31 秘密の鍵
セシル達がバロンの兵たちを倒し追い払った事を、宿の店主は大いに喜んだ。酒場に昼間からたむろして暴れられたのでは商売にならない。店主の好意で、今夜は無料で泊めて貰えることになった。
「こちらのご人は? 」
「賢者のテラだ。ギルバートの……」
セシルはなんと説明すれば良いかと考えあぐねていると、テラは自ら語った。
「私の娘は命を懸けて、あの男を愛しおった」
「そうですか……」
ヤンは気の毒そうにそう言うと合掌して哀悼の意を示した。テラもそれを受け取り、ありがとうと小さく返す。
「私は、ファブールのモンク僧長・ヤン」
ヤンは折り目正しく一礼した。すると、次はパロムが喋り始める。
「オイラがミシディアの天才児・パロムさ! 」
えっへん、と胸を張るパロムに、ポロムがすかさず窘める。
「本当に生意気ですいません。双子のポロムですわ」
パロムが「良い子ぶってさ! 」と反論すると、二人は口喧嘩を始めた。ぎゃあぎゃあと喧嘩する双子を好きにさせ、大人たちは話を進める。
「ともかく、シドを救出せねば」
セシルがそう言うと、テラがため息をついた。
「じゃが、容易くは入り込めんじゃろう……」
一行は昼のうちに、念のために城の正門へも行っていた。そして、旅人として王への謁見を申し出たのだが、ろくに用件を聞かれないまま、あっさり門前払いされてしまっている。以前ならば要件によってはもっと開かれていたはずだった。
残る道は忍び込む事だが、目的地は城である。容易なことではない。そこへ、何かを思い出したようにセシルが口を開いた。
「そういえば、城には秘密の通路があると聞いたことがある」
テラがセシルの顔を見た。空気が変わったことを察知した双子たちも、さっと喧嘩を止めてセシルに注目する。
アンは城勤めを始めてから初めて聞く内容に興味が沸いた。セシルは遠い記憶を呼び戻すようにして考え込むと、口を開いた。
「万が一、敵に城へ責め込まれても逃げ道を確保できるようになっていると、昔陛下から伺った事があるんだ」
「それは、どこにあるんですか? 」
アンが聞くと、セシルは残念そうに首を横に降った。
「古い水路で城から街の外れへと繋がっているはずだ。でも、普段は鍵がかかっているし、残念ながら僕は鍵を持っていない」
お手上げだと言って、セシルは頭を抱える。けれど、同時にヤンが驚いた声をあげた。
ヤンはズボンのポケットに手を入れて中を探っている。身に覚えの無いものが入っていると言い、ガチャガチャと金属の擦れる音が部屋に響かせた。
「何か入っておりますぞ……」
そう言ってヤンが取り出した物は鍵だった。金属の輪に2本の鍵が付いている。それぞれ同じ形をした鍵は古く、所々錆びていた。けれど、まだ使えそうなほどの丈夫さはある。
鍵を見たセシルは仰天した。そして、彼の表情は一気に晴れた。
「これだ! 」
そう言って、セシルは興奮して続けた。今度は鍵を持ったヤンがセシルの様子に仰天している。
「これはバロンの鍵だ! ……そうか。 ヤンに兵を従わせていたから……」
「あ、あのう。セシルさん? 」
珍しく一人で喋りまくるセシルに、アンも驚いた。よほどの事なのだろうと思ったが、このままでは他の者は訳がわからない。興奮するセシルの脇から、アンはそっと声をかけた。
「ああ、アン! なんとかなりそうだ! 」
セシルはアンの顔を見てにっこり笑った。そして少し落ち着くと、説明し始める。
「僕が言った秘密の通路の鍵が、これなんだ」
他の者の表情もパッと明るくなった。これで城に忍び込む事ができる。明日の作戦の目処が立ったところで、一行の雰囲気は少し柔らかくなった。だんだん作戦会議から雑談に変わり、和やかな一時が過ぎてゆく。
「それにしても……アベル殿がおなごであったとは」
ヤンがそう言うと、テラも同意した。
「左様。全くわからなんだ」
ヤンはアンを見て「すごい才能ですな」とにっこり笑うと、テラも頷いた。ヤンはさらに続ける。
「セシル殿、何が決め手でお分かりに? 」
事実を知らないヤンが、セシルに問いかけた。何の気もないのはわかるが、セシルは俄に焦り始めた。
事故とはいえ、セシルはまさか「触ってしまったから」とは言えない。それに、アンとしてと詳しく知られたくはないだろうと思ったし、事実アンもそう思っている。
セシルとしてはアンと己の名誉のために黙っておきたかった。とはいえ、急に良い案が浮かぶ訳でもない。アンと二人しておろおろしていると、テラとヤンは互いに顔を見合せた。そして二人ほぼ同時ににっと笑うと、彼らは勝手に解釈した。
「ほうほう。つまり、あれかの」
「お二人は、その……好きあっておられると……」
テラとヤンが勝手な解釈を披露すると、セシルは真っ赤になってさらに慌てはじめた。アンも恥ずかしくなって、二人はさらにしどろもどろし始める。
「そそそ、そんなことは……」
アンが呂律の回らない口でそう言うと、セシルもなんとか話し始めるが、はやり上手く舌が回らない。
「あ……ああ、まだ……その……」
セシルが口をパクパクしながらようやくしゃべると、今度は双子が食い付いた。
「なんだ、やっぱりそうじゃん」
「えっ? 」
パロムの言葉にアンは驚いた。思わずパロムを振り返ると、ポロムが慌ててパロムの口元に人差し指を立てた。
アンは双子のやり取りでセシルの言った「まだ」の部分をようやく認識した。思わず両手で頬を押さえる。
「しっ! 」
パロムは手を頭の後ろに組んでどんなもんだと言うかのような顔でニンマリした。まだ何か言いたそうだが、ポロムが手でパロムの口を塞いで黙らせる。
「おお、お主らもそう思うとったか! 」
そう言って、テラは豪快に笑った。
最愛の娘を亡くしてから、テラはもう笑うことはないとすら思っていた。けれど、彼は久しぶりに心から楽しいと思える時間を過ごしていた。
テラは慌てふためく若者二人に、少しからかいすぎたかと思いつつ、ギルバートとアンナの事を思い出していた。
20190624
D+S FF-D New!夢物語
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