D+S FF-D New!夢物語


32 無理をしないで



 遠くの山の間から朝日が顔を出そうとしている頃、セシルたちは宿を発った。街外れの古い建物へと急ぐセシルの後を、仲間たちがついて行く。やがて扉にたどり着くと、セシルは鍵を取り出した。

「みんな、準備はいいか? 」

 セシルが問うと、仲間たちは揃って頷いた。鍵を差し込んで解錠し、一行は扉の中へと足を踏み出した。

 かび臭く狭い水路をひたすら歩いた。あちこちにクモの巣が張り巡らされ、ひび割れたり欠けたりしている通路を通る。それは普段いかに人が来ないかを物語っていた。
 時々現れるモンスターを薙ぎ倒しながら進むとだんだん水路の水が深くなり、遂に通路が途切れてしまった。歩けるところが見当たらない。
 セシルが剣を鞘から抜き取ると、剣を水面へ垂直に入れた。切っ先を水路の底へ着けると、セシルの手首まで水に浸かった。そこから、彼は水深はおよそ1メートル30センチほどだろうと推測する。それを聞いた双子とアンの表情が曇った。彼らの身長では、とても進めない。
 セシルは剣を鞘に戻すと、アンを呼んだ。

「アンこっちに来てくれ」
「はい」

 セシルは素直に応じたアンの肩をくるりと回転させて、アンに背を向けさせた。アンはセシルの意図がわからずに、後ろを向いてセシルの顔を見た。

「セシルさん? ……ひゃあっ」

 アンが聞く前に、セシルはアンを肩車した。急に視界が高くなったアンは驚いてセシルの頭を掴んだ。

「アン、目は押さえないでくれ! 前が見えない」

 セシルの少し焦った声にはっとして、アンは慌てて手を離した。

「ご、ごめんなさい……! 」
「いや、僕が急に肩車をしたからだ。すまなかった」

 セシルは苦笑いしながら他の仲間達に目をやった。

「でも、こうすればここを渡れるはずだ」

 セシルとアンを見ていた双子達は、目を輝かせて残る大人二人を見つめている。ヤンはパロムを、テラはポロムをそれぞれ肩車して先を進んだ。 

 ゆっくりと流れる水路を、流れに逆らってじゃぶじゃぶと音を立てながら進む。時々現れるモンスター達は、魔法を扱う者たちで早めに見つけて仕留める。深い水の中では、肩車の下にいるものは身動きが取れないからだ。
 テラも老人とはいえ歩みは力強く、軍人であるヤンとセシルは尚更だった。特にセシルは大人一人を肩車しているというのに、その負担をもろともしない様子で歩いている。アンは心底驚いた。
 いくらアンが小柄でも、決して軽い訳ではない。自分なら、この深さと流れではたとえ自分一人でも流されてしまうだろう。
 そして、同時にアンは自分の浅はかさにも気が付いた。いくら鍛えようとも、こんなにも逞しくも強くもなれなかった。
 男はやはり男で、女の身体と体力では同じ事などできはしない。それなのに、つい最近まで必死で男になろうとしていた。

「すごい……」

 思わず漏れたアンの声に、セシルは不思議そうな顔をした。

「どうかしたか? 」

 セシルが立ち止まって上を向いた。アンの顔を見上げて、何かあったのかと思案を巡らせる。セシルの腹の辺りでちゃぷんと水が跳ねた。

「わたしなら、こんなにしっかり歩けなかっただろうなと……」

 アンが申し訳なさそうな顔で言うと、セシルは優しく微笑んだ。

「深さがあるから仕方ないさ。君の体力と身長では危険だ」

 アンはトドメを刺された気分だった。赤い翼に入隊してから、長い間目を逸らしていた事だ。しかし、これが真実である。
 本当にその水路を歩こうとしたら、この深さではアンの身長では肩まで水に浸かるはずだ。確実に流される。
 ますます申し訳なさそうな顔をするアンに、セシルはまっすぐに目を見て言い切った。

「けれど、僕がその分を補おう。言っただろう? 君の盾くらいにはなれると」

 アンの顔が綻んだ。自分が自分であることを認めていないのは、案外自分なのかもしれない。

「はい!では、モンスターはお任せください!」
「ああ、アテにしてるよ」

 セシルはそう言うと、また前を向いて歩き始める。一歩一歩が確実で、力強い歩みだ。
 アンは水路の先にモンスターらしき影を見つけた。素早く魔力を練り上げ呪文を唱えると、水の中のモンスターに雷を落とす。セシルが下からヒュウと口笛を鳴らした。

「やったあ! セシルさん! サンダラ! できました! 」
「すごいじゃないか! アン! 」

 きゃあきゃあと騒ぎながら、アンとセシルは肩車のままハイタッチして新しい魔法の成功を喜び合った。これでようやく初歩の魔法からは脱却だ。

 アンは本来の性別をカミングアウトできて本当に良かったと思った。それは女に戻る事が出来るからこそで、もしアンの心が男だったら、苦しみはもっと増えていたことだろう。

 やがて水路は浅くなり、また通路を歩けるようになってきた。セシルはアンをそっと下ろすと、鎧に溜まった水を流し始めた。
 テラとヤンも服を絞り、水気を払う。肩車に乗っていた者までみんなびしょ濡れだ。途中で何度も戦闘になったのだから仕方ないが、このままでは体温を奪われてしまう。一行はここで結界を張り、火を起こして休む事にした。


20190625

あの水路って結構深いとこありましたよね。(DS版)
大人はともかく、双子ちゃんは頭まで浸かってるのに普通に歩けるっていう不思議場面でした笑。
ちょっと現実的に考えたらやっぱりこうするしかないよねー、と。
なんならボートでも欲しいくらいです。
ミンウさまカヌー貸してください。

ちなみに、英語ではハイタッチとは言いません。
High five(5)です。
両手でするならten(10)、さらにそれを二回続けてしたらtwenty(20)です。
たぶん指の数でしょうね。
面白いなー!と、思ったことの一つです。
覚えてるうちにアウトプットしちゃった!



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