D+S FF-D New!夢物語


33 いつか来た道



 水路を抜け、堀から城へ侵入した一行は中庭に入った。誰にも見つからないようにこっそりと、なるべく気配を消して歩く。
 しかし、中庭には誰もいなかった。むしろ城中がしんと静まり返っていて、生き物の気配を感じない。
 吹き抜ける風がセシルの髪をさらさらと流し、物悲しく吹き抜けて行く。セシルは渋い顔付きで辺りを見回した。

「誰もいない方が好都合とはいえ……まるで廃墟のようだ」
「人の気配がありませんわ……」

 ポロムが呟くと、アンも口を開いた。

「人のいないところなんて、なかったのに」

 あまりの静けさに、アンは別の場所へ来たのかと思った程だ。毎日のように大勢の人が出入りし、活気で溢れていたのはいつの事だったろうか。

「まるで魔物の巣窟のような気配じゃ。気を抜くな」

 テラが険しい顔で告げると、双子たちも揃って頷いた。
 セシルは思い出す。ファブールを襲ったバロン兵は、たちまちモンスターの姿に変わった。ここにいた人間があの時の兵士だったとしたら、ここに残されていた人たちは今どうしているのだろう。無事な者が残っているのかどうかも怪しい。
 バロン王はなぜゴルベーザをセシルの後釜に招き入れたのか。世界一の軍事力を持ちながら、更なる力を求めたのだろうか。セシルは悔しさで奥歯をギリギリと噛み締める。

 一行は王の間の目前までやって来た。あと少し、というところで一人の兵士がセシルの名を呼んだ。

「セシル殿」

 セシルが振り返ると、声をかけたのは彼のよく知る人物だった。セシルは表情を少しだけ柔らかくする。声の主が小走りで近づいてくると、セシルも一歩前へ出た。

「ご無事でしたか! 」
「ベイガン! 」

 セシルは知り合いの登場に喜んだ。もう誰もいないのかもしれないと思っていた。
 とはいえ、手放しでは喜べなかった。誰にゴルベーザの息がかかっているのか、見当もつかない。

「まさか君も……」
「私がどうかしましたか? 」
「ゴルベーザに、操られてはいないか」

 アンもベイガンの顔だけは知っていた。とはいえ、アンは飛空挺団の平隊員だ。近衛隊の隊長を務める彼の顔を一方的に知っていただけで、面識はない。まして男で通していたのだから、ベイガンはアンを知っているはずもない。アンはセシルとのやり取りを黙って聞くことにした。

「まさか」

 ベイガンは大袈裟な身振りで首を傾げながら肩をすくめた。がらんとした廊下に、彼の鎧がガチャガチャとうるさく響く。
 アンはベイガンに違和感を感じていた。漠然とではあるが、人から感じる気配とは違う気がする。暗黒騎士の装備よりももっと禍々しい何かを、この男からひしひしと感じていた。
 アンはそっと隣に立つテラを盗み見る。彼は泰然としているが、視線は鋭い。

「私とて近衛兵を治める身。バロンへの忠誠は誰にも曲げられません! 」

 ベイガンは高らかに宣言し、敬礼した。
 アンが双子達に視線を移すと、見るからに胡散臭そうな顔でベイガンをじろじろ見ている。次いでセシルに視線を移すが、どうやら彼は気づいていない様子だ。表情は決して明るくはないが、ベイガンの言葉を信じているような素振りだった。
 セシルはさらにベイガンに質問する。

「シドが捕らえられていると聞いたが」
「私ども、残った近衛兵で彼を助けに来たのですが、生き残ったのはこの私だけ」

 そう言うとベイガンは悔しそうに目を伏せ、うつむいた。それを聞いたセシルは厳しい表情で王の間を睨みつける。

「そうか……では一緒に行こう。君がいてくれれば、心強い」
「はッ! 」

 セシルとベイガンは並んで歩き始めた。二人にヤンも続こうとする。けれど、他の者は動かない。セシルは不思議に思い、ついて来ない仲間達を振り返った。

「どうした? 」

 セシルの問いにパロムが答える。

「臭うんだ」
「魔物の臭いですわ」

 ポロムもそう言うと、ベイガンはまた大袈裟にキョロキョロと辺りを見回す。それを見たパロムは、しらけきった顔をしてため息をついた。

「何、何処だ? 」
「だから、臭いんだよ! 」

 ベイガンはまだ魔物を探していた。腕を頭の後ろで組んだパロムは、その様子に少しイライラしている。

「お芝居するなら、もう少し上手くやって頂きたいものね」

 ポロムがベイガンを、自身の持っている杖で指した。

「まさか君も、ゴルベーザに……」

 セシルは愕然とした表情で拳を握りしめる。ベイガンは魔物を探すのをピタリと止め、小バカにしたような表情で一行を眺めた。

「やめて頂きたいですな、そんな言い方は」

 ベイガンが口を開くと同時に、彼の纏う空気がさっと冷え込んだ。ヤンは構えを取り、ベイガンの出方を伺っている。

「あのお方は、素晴らしいものを私に下さったのですよ。こんなに素敵な力をね」

 ベイガンはみるみるうちに人間ではなくなった。モンスターに姿を変え、セシルたちに襲いかかる。その様子はファブールでも見たバロンの兵士たちと同じで、セシルの感情は怒りと悲しみがない交ぜになっていた。

 ベイガンを倒すと、セシルは苦い顔で動かなくなったモンスターを見つめた。長年の知り合いを、まさかこんな形で亡くすとは誰が想像できただろう。

「甘いぜ、あんちゃん」

 下から聞こえた声にセシルが顔を向けると、パロムがじっと彼を見ていた。

「ベイガンまでも、こんなことに……」

 セシルの表情は悲痛そのものだ。セシルは握り締めた拳が震え、ぎゅっと目を閉じる。アンはたまらず彼の背にそっと手を置いた。
 どのくらいの犠牲が出たのだろうか。他国を攻め行ったはずのバロン内部は、セシルが考えていたよりもずっと崩壊が進んでいた。
 バロン王の暴走を止める事こそが、今となっては唯一の恩返しになるのだろうか。とはいえ、自分に彼の王を手にかける事などできるだろうか。セシルは次々に浮かんでくる答えの出ない考えを、頭の中でぐるぐると繰り返した。

20190701




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