34 真実
ドアを開けると、そこは息をするのも拒否したくなるほどの臭気と埃臭さが充満していた。むっとした獣臭が鼻をつく。
かつてその部屋は常に隅々まで掃除され、季節の花を飾り、バロンで一番上等な生地であつらえたカーテンがかけられていた。
王との謁見に使われるこの部屋は、国の顔と言っても過言ではない。王はそれを口癖の様にセシルや周りの者に言って聞かせ、いつも手入れには気を遣っていた。なのに、今や見る影もない荒れようだ。誰も世話をする者などいない事が窺える。
セシルはこの惨状にまた悲しくなった。まさか王がこんなにもこの部屋を荒らしたなどとはとても想像できないが、目の前のそれは現実だ。むしろ夢であれば良いと思った。
部屋の奥には、変わらず玉座が置かれていた。そしてそこには、セシルやアンのよく見知った人物がそこに座っている。しかし、久しぶりにま見えた王は、セシルやアンの記憶の中の王とは別人のように印象が違った。
王は足を組み、肘掛けに肘をついて頬杖をついている。威厳も風格も格段に落ちた。だらしない座り方もさることながら、ニヤニヤと笑う厭らしい表情は下品さがよけいに際立つ。
セシルたちは玉座の前まで進み出た。誰一人跪くことはしない。
先頭に立つセシルはジロリと王を睨み付けた。バロン王は彼らの態度をさして気にも留めず、セシルの姿を無遠慮に眺める。
「セシル、無事であったか。 随分逞しくなったな」
「陛下……」
セシルは複雑な顔をした。王は自分を追い出し命を狙った。戻ってみれば、バロン城は荒れ放題だ。なのに、セシルは心のどこかで、いつかはかつての王に戻るのではないかと淡い期待を抱こうとしていた。
またパロムに甘いと言われてしまう──セシルは意識の片隅で、俯瞰するもう一人の自分がそう叫んでいるのが見えた気がした。けれど、身体は鉛のように重く、王信じたい気持ちがムクムクと湧いていた。けれど、それはバロン王自身が撃ち破った。
「その姿はパラディンだな。そうか、パラディンになったか……」
バロン王は忌々しそうに顔を歪め、玉座から立ち上がった。そして一歩前に進み出ると、セシルの正面に立った。
「だがな。いかんぞ、パラディンは」
そう言うと、王はニヤリと笑った。なんとも言えない不気味な様に、アンは思わずぶるりと震えた。
セシルはきっぱりと迷いを捨てた。かつての恩人であり、親代わりであった人だった。そのために憎みきれず、諦めきれないままここまで来たが、それも限界を迎えた。
「陛下……いや、バロン」
セシルは低く鋭い声色で目の前の男を名指しした。しかし、呼ばれた男はさも愉快そうに笑う。
「バロン? 誰だそいつは? 」
王はそう言いいながら、芝居じみた身ぶりで大袈裟にまた笑った。言葉の意味を悟ったアンははっと息を飲み、セシルの顔はますます険しくなる。
セシルは毛が逆立つのではないかというほど、ざわざわと嫌な予感が過った。バロン出身でない仲間たちからは困惑の雰囲気が色濃く漂っている。
「おおそうか、思い出した。確かこの国は渡さんなどと言っていた、愚かな人間か。そいつになりすましていたんだっけなあ、俺は」
ひゃひゃひゃ、と下劣な笑い声を上げながら、王だった男は魔物に姿を変えた。
ぬらぬらと光る青い身体の背には、大きな甲羅がついている。魔物は大きな口から舌を出し、べろりと舌舐めずりをした。
セシルは身体中の血が一気に逆流しているかのような感覚を覚える。そして、これまで経験したことのないほどの怒りを自覚した。
「貴様、陛下を……」
「バロン王に会いたいか?」
剣に手をかけたセシルを挑発するように、魔物は笑いながらベラベラ喋っている。セシルの怒りはとっくに頂点を通り越しているが、魔物の話はまだ続く。
「ゴルベーザ四天王、水のカイナッツォがまとめて始末してやろう」
セシルはすらりと剣を抜いた。それが王でないなら、もはや何の躊躇もない。セシルは静かに、けれど火が吹き出すかのように激しい怒りに震えていた。
カイナッツォを倒した一行が武器を片付けていると、どかどかと派手な足音が王の間へ近づいて来た。機敏に察したヤンはすかさずドアへ向かって構えを取る。
「このー! 偽バロン王めがあ! 」
バンとドアを開け放たれると、恰幅のよい男が金槌を片手に怒鳴り込んできた。双子がビクっ肩を震わせ、その人物に注目する。一直線に玉座に向かう様は迫力があるが、玉座は既に空だ。しかし男はさらに吠える。
「よくもあんなカビ臭い所に閉じ込めおったな! ブチのめしたるわい! 」
男は威勢よく乗り込んで来たものの、セシル一行のポカンとした表情と無人の玉座に気付くとその勢いは急に衰えた。立ち止まって、男はキョロキョロと当たりを見回す。
「あ、あら? 」
男は振り上げた腕と金槌の行き場に悩みながら、彼もぽかんとし始めた。その男の顔を見るや、セシルは嬉しそうに笑いながら男の元へと駆け寄った。
「シド! 」
「セシルかあ! 生きとったんか! 心配かけおって、この……」
シドはセシルを確認すると、目を潤ませてセシルの背を抱き込むように手のひらでポンと叩いた。
「ローザはどうした? お前は生きとると飛び出して行ったが」
「ゴルベーザに捕われてしまった……」
セシルはうつむいて唇を噛んだ。
「お前がついていながら、なんという様じゃ! しかし、あのゴルベーザ……ワシの飛空艇たちを酷い事に使うばかりか、ローザまで! 」
鼻息荒く捲し立てるシドに、テラが食って掛かる。せっかちなテラは、今すぐにでも先に進みたかった。アンナの敵討ちも大事だが、今はローザの命にも関わる。
「その娘が危ないのじゃ。早く飛空艇とやらに案内してもらおう」
しかし、テラの真意は伝わらなかった。むしろテラの物言いにシドが憤慨し、余計な争いが生まれた。シドはイライラしながらセシルに聞いた。
「何じゃ、このジジイは」
どう答えるべきかと困惑するセシルをよそに、シド本人が割って入る。遂にシドとテラの口喧嘩が勃発した。
「お主に言われたくはない! 」
「ワシャまだ若いわ! 」
ぎゃあぎゃあと派手な言いに、一同は黙りこんでしまった。セシルはジジイ二人に圧倒されて、既に話すことを諦めている。
セシルの隣にやって来たアンは、シドを眺めながら口を開いた。
「この方が、セシルさんの仰ってた飛空挺の技師長さんですか……? 」
「そうだ。バロンの飛空挺の技術は彼にかかっている」
セシルはアンにそう言うと、困ったように微笑んだ。
「喧嘩っ早いのが玉に傷……だな」
そう言うと、セシルはシドの後ろに回った。そしてシドの両脇に手を入れ、テラの腕を掴もうとしていたシドを止めた。
今にも取っ組み合いを初めそうだったジジイたちを見比べながら、アンは杖を振り上げたテラの腕を取った。
すると、ポロムがトコトコと歩いてきて、にっこりと笑った。ジジイたちは思わず彼女に注目する。
「まあまあ……シドさまですわね。こちら、テラさま。 偉大な賢者さまですわ」
こうして5歳児が取り持つ事で、とりあえずこの場は収まった。ポロムは「大人気ねえな」と呟くと、そっぽを向いてしまった。しかし当のジジイ達は若者達に押さえられても、歯ぐきをむき出しにしてまだ喧嘩している。
アンは半ば呆れながらも、一種の同族嫌悪だろうかと勝手に解釈することにした。
20190704
ここでもシドによるカインの存在無視
セシルも何も言わない
ローザの心配はするのにな
シドは裏切ったことを知ってるんかしら
知らないなら一緒に心配してあげてよ……!と、思ったけど反映はしなかった
セシル的にはカインのことがショックすぎて触れられたくないとか?
D+S FF-D New!夢物語
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