4 出立
セシルは謁見の間を辞した後、竜騎士団の詰め所前にいた。その近くにアイテムの倉庫があり、幻獣討伐の準備を買って出たアベルの様子を見に行った帰りである。
本当はアベルと共に準備をしようとしていたが、「もう終わりますから休んでください」の一点張りで、あっさり追い出されてしまった。仕方がないので自室に戻ろうと詰所を通り過ぎようとした時、またカインと会った。
「すまなかった、カイン……」
「まだそんなことを言っているのか。 お前らしくもない」
セシルの落ち込みは相当なものだ。カインは彼の親友がこんなにも落ち込む所を見るのは久しぶりだった。
「僕は、陛下の命令で暗黒剣を極めた。 でもそれはバロンを守る為で、罪もない人々から略奪をする為ではなかったはずだ」
セシルはミシディアでの件がよほど堪えていた。今でもどうすべきだったのかと自問するが、答えは分からないままでいる。
「そんなに自分を責めるな。 陛下にもお考えがあってのことだ」
「カイン、お前が羨ましいよ」
カインはいつも自信を持って堂々としている。しかし決して自意識過剰というわけはなく、実力もしっかり伴う。セシルはそんな親友を誇らしく思うと同時に、羨ましくもあった。
「俺の父も竜騎士だった。 暗黒剣を極めれば階級も上がるだろうが、俺にはこっちの方が性に合う」
カインは手元の槍に目を遣り、握りしめる。そして、懐かしむような、少し遠い目をした。
「それに竜騎士でいれば、幼い頃死に別れた父をいつでも感じられる気がしてな……」
カインは名門貴族の出身だが、早くに両親を亡くしていた。だが、孤児だったセシルは親の顔すら知らない。口にしたことはないが、実はそれも少し羨ましかった。
カインは気恥ずかしそうにセシルから顔を逸らした。そしてそれをごまかすように小さく笑う。
「らしくない話をしてしまったな。ともかく、考え過ぎるな。お前がそんなじゃ、張り合いがない。幻獣を倒すのは俺だぞ」
「僕も負けはしない! 」
二人は顔を見合わせ、ニッと笑った。やはり張り合うくらいが丁度良い。二人は親友であり、ライバルでもある。
良い友を得たと、セシルは感謝した。
「そういえば……黒髪の娘のことは何かわかったのか? 」
「いいや、何も」
セシルは首を横に振った。彼は先日の収穫祭で出会った黒い髪の娘を忘れられずにいる。気になって仕方がないのだが、探し出すにしても情報が少なすぎた。
「特徴は黒く長い髪と淡い緑色の瞳、だったか。しかし、名前もわからないのでは難しいな」
バロンにいればそのうち会うこともあるだろうと、カインはセシルを慰めた。
明日は夜明けと共に出発する。早く休めと促され、セシルは自室へ帰ることにした。
部屋に入ると、セシルはどっと疲れが押し寄せて来るのを感じる。兜を脱いでテーブルに置いてベッドに腰掛けた。ベッドがミシミシと悲鳴をあげている。
座ったまま半身を捻り、セシルは窓の外に浮かぶ二つ並んだ満月をぼんやり見上げる。彼の肩まである銀髪が、さらりと流れるように滑り落ちた。
ここの所、セシルにはいろいろありすぎた。
特にミシディアの件は、セシルに重くのし掛かって離れない。結局、無抵抗な罪のない人々を虐げてクリスタルを取り上げて来てしまった。
ミシディア側には多数の死者が出ている。この十字架を、セシルは一生背負う事になった。
セシルは考える。
以前のバロン王はナイトとしても名を馳せ、優しく強い人物だった。そして、子供のいない王は孤児だったセシルや、親を亡くしたカインを自分の子供のように育てた。
王に育てられたとはいえ、セシルには何の後ろ盾もなかった。捨て子だった彼にはカインのような家柄はない。
回りの者に「どこの馬の骨とも分からない」となじられたり、陰口を叩かれることもあった。また、王に育てられているというだけで妬まれたり、いじめられたりしたこともあった。
けれど、王は家柄だけではなく、彼の実力を正しく評価した。セシルを飛空挺団赤き翼の部隊長に引き立てたのも、他ならぬバロン王だった。
セシルの王への恩義はとても言い尽くせるものではない。その分忠義も信頼も篤い。けれど、この頃の王の変貌ぶりは目に余るものがあった。
「ミシディアのクリスタル……無抵抗な村人から奪ってまで手に入れねばならぬほどのものなのか。命令とは言え、あんなことは──」
「セシル! 」
セシルが独り言をこぼしていると、部屋のドアが開いた。彼のもう一人の幼なじみ、ローザが入ってきたのだ。彼女もまた、カインと同じく名門貴族の出だ。
ローザは白魔導師団に所属し、その腕前は国内随一と言われている。さらに、弓の名手でもあった。
誰もが憧れる名家の美しい令嬢は、城内では何かと目立つ存在だ。また、彼女はセシルに好意を持っていて、彼女を知る者には一目瞭然である。しかしローザの母親は素性のわからないセシルを決してよく思っておらず、これもまた周囲の目にも明らかな程であった。
セシルもまた、ローザの気持ちに感づいている。だが、自分は世間では疎まれがちな暗黒騎士である。そこのとで気後れしているし、彼女の母親への遠慮などの事情もある。セシルはローザの気持ちに応えようとはしていなかった。
「何があったの? 急にミシディアへ行ったかと思えば、幻獣討伐に行くなんて……それに、戻って来てからあなた変よ」
「いや、何でもない……」
セシルはそう答えるのが精一杯で、ローザから顔を背ける。けれどローザは納得しない。
もともと色の白いセシルの肌はますます青白く見えた。それは月に照らされたせいか、はたまた心労のせいか。
「だったら、こっちを向いて」
ローザは諦めない。セシルが何か話すまでは、きっと帰らないだろう。長年の付き合いからそう推測すると、セシルは顔を背けたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
「僕はミシディアで、罪もない人々からクリスタルを……」
セシルには、どうしても「奪った」とは言えなかった。口にするのもおぞましかった。彼は心まで暗黒に染まってしまう恐怖に怯えていた。
耐え切れなくなったセシルは、ローザから目を逸らした。けれどローザはじいとセシルを見て、続きを促す。
「この暗黒騎士の姿同様、僕の心も……」
今のセシルの精神状態では、ここまで言うのが精一杯だった。自分を責め続けるセシルの姿はあまりに痛々しい。ローザはだんだん見ていられなくなってきた。
「……あなたはそんな人じゃないわ」
「僕は、陛下には逆らえない臆病な暗黒騎士さ……」
自棄になりつつあるセシルに、ローザはますます心配になった。発破をかけてでもいつもの彼を取り戻したいが、うまく行かない。
「赤い翼のセシルは、そんな弱音を吐かないはずよ! 私の好きなセシルは……」
遂にセシルは黙り込んでしまった。しばらくの間、気まずい沈黙が二人の間を支配する。
「……明日はミストへ行くんでしょ。あなたにもしものことがあったら、私……」
「心配いらないさ。カインと、僕の部下も一緒だ」
セシルがそう言うと、ローザも少し落ち着いたようだ。顔つきが少し柔らかくなった。
「もう遅い。君も休むんだ」
「気を付けてね……」
ローザはくるりと踵を返し、セシルの部屋を出ていった。
ふと、セシルの脳裏に例の黒髪の娘が浮かんだ。疲れ切った今、会えるものなら一目会いたかった。だが、どこの誰かもわからないのではそれも叶わない。
ただ一度会っただけの相手だ。彼女が自分を覚えているかどうかもわからない。大半の国民がそうであるように、自分は嫌われているかもしれない。けれど、それでも構わないとすら思った。
心も身体も重い。それをなんとか宥めて、セシルは床についた。
夜が明ける少し前、アベルは自室で身支度を整えていた。形見の手鏡を片手に、身だしなみをチェックする。
さあ、行こう。そう思った時、同室の兵士が目を覚ました。
アベルは性別を隠している手前、持ち物の管理には気を遣っていた。手鏡を持っていることはもちろん秘密にしている。
寝ていると思っていた相手に不意に声をかけられて、アベルは飛び上がるほど驚いた。持っていた手鏡を、思わず鎧の胸元に突っ込んで隠す。
「……アベル……今日は、随分早いな……」
「あ、ああ……今日はもう出るんだ」
「そっか……お疲れさん」
そう言うと、寝起きの兵士はまた夢の中へ戻っていった。アベルはほっとするが、動悸はまだ治まらない。
既に準備は整っている。アベルは傍らに置いた兜と剣を抱えた。ボロを出さないうちに早く部屋を出よう。そう考えて、彼を起こさないようにアベルはそっと移動して扉を開けた。
城の一階、城門前の広場に三人が集まった。セシルも昨晩より少し落ち着いていた。いつまでも引きずってはいられないと、気持ちを引き締める。
「行くか、セシル」
カインは愛用の槍の感触を確かめるように握り直し、柄を地面にトンと立てた。
「アテにしてるぜ、カイン」
「フッ、任せておけ」
カインは返事をすると、城門の向こう側を見据えた。
「アベル、君も頼んだぞ」
「は! 」
アベルはいつもに増して張り切って敬礼する。セシルはそれを頼もしく思いながら、マスクをつけた。
長く壮大な旅の幕開けだったが、彼らにはまだ知る由もない。
20171019
夢なのにヒロインの存在が薄い……
D+S FF-D New!夢物語
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