D+S FF-D New!夢物語


30 邂逅



 街の喧騒も届かないしんとした小屋に、突然人影が現れた。影は一人二人と増えて行き、五人に増えた。影はそれぞれぐったりと床に座り込む。

 アンはまだ少しぐらぐらする頭を押さえながら、回りを見渡した。
 薄暗い小屋の中には、足元の魔方陣以外は何も無い。仮に五人で寝泊まりするとしたら、窮屈な思いをするだろうとと思うくらいの広さだ。
 剥き出しのレンガの隙間から差し込む日の光が眩しい。扉を開けなくてもわかるほど、五感をくすぐる全てのものが懐かしかった。アンはこの雰囲気にほっとしていることが、自分でも意外だった。
 アンはバロンにはほんの数年住んでいただけだ。もともとバロン近郊の村の出ではあるが、バロンとは違うと思っていた。
 けれど世界を少し知った今、バロンまで帰ってくると帰郷の嬉しさが込み上げてくる。アンがセシルの様子を伺うと、やはり彼も穏やかな表情をして、どこか嬉しそうにしていた。

「あんちゃん浮かれてるな。ヘマするなよ」

 パロムがセシルを見上げてそう言うと、ポロムがポカリと殴り付ける。

「生意気ですみません。うふふ」

 ポロムは取り繕うように微笑んで見せた。パロムは痛む頭を抱えて涙ぐんでいる。

「ああ、ありがとう。今のバロンは敵地だ。気を引き締めるよ」

 セシルはそう言って、仲間たちとしっかりと目を合わせる。そして気持ちを切り替えるようにふうと息を吐き出し、外へと続くドアをそっと開いた。

 バロンの街は、セシル達が出奔した時と何も変わっていなかった。だが、人々の生活はますます厳しくなっている。生活に余裕の無い者が増えているのか、どこか殺伐とした雰囲気だ。
 街の者によると、バロン王はまた税金をつり上げ、逆らう者を城の地下牢に送り込む恐怖政治で統治しているということだった。

「かつては勇敢な賢王と名高い名君だったのに……人が変わったとしか思えない」

 街を歩きながらセシルが呟くと、隣を歩くアンも小さく頷いた。その後ろではテラは王の所業に呆れ返り、パロムとポロムはさらにその後ろでまだ見ぬ王の姿を予想して遊んでいる。
 ゴリラだの鬼の角があるだのといったメチャクチャな想像力は、暗い気持ちになっていたセシルを思わず吹き出させた。
 するとその時、道を挟んだ向かい側で男性のの話声が聞こえてきた。二人組が何やら話し込んでいる。

「余所から来たモンク僧に近衛兵を従わせ、何やら探らせているようですな」
「さっき宿の前を通ったらいたぞ。酒場でも兵士がやりたい放題らしいな。マスターが困っていた」

 本人たちはこそこそと話しているつもりらしいが、セシルたちにも丸聞こえだ。一行の次の目的地は宿屋に決まった。

「さて、このくらいにしておこう」
「そうだな。今や天下の往来でも陛下や政策の悪口は不敬罪に問われるらしいからな。シドのように……」

 「シド」という名前を聞いたセシルは、弾かれるように男性を振り返った。すぐにでも事情を聞きたかったが、彼らは「もし見つかれば牢に入れられるぞ」と言い、次の瞬間にはそそくさと解散していた。
 焦るセシルだったが、同時に不敬罪の現行犯である双子の存在に気付いた。同時にハッとしたアンも、セシルと共に慌てて双子の遊びを止めに入る。
 セシルは王の評判を耳にする度に苦い顔をした。街で聞く王の噂は、名君と名高かった頃の王を知る者には信じがたい事ばかりだ。

 セシルが宿の扉を開けると、何人もの兵士がたむろしていた。宿の中に酒場も併設されていて、カウンターでは青い顔をしたマスターが震える手でグラスを磨いている。
 まだ日も明るいというのに酒場は盛況だ。そして、その客は全てバロンの兵士だった。

「これは……」
「飛空挺団の鎧ではないようですが……さすがに……」

 酔っぱらって怒鳴る者、備品を壊す者、酒場の看板娘に絡む者、さらには飲み代を踏み倒す者までいた。
 セシルは兵士たちのあまりの蛮行に思わず頭を抱える。
 テラがカウンターの方へ行き、マスター呼び止めた。マスターはどこかほっとした顔つきで応えると、テラは質問を始めた。

「シドという御仁を知らんかの」
「シドは城に囚われているって話だ。なんでも、最新鋭の飛空艇を何処かに隠したらしい」

 マスターは兵士の目を気にしながら、セシルたちに耳打ちした。セシルはマスターに礼を言うと、酒場をもう一度眺める。
 すると、バロンでは珍しい服装の者が混じっていることに気がついた。赤いゆったりした作りのズボンと、上半身は裸である。彼の鍛え上げられた肉体美を惜しげもなく披露されるような衣装は、それはそれは目立っている。
 セシルは後ろ姿しか見ていないが、確信を持って赤い服の男にに近づいた。

「ヤンじゃないか、無事だったのか! 」

 セシルの言葉に、ヤンはゆっくりと振り向いた。しかし彼はセシルを認識するや否や、攻撃的な視線を寄越し武術の構えを取った。
 セシルの後ろで様子を伺っていたアンは彼の行動に驚き、ヤンとセシルを交互に見つめた。

「お前は……! 」
「パラディンになったから分らないのか。 僕だ、セシルだ」

 ヤンは何とか説明しようとするセシルを無視して、自らの率いる兵に目を向けた。

「探したぞ。バロン王に逆らう犬め」
「何……! 」

 セシルはヤンの言葉に、驚きと絶望しかなかった。意識しなくても彼の頭にはカインのことが過る。

 ヤンと初対面のテラや双子たちは、ヤンとセシルのやり取りにやや混乱していた。けれど、彼らは同時に魔力を高め、容赦なく魔法を使う準備を始めている。

「かかれ! 」
「はッ! 」

 ヤンの号令で、控えていた彼の兵が一斉に剣を抜いた。アンとセシルも抜剣すると、魔導師たちの魔法が炸裂する。バロン兵を有無も言わさぬうちにあっさり倒すと、セシルはヤンに詰め寄った。

「ヤン、僕たちが分らないのか? 」
「分るとも、このお尋ね者が! 」

 ヤンは飛び蹴りを繰り出した。セシルはそれをまともに受けてよろめいた。すかさず繰り出される鉄拳をいくつかかわすと、拳から伸びる金属の爪を辛うじて剣で受け止める。
 セシルがヤンの片手の動きを封じた瞬間、アンは剣の束でヤンの頭を殴り付けた。
 ヤンは頭を抱えながらよろよろと壁にもたれ掛かる。すると、彼の動きがふいに止まった。セシル達が警戒するなか、ヤンはハッとしたような表情で話し始めた。

「セシル殿……。私は確か、リヴァイアサンに……襲われたはず」

 言葉遣いが元に戻ったヤンに、一行はほっと胸を撫で下ろした。テラはヤンにケアルを唱えると腕を組んでヤンの顔を覗きこむ。

「どうやら記憶喪失のところをバロンに利用されていたらしいのう」
「忝い……」

 ヤンはしょんぼりと肩を落として下を向いた。そして、苦い顔をして悔しそうに唇を噛んでいる。
 アンはヤンの落ち込みようが少し心配になった。

「リディアとギルバートは? 」
「ヤンリディアはリヴァイアサンに飲込まれてしまった。……ギルバートは、分らない」

 アンが聞くと、ヤンはさらに縮こまってしまった。アンは悲しい顔で、ヤンと同じように下を向く。
 セシルは「そうか」と呟くように言うと、アンの背にそっと手を置いた。

「ところで、ここは? 」
「バロンだ。……兵士に聞かれるとまずい。 部屋で策を練ろう」

 一行は黙って頷き、その宿に部屋を取った

20190622



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