お主は、アベルか? 」
しかし、テラは話し始めると同時にアンを見て怪訝な顔をした。
ぼろぼろになった皮の服、サラシを緩めた事によるボディラインの変化、少し伸びた髪、その髪を結わえていた紐は海に消えた。
アンに戻ったアベルに、テラは大きな違和感を覚えた。
「実は……」
アンとセシルが簡単に説明すると、テラはすぐに受け入れた。不思議がってはいたが、彼にとってアン性別など、どちらでも構わない。
それよりも、テラはアンナの敵を討つ事に全身全霊を傾けている。セシルの「メテオとは何か」という質問を聞き流し、メテオでゴルベーザに対抗するのだと一人燃えていた。
「メテオを知っているということは……」
ポロムがはっとした顔でテラをじいっと見上げた。パロムも同じ顔でテラを見上げる。
「じいちゃん! あのテラか? 」
「テラさまとおっしゃい! 失礼な! 」
すかさずパロムに鉄拳をお見舞いし、ポロムは姿勢をを正して礼をした。
「お目にかかれて光栄ですわ。 私たちミシディアの長老のお言付けで…」
「セシルの、見張──」
パロムが話始めると同時に、再びポロムはパロムを殴り付けた。声にならない叫びを全身で表現するパロムを取り繕うように、ポロムは話を続けた。
「ウフフッ! セシルさん達をこの試練の山へご案内しています、ポロムと言います」
「オイラはパロムだ! 」
ヒリヒリする頭を押さえながら、パロムはテラの前へ躍り出る。セシルとアンはすっかり蚊帳の外だ。
「そっかー、じいちゃんがミシディアでも有名なテラかー! 」
パロムが頭の後ろ手腕を組み、テラの周りをうろちょろし始める。好奇心を丸出しにした顔だが、テラも「ミイシディアの子供達か」とまんざらでもない様子だ。機嫌良く、やや穏やかになった顔つきのテラであったが、その時ようやく涌き出た疑問をセシルにぶつけた。
「ギルバートやリディアはどうした? 」
「バロンへ向かう途中、リヴァイアサンに襲われて……」
セシルはそう言うと力なくうつむいた。アンも唇を噛んでいる。
「死におったか」
「……わかりません」
セシルが答えると、口にするのも辛い現実にポロムまでもが悲しい顔をした。
「ローザも、ゴルベーザにさらわれました」
セシルがそう言うと、すかさずパロムがヤジを飛ばした。
「きっと恋人だぜ! 」
「シッ! 」
ポロムはお構い無しのパロムを慌てて窘めるが、彼の声は全員に届いた。けれどセシルは何も答えない。アンの心は俄にざわつき始める。
「あなたはゴルベーザの元に向かったはずでは? 」
セシルは話題を変えた。彼はメテオのことも気になっている。
「奴ほどの者を倒すには、手持ちの魔法だけでは無理じゃ。封印されし伝説の魔法メテオを探していたんじゃが、この山に強い霊気を感じてな! もしやここにメテオがあるのではと思っての」
テラは鋭い目で、まだ遠くにある山の頂上を睨み付けた。
20190603
ヒロインが空気。甘さの欠片もない。これは夢なんか……!
D+S FF-D New!夢物語
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