D+S FF-D New!夢物語


35 固い意志



 一行は王広間の扉を開けて、謁見待合室に入った。
 相変わらずシドとテラは言い争いを続けている。二人は顔を真っ赤にしてぎゃあぎゃあと悪口の応酬を続けていて、アンはむしろ案外気が合うのではないかとすら思い始めていた。彼女の目の前を歩いている双子達は既に喧嘩に興味を失っていて、丁度壁際に向かい合わせに置かれていた対の騎士の像をキョロキョロ眺めてている。
 アンと並んで歩くセシルも、半ば呆れながら壁際を歩いていた。そしてその後ろにはヤンが続き、しんがりを務める彼も待合室へ入った。するとその瞬間、重い扉がひとりでに勢いよく閉まった。大きな物音に全員が扉を振り向く。

「セシルさん……何か、変です」

 アンはそう言いながら、勝手に閉まった扉を睨み付けた。セシルは「ああ」と返事し、鋭い眼光で待合室を見渡す。
 部屋の空気が俄に湿っぽくなり、魔物と共に消え去ったはずの禍々しさがまた漂い始めた。重苦しさを感じたアンは、冷や汗をかきはじめる。テラも言い争いを止めて、杖を構えた。

「まさしく。皆気を付けよ」

 テラの一言で一行が警戒を強めると、今度は天井から笑い声が降って来た。その卑しい笑い声は、つい先程倒したばかりの魔物の物だ。皆はっとして天井を見上げた。

「この俺さまを倒すとはなあ。だが、俺は寂しがり屋でな。死して尚凄まじい、この水のカイナッツォの恐ろしさ、とくと味わいながら死ねえ! 」

 セシルは剣に手を掛けた。しかしその時、ズドンと地響きのような音がする。そして、セシルの足に何か固いものが当たった。彼が見下ろすと、足が壁に触れている。決して壁には触れる位置に立っていなかったはずなのに。
 セシルが困惑していると、ヤンが叫んだ。

「壁が、動いている」

 ヤンが言い終わらないうちに、壁がまた僅かに内側に動いた。双子たちはお互いに抱き合い、恐怖でいっぱいの顔をしている。

「先に地獄で待っておるぞ」

 厭な笑い声を響かせながら、カイナッツォの声はだんだんと消えていった。そして、また少し壁が迫った。

「こりゃいかん! 」

 シドは慌ててもう一方の廊下に通じる扉へ走った。力の限り押しているが、扉はびくともしない。試しに引いてみても、やはりどうにも動かなかった。

「こっちもじゃ! 」

 シドと同時に王の広間へ通じる扉へ走ったテラとセシルも同じだった。扉が壁になってしまったかのように、全く開かない。アンはヤンと共に壁を押さえようとしていたが、自らの無力さを痛感するばかりだ。最早打つ手はないと、セシルは悔しげに唇を噛んだ。
 大人達が絶望する中、双子たちは互いに目を合わせて頷き合っていた。それに気付いたアンが不思議そうな顔をしていると、パロムは彼女にニッと笑った。

「姉ちゃん! あんちゃんを頼むぜ! 」

 アンが何を言うのかと言いたげな表情でいるがパロムは答えず、そのままセシルに声をかけた。

「あんちゃん、ありがとよ! 」
「お兄さまとお姉さまが出来たみたいで、とても嬉しかったですわ」

 ポロムはにっこり笑うと、次にアンの足元へ寄って来た。アンの反応を待たずにぎゅっとしがみつくと、「お元気で」と言ってすぐに離れる。
 セシルとアンが呆気に取られているうちに、双子は互いに背を向けてそれぞれ壁の方へ向かって立った。二人同時に呪文を唱える声はユニゾンのようにぴったりで、幾分狭くなった部屋に美しく響く。

「お前たち、何を」

 呪文の内容を悟ったテラが、驚愕と焦燥の表情を双子達へ向けた。けれど二人は動じない。
 この非常事態に於いても適正な魔力を正しく練り上げ、呪文を間違いなく唱える集中力は確かに彼らの類希なる才能だ。それを彼らは遺憾なく発揮している。そして、彼らの決意は揺らがないことは、その表情からも十分窺えた。
 アンははっとして二人に駆け寄ろうとした。その魔法をアンはまだ知らない。けれど、理解はできた。幼い二人が自らを犠牲にしようとしていることに気が付いたのに、彼らの強い魔力に阻まれて近付くことができない。

「あんたらを、ここで死なせやしない! 」 
「テラさま! アンさん! セシルさんをお願いしますわ! 」

 魔法を使わないセシルやヤンにも、双子の意図がようやく分かった。セシルは二人へ向かって足を動かし始める。焦りと驚きで足をもつれさせながら必死で走る。けれど、やはり彼もアンと同じ場所で動けなくなった。みしみしと音を立てて、壁がまた少し迫ってくる。

「行くぞ、ポロム! 」
「うん! 」

 双子達はさらに魔力を高めた。強い決意を秘めた魔法は遂に完成した。子供の物とは思えぬ完成度で、あとは最後に一言その魔法の名前を唱えるだけだ。ここまで来ると、もう誰にも止められない。
 セシルには諦められなかった。手も足も出せないが、どうにかしたかった。その思いが、彼のそれまでの人生で、発した事のないほどの大声を出した。

「やめろ! パロム! ポロム! 」
「ブレイク! 」

 セシルの叫びもむなしく、双子達は魔法を発動させた。彼らは瞬く間に石になり、迫る壁を抑える格好の二対の石像と化した。それはさながら、つい先程まで彼らがしげしげと眺めていた騎手の像のようだった。
 壁の動きが止まった。シドが再び扉を確認すると、何事もなかったかのように開く。

「パロム……ポロム……」

 セシルはヨロヨロと石化した二人に近づいた。二人にそれぞれ手を当てて、ゆっくりと頭を垂れた。アンはへなへなと腰を抜かし、呆然としている。たった今起きた事を、とても信じたくなかった。

「待っておれ……エスナ! 」

 テラは石化した二人を救うべく、彼の知りうる様々な魔法を試した。けれど、そのどれもが全く効果がない。二人の意志は強く、テラの魔法ですら受け付けなかった。
 ヤンは金の針を使ってみたが、やはりこれも何も起こらなかった。

「ばか者が! 死ぬのはこの老いぼれでよかったろうに! 」

 成す術のなくなったテラは、拳で壁をドンと殴り付けた。悔しそうに眼をぎゅっと瞑り、顔を壁に向けた。身体は僅かに震えていて、振り上げた拳が力無くゆっくりと降りてくる。
 壁はどっしりとして、もう動くことはなかった。

「こんな幼子が……」

 静かに合掌したヤンは、悲しみに暮れた顔を悔しさで歪めた。残された者はみんな同じ気持ちだ。テラとシドはわなわなと声を震わせながら、大声を上げる。

「この私が、無念を晴らす! 」
「弔い合戦じゃ! エンタープライズを出すぞ!」

 ジジイ達はぐっと手を握り合い、互の目を見た。息はぴったりだ。
 アンはまだ座り込んでいるが、シドとテラの様子を見て「やっぱり気が合っている」と思った。変なところで冷静な自分を嘲笑すると、すっと心が冷えるような心持ちがした。しかし冷静になるとまた深い悲しみが押し寄せる。アンは堪らずに、目の前にいるセシルを見上げた。
 セシルはすぐにアンを振り返った。そしてまだ立てない彼女に手を貸そうと、その大きな手のひらを差し出す。アンはその手を取って、ようやく立ち上がることが出来た。

 またひとつ悲しみの因縁ができてしまった。優しいセシルに、背負う十字架がどんどん増えて行く。この連鎖を絶ち切りたいのに、まるでゴルベーザの手のひらで転がされているかのようだ。アンは複雑な気持ちで背の高いセシルを見上げた。

「待っていろ、ゴルベーザ……」

 セシルは怒気を含む静かな声色で呟いた。表情は少し落ち着いて、平素の穏やかな顔だ。けれど、瞳は怒りで燃えていた。
 この人はどこまで強いのだろう。アンはセシルの精神力に、またしても感服していた。

20190707



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