28 頼りにしてるよ
一行が祈りの館の扉を開くと、長老とそのお付きの魔導師たちが並んで待っていた。やはり、セシル一行がいつ帰るかをわかっていたかのような風体で、思えば初めてここへ立ち寄った時も彼らは同じようにセシル達を待ち構えていた。
アンが不思議がっているとポロムがこそっと耳打ちした。
「長老ほどの高位の魔導師になると、全て見えるそうですわ。例えば、わたしたちが帰ってくることも」
ポロムはニッコリ笑ってアンの手を引いた。セシルを先頭に、彼らは長老の前まで進む。
「おお、その姿は! 」
セシルの変化にいち早く気付いた長老は感嘆の息を漏らした。
「ご覧の通りですわ! 」
「まさかとは思ったけどな! 」
長老と双子たち、そして周りの魔導師たちが口々に言い合っている。セシルとアンは、セシルの話をしているのはわかったが、内容からは置いてきぼりになっていた。
「何のことです? 」
一向に説明されそうにないと踏んだセシルは、長老に直接聞くことにした。このままうやむやにはしたくない。
「悪いとは思ったが、この二人にそなたらの見張りを命じたのじゃ。もっとも、その必要もなかったようじゃな。ご苦労じゃった パロム、ポロム! 」
長老が二人を労うと、パロムは両手を頭の後ろで組んでセシルを見上げた。ポロムも申し訳なさそうな顔をして彼を見上げる。
「ま、そんな理由だ」
「隠してて ごめんなさい。でも、仕方なかったの」
セシルは優しい表情で、緩やかに首を横に振った。
「いや、当然だ。あれだけのことを、僕はしてしまったんだから」
言い終えたセシルの顔つきは、どこかしんみりとした表情も混じっていた。もちろんアンも異存はない。
「だが、そなたは過去の自らを乗り越えパラディンとなった」
長老は何か言いかけたが、ふいに言葉を切った。視線はセシルの越しに下がっている剣に注がれている。
「 その剣は? 」
「山頂で授かったものです」
セシルは長老の問いに答えると、剣を抜いて見せた。それを見た長老は目の色を変えた。
「これは……! 」
長老は信じられないといった顔つきで、セシルの剣をじいっと見つめている。みんなが剣に注目する中、長老が語り始めた。
「古よりこのミシディアに伝わる言い伝えと、同じことが記されておる」
「言い伝え、ですか」
セシルが聞き返すと、長老がその内容を
諳じた。
竜の口より生まれしもの
天高く舞い上がり
闇と光をかかげ
眠りの地に更なる約束を持たらさん
月は果てしなき光に包まれ
母なる大地に大いなる恵みと
慈悲を与えん
言い伝えとは、得てして解読しにくい事がある。例に漏れず、セシルもアンもよくわからなかった。
だがセシルはひとつ閃いた。授かった剣にミシディアの言い伝えが書かれていたのなら、セシル達に力をあたえた人物のことが何か分かるかもしれない、と。
「あの光は僕を息子と言いました。 あの光は、いったい何なんですか?」
「試練の山の光が何か、この伝説が何を意味するかはワシにも分らん」
言い切った長老に、セシルはほんの少し落胆した。とはいえ、もともとわからないのだから気にしても仕方がない。
「ただ、我々ミシディアの民はこの言伝えの為に祈れと、代々言われておる。そして、聖なる輝きを持つ者を信ぜよと」
そう言うと、長老はセシルとしっかりと目を合わせた。セシルも長老に引き込まれるようにして合わせると、長老は続けた。
「やはり、そなたがその者なのかもしれん」
セシルはごくりと唾を飲み込んだ。
バロンどころか今や世界の危機になりつつあるが、まさか自分が故郷から遠く離れたところの言い伝えの対象となるなど全く考えようもなかった。
だんだんと事が大きくなってゆくにつれて、セシルにのし掛かる物も増えてゆく。
けれど、セシルは決して怖じ気付く訳ではなかった。むしろ遣り甲斐すら感じている。人々を守るために力を使えるなら、彼にとってそれは喜びだ。間違っても、侵略などもうごめんだった。
「後は一刻も早くゴルベーザを倒すことじゃ!」
セシルの影でいきり立つテラの存在に長老が気付いた。長老は旧知の友に出会えたことが嬉しく、眉間に寄っていたシワをふっと緩めた。
「おお、テラ! 久しぶりじゃな」
二人の老人は硬い握手を交わしながら、互いのもう一方の肩を寄せ合う。久しぶりの再会を喜んだ。
「試練の山でお会いしたのです」
「このじいちゃん、メテオを手に入れたんだぜ! 」
嬉しそうな様子の長老に、双子がテラの事を口々に話す。長老もにこやかに彼らの話を聞いていたが、「メテオ」と聞くと俄に表情が固くなった。
「メテオ……あの魔法の封印が解かれるほどの事が、起きているということか」
「そのようじゃ。これでアンナの仇を討つ! 」
長老は固くしていた表情の上に、驚きが加わった。そして、それはだんだん悲痛に変わる。
「アンナが? 」
「ゴルベーザにやられたのじゃ。奴だけは私がメテオで倒す! 」
テラは鼻息荒くそう言うと、ギリギリと歯を食い縛った。長老はそんなテラの姿に心を痛め、彼の深い悲しみを慮った。今のテラはあまりにも痛々しく、また無謀でもあった。
「テラよ。憎しみで戦っては身を滅ぼすぞ。 まして今のお主ではメテオは危険過ぎる」
「たとえ我が身が滅ぼうと、奴だけは許せんのじゃ! 」
長老の言葉に、テラは威勢良く返した。既に覚悟は決まっている。長老は彼にそう言われているのだと悟った。
「そう言うと思ったぞ。昔のまんまじゃな」
「お主もな」
二人の老人は強い瞳で互いに目を合わせると、にっと笑った。彼らの小気味良さすら感じるやり取りに、アンは極自然にセシルとカインを連想した。
「セシル殿もパラディンとなった。二人の力を合せれば、奴を倒せるやもしれん」
長老はセシルに視線を遣ると、セシルは難しい顔で進言した。
「しかし、ゴルベーザに立ち向うにはバロンに戻り、飛空艇を手に入れなければなりません」
「分った。デビルロードの封印を解こう。 今のそなたなら、デビルロードを行き来できるはずじゃ」
セシルの顔が綻んだ。出奔し今は敵地になっているとはいえ、やはり故郷に戻れるのは嬉しい。
セシルはアンの肩をとんと叩いた。彼は久しぶりに帰れる事も、また飛空挺に乗れるかもしれない事に、心が沸き立つような嬉しさを感じている。
とは言え、まずはセシルのよく知る飛空挺技師長に会わねばならない。それに、彼の無事もまだわからない。けれど、今やすっかり良い相棒となったアンと再び飛ぶことを、セシルはとても楽しみにしている。
「行くがよい、バロンへ。 ワシは祈りの塔に入り、そなたたちの為に祈り続けるとしよう。頼むぞ、セシル殿! 」
「はい! 」
セシルは勢いよく返事し、無意識に敬礼までしていた。その瞬間、彼はハッとした。よりによってミシディアで、バロンの敬礼などしてはいけなかったのではないかと思ったからだ。だが、そこにいた魔導師たちの誰もが嫌な顔一つしなかった。
部屋を出ていこうとするセシルとアン、テラに、さも当然かのように双子たちもついてゆく。その事に気付いた長老が、慌て二人を呼び止めた。それに気付いたセシル達も驚いて立ち止まる。
「パロム! ポロム! お主らの役目は終ったのじゃぞ! 」
双子たちが立ち止まる。しかし、彼らが踵を返した途端、猛抗議が始まった。
「終ってなんかいないよ! 長老は、こいつの力になれって言ったじゃないか! 」
「長老! お許しを! 」
双子たちは全く引き下がらない。放っておくと、自分から破門しろとまで言い出しそうだ。長老は驚いて彼らを交互に見つめた。
「お前たち……」
双子たちは懇願するような目で長老に訴える。長老は遂に根負けした。彼はやれやれと言わんばかりに、ため息を一つついた。
「試練の山がお前たちを受け入れたということは、お前たちの運命でもあるかもしれんな」
双子たちは満面の笑みでお互いの顔を見合わせる。
「ワシはミシディアを離れることは出来ん。セシル殿、アン殿、テラ。二人を頼むぞ! 」
そう言う長老に、今度はセシルとアンが困惑した。頼むと言われても、彼らはこれから戦場へ赴く。二人とも腕利きの魔導師とはいえ、子供をわざわざ巻き込もうとは思わない。彼らの頭にリディアの顔がふと過った。
セシルが断ろうと口を開くと、間髪入れずにパロムが口を挟んだ。
「オイラたちの力、知ってるだろ! 」
「そういうことですわ! 」
ふんぞり返るように自信満々のパロムとポロムは意気揚々と歩き出す。
「案ずるな。 私もついておる」
双子の後にテラが続いた。逆にセシルとアンを置いていくぞと言わんばかりだ。セシルは困った顔をしたまま小さく微笑んだ。完全に押されている。
「分った。頼りにしているよ」
セシルがそう言うと、パロムは飛び上がって喜んだ。
「ヒャッホー! そう来なくちゃ! 」
そのまま飛んで行ってしまいそうなパロムを、ポロムが早速たしなめる。
「はしゃいでないで行くわよ! 」
いよいよバロンへ向かうこととなった。セシルは敵地へ入る事の緊張感で、気を引き締め直す。そして、精神を大幅にすり減らすとされるデビルロードを渡ることに備えている。
対してアンは複雑だった。まずは避けられないであろう戦いに備えるべきだ。所属していた部隊も、知り合いも、そもそも城そのものもどうなっているかわからない。さらに、これまで男で通してきた自分は、バロンでどういう立場でいるのだろうかと頭を悩ませた。
20190607
D+S FF-D New!夢物語
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