D+S FF-D New!夢物語


36 後継者



 カイナッツォを倒したことで、バロン城内の禍々しさがなくなった。霧が晴れたかのようにさっぱりとして、中庭でさえ空気が澱んでいたのが嘘のようだ。
 どこ隠れていたのか、だんだんと人の姿も見られるようになった。城を元に戻そうとする動きが出始めている。
 とはいえ、人員はずいぶん減ってしまった。カイナッツォに殺された王を初めとして、魔物に変えられたベイガンや多くの兵士達、使用人の中には病気で倒れた者もいる。悪夢のような数ヶ月は、バロンに大きな損害を与えた。

 シドは飛空挺を竜騎士団の本部に隠していた。そこから隠し通路を使い、乗り込むことが出来る。
 シド曰く、最新式の飛空挺をゴルベーザに奪われないために通路を部下たちと必死で作り上げた、と言うのだからセシルは仰天した。

「灯台もと暗しってヤツじゃ! 」

 シドは得意気に笑うと、自慢そうに腰に手を当てた。テラも素直に感激した様子で、すごいすごいと興奮している。
 一行が話していると、後ろから声をかけられた。彼らが振り返ると、竜騎士団の兵士と飛空挺団の兵士が一人ずつ人立っていた。
 飛空挺団の方はアンと収穫祭で街の警備をしていたビッグスである。アンの心臓はドキドキと早い調子で動き始めた。
 兵士二人は兜を外して小脇に抱え、セシルに膝まづいた。まるで王に平伏するかのようで、セシルもアンも違和感を覚える。目線を落としたまま、ビッグスは口を開いた。

「隊長……いえ、セシル様」
「ええっ? 」

 セシルはぎょっとするが、兵士達は表情も態度もそのままだ。むしろ、当然だと言わんばかりで、心なしか彼らは瞳を輝やかせているようにすら見える。
 これまでもセシルは彼らの上官ではあった。だが、かといって部下達が跪く事も、彼を「セシル様」と呼ぶ事もなく、またその必要もなかった。アンも不思議に思い、セシルと兵士達を交互に見比べる。

「陛下亡き後、王位を継げるのはセシル様しかいません。城中その話で持ちきりですよ」

 誇らしげに答えるビッグスにセシルは驚いた。つい先程までは逆賊だったはずなのに、知らぬ所で今度は後継者に祭り上げられている。
 セシルは王に育てられたとはいえ、王の養子だったわけではない。また、たとえ養子であっても、通常なら王位を嗣げるものではない。セシルは顔中に「?」を浮かべている。
 王とすり変わった不届き者を成敗したのは確かだが、噂とはあっという間に広がるのもだ。恐ろしいものだとセシルは痛感する。アンもセシルと同じくらい驚いて、思わず考えている事が口に出た。

「セシルさんが、国王に……」
「いや……僕は何も……」

 セシルは困惑しきっている。彼は困って眉を寄せて、アンと顔を見合わせた。けれど、アンにも事の成り行きがよくわからない。
 アンはビッグスに視線を移した。

「ビッグス、その話は本当なのか」

 ここにいると、アンは無意識にアベルに戻ってしまう。アベルだった時のようにビッグスに問いかけた時、彼と目が合った。すると、呼ばれたビッグスは驚いて目を剥いた。その様子に驚いた竜騎士も、まじまじとアンの顔を見る。

「アベル……? アベルなのか!? 」

 ビッグスは幽霊でも見たかのような反応をする。手をわなわなと震わせて、目には涙が溜まっていた。アンはビッグスが彼女をそこまで気にしていたことを知って、心が暖まる思いである。

「ビッグス…」
「お前っ。死んだと思ってたんだぞ! 」

 無事でよかったとおいおい泣くビッグスにアンも近付いた。しゃがんで彼と目線を合わせる。

「ありがとう。無事だよ」

 アンがそう言うと、ビッグスがアンにばりと抱き付いた。

「この野郎心配かけやがって! この! 衣装まで変わって……ん? 」

 グイグイと首を絞めながら、ビッグスははたと気が付いた。アベルは女物の服を来ている。
 赤いベアトップは胸元を強調しているし、身体の線は細い。決して豊満ではないが、その姿はどう見ても女性である。アベルは男にしては小柄だったし、むしろこの方がしっくり来るくらいだ。
 ふと、ビッグスは視線を感じた。視線を辿って見上げると、セシルがアベルの後ろから目で「止めろ」と言っている。ビッグスがぱっと手を離したとの同時に、アンはゴホゴホと咳き込み始めた。

「悪い、アベル。お前、もしかして……」
「騙してて、ごめん」

 ビッグスは離した手をプルプルと震わせてアンを見つめた。うつ向いてしまったアンの目の前で、女だったのかとビッグスはひたすら驚いている。アンが息を調えていると、セシルが彼女の背を擦り始めた。

「こりゃ、驚いた……あれ? じゃあ、祭りの時は女の子と歩いてたのか……いやそれより、お前よく入隊できたな」
「うん……」

 返す言葉に詰まったアンは、床をじっと見つめた。セシルが国に戻るなら自分も戻りたいのだが、女は認めないと言われてしまえばそれまでだ。アンは絶望的な気持ちになっている。
 アンの背を擦る手を止めたセシルは立ち上がった。そして、ビッグスに声をかけた。

「ビッグス、今の隊長は誰だ? 」
「はッ。今は空席です。副隊長は僭越ながら、私が」

 ビッグスはすっと立ち上がり、セシルに敬礼した。

「そうか、なら……」

 ビッグスはセシルに王としてだけでなく、隊長としても戻って欲しいと懇願した。彼曰く、他の生き残った隊員達も同じ意見だと言う。しかし、王になるかはともかく、セシルの思惑は他にあった。

「僕はまだ、アンと共にゴルベーザを追うつもりだ。だから、飛空挺団は君が率いてくれ」
「セシル様がお戻りになられるまでは、このビッグスにお任せください! 」
「ああ、心強い。それからアンのことだが──」

 セシルはアンについてはそのまま団員として籍を残すように指示した。
 魔法を、特に黒魔法を使えるアンはバロンでは珍しい存在だ。力では劣るものの、剣まで扱えるとなると世界的にも稀である。セシルはそう力説して、アンの残留を図った。もちろん、アンもビッグスも異存はない。
 ただ、女であることが分かった以上、宿舎や役割などを完全に以前と同じには出来ないだろう、というのもセシルの意見だった。だが、彼女はまたセシルと共に旅立つ。とりあえず保留として、その場は済ませることにした。

 何も決まらないうちから一方的に「セシル様」と呼ばれることに、セシルはこそばゆい気持ちでいっぱいだ。
 出奔した時は全てを失くしたと思っていた。この数ヶ月がむしゃらに生き延びて来た。まさかこんな展開になるとは、人生はわからないものだ。

「城を乗っ取られるなんて……カインさんに会わせる顔が無いですよ」

 一通りの取り決めを終えて雑談していると、竜騎士はポツリとこぼした。セシルの顔が一瞬引き吊る。竜騎士はビッグスと互いに顔を見合わせて「なあ」と言い合ったが、セシルの様子には気づかない。

「カインさんはお元気でしょうか。ここにはいないようですが、きっとそうでしょう」

 ビッグスと竜騎士は、先を急ぐだろうからとセシル達をそのまま送り出した。だが、セシルもアンも内心穏やかではない。まさかカインに裏切られたとは言えず、かといっていつまでも隠し切れることでもない。何としてもカインも連れ帰らなければと、セシルは決意を新たにした。

20190710



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