D+S FF-D New!夢物語


29 ミシディアの民



 ギイ、と派手な音を立てながら、歪んだ木製のドアが開いた。ドアを開けたセシルを、中にいた魔導師二人が弾かれたように振り返える。
 魔導師らのあまりの勢いに、挨拶をしようとしていたセシルは一瞬言葉に詰まった。ショウウィンドウのマネキンだけが、涼しい顔で店の外を眺めている。
 それでもセシルは何とか挨拶すると、魔導師のうちの白魔導師のローブを着た一人がににこやかに返した。店の奥のテーブルで帳簿を広げていた黒魔導師のローブを着たもう一人は、セシルの顔を見るや顔をひきつらせている。だが、セシルへの暴言は吐かなかった。
 セシルの後ろから続いてアンも店に入ると、セシルが白魔導師に声をかけた。

「僕たちの装備を探しているんだ。できれば鎧があればいいのだが、何かあるだろうか」

 セシルもアンも、特にアンはひどい格好をしていた。
 セシルの鎧は見るからに古くて今にも壊れそうだし、アンの皮の服はあちこち破れてボロ雑巾のようだった。

 アンはこれまで数えきれない程の戦闘を経験して来た。その上海を漂流し、山籠りまでしている。
 ぼろぼろの服は汗と涙の結晶とも言えるが、そろそろ服とは呼べなくなってきていた。

 セシルの鎧も、初めこそ美しく輝いて見えたものの、下山した頃にはあちこち壊れてしまった。これからバロンに乗り込むには心許ない。
 酷い格好の二人の姿を一瞥した白魔導師は、記憶の中で商品を見繕い始めていた。

「少々お待ち下さい」

 白魔導師はそう言うと、店の奥へ引っ込んだ。そして、鎧や盾、兜などの一揃いと、幾つかのローブを持って戻って来る。

「うちにある鎧はこれだけですわ。ローブはいくつかあるのですけれど」

 セシルとアンは、まずは運ばれてきた鎧を見定めた。
 丈夫そうで、尚且つ重すぎない素材。光の力を増幅させるまじないや、動き易そうなデザイン。どれを取っても良い品だ。 二人の意見は早々に一致する。
 しかし、一つ問題があった。その鎧一式はセシルには誂えたように丁度よいサイズだったが、アンにはどう考えても大きすぎる。けれど、他のサイズはないと黒魔導師は言った。

「そんな……! また、鎧がないなんて……」

 「今度こそ鎧を」と考えていたのに、アンはまたしても手に入れられなかった。あまりのショックに、気を抜くと膝から崩れ落ちそうだ。これからバロンに向かうのだから装備は万全にしたかった。
 アンが気落ちしていると、セシルが声をかけた。

「このローブはどうだろう」

 そう言ってセシルが手に取って広げたものは白魔導師のローブだ。
 厚手だが羽のように軽く、裾は切りっぱなしにも関わらず全く解れがない。滑るような肌触りと控えめな光沢がなんとも上品だ。
 また、背の部分には大きな丸い花を模した地模様が入っており、神聖な雰囲気を醸し出している。その模様は、これを持ってきた白魔導師によるとミシディアのお守りだと言うことだ。
 他の地域では見たこともない素材に、セシル達は感嘆する。

「きれい……」

 アンはローブを手に取った。生地の感覚が肌に馴染むようで既に心地よい。けれど。試しに羽織ってみるとこれも少し大きかった。袖が長すぎて手が完全に隠れているし、裾も床に引き摺ってしまう。
 ローブに着られているようなアンを見て、セシルは困った顔をした。

「これも合っていないな」
「はい……それに、これでは剣を扱うのは無理ですね」

 きれいなのに、と悩み始めたアンを見ていた黒魔導師が、突然席を立った。そしておもむろに煤けたショウウィンドウからマネキンを取り出すと、着せていた服を脱がせ始める。そして、白魔導師に目配せすると帳簿をテーブルの端へどかせ、マネキンからはぎ取った服を一枚ずつ丁寧にテーブルに並べ始めた。
 細身のズボン、肩の部分ががくり貫かれたジャケットのような形をした半袖の上着、赤いベアトップのアンダーウェア、腰ほどまでの丈の短いマントが整列している。
 アンダーウエア以外はアンが試着した白いローブと同じ素材で、さらに赤で縁取りが施されていた。マントの背中にも、やはり同じ模様が描かれている。
 呆気に取られていたセシルとアンに、白魔導師が声をかけた。

「こちらなら、きっといいサイズだと思いますわ。ご試着なさって」

 白魔導師はそう言いながらアンに一式持たせると、試着室へ案内した。
 程なくして出てきたアンに、黒魔導師は目を輝かせた。誂えたようにぴったりで、アンにもよく似合っている。
 黒魔導師は着心地はどうだと聞くと、アンはとても快適なので、その服がすっかり気に入ってしまったと答えた。セシルも、すっかり見違えたアンを無意識のうちに目で追っている。

「そうか……! よし、次は……」

 服を着たアンをひとしきり観察した黒魔導師は、何やらぶつぶつ言いながら今度は別のノートにペンを走らせ始めた。彼のペンから、だんだん新しい洋服のアイデアが浮かび上がってくる。
 黒魔導師はある程度描き上げると、アンとセシルに言った。

「よかったら、受け取ってくれ。代金は要らない」
「……ええっ? 」

 驚いたセシルとアンは同時に声をあげた。2人は話の流とセリフについていけていない。けれど、既に黒魔導師はすっかり自分の世界に入っている。描くことに夢中で、言いたい事を言うと全く反応しなくなった。
 戸惑う二人に白魔導師がくすくす笑いながら説明し始めた。

「一方的でごめんなさいね。彼はうちのデザイナー兼オーナーなんです。近頃スランプだったのだけれど、あなたのお陰で新しいアイデアを思い付いたみたいですわ。ですから、そのお礼です」

 そう言うと、白魔導師はアンにウインクし、にっこり笑った。

「……それに、あなたも魔法を使うでしょう? その生地は魔力を高め、攻撃からも護ってくれますわ」

 白魔導師は「わたしたちはいつも祈っています」と付け加えた。
 セシルがパラディンになって見せたことで、ミシディアの民も彼らを見る目を変え始めている。アンは服ももちろんだが、その事が嬉しくてたまらない。

「ありがとう……! 大事にします」

 アンはすっかりお気に入りになった新しい服に上機嫌だった。そんな彼女の姿に、セシルもニコニコしている。

 アンはセシルにカミングアウトしてからというもの、自分が日毎に女に戻って来ているのを自覚している。この方がずっと楽だ。
 けれど、これからバロンへ乗り込む。旧知の仲間たちが無事ならば、それは彼らにも知られてしまう。赤い翼を欺いた事が、今も彼女に重くのし掛かっていた。


20190612
全く話が進んでませんな



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